arthur blythe

「ILLUSIONS」(SONY RECORDS SRCS7188)
ARTHUR BLYTHE

 先日亡くなったアーサー・ブライス。ライヴにも接することができた。じつは高校の時私が生まれてはじめて買ったジャズ雑誌にブライスの小特集が載っていて、いろいろ刺激的なことが書いてあったのだ。「彼はアルトにマイクを通さない。強靭な横隔膜をしているからマイクなど必要ないのだ」みたいなこととかいろいろ。アルトを吹きはじめたばかりの高校生としてはかなり衝撃的だった。当時ブライスはメジャーに移って意欲的な作品をガンガン出していた時期で、一枚一枚が冒険的でかっこよかった。なかでもこの「イリュージョン」は、チューバ〜チェロ〜ドラムスという変則的かつプリミティヴというかアナログなリズムセクションになんとあのブラッド・ウルマーを組み合わせるというグループがひとつ、そして、ジョン・ヒックス〜フレッド・ホプキンス〜ステーヴ・マッコールというシカゴというかAIR的なリズムセクションとの共演という、まったく色違いの2グループの演奏が交互に並べられている。とにかくレコードではじめて聴いたときは、1曲目がチューバがボッボッボッと3拍子のファンクを刻みチェロがずぶとく鳴り響くなかで、ウルマーのでたらめ変態ギターが疾走する過激なサウンド……そのすべてを従えてブライスがぶっとい音色でアルトを軽々と吹きまくる……という演奏で、それで全部持っていかれた。あとはひたすら拝聴するのみ。硬派なジャズトリオをバックにした演奏もすばらしい。そうなのだ。ブライスというひとは、サウンドに溶け込むというより、おのれのアルトで全体をひっぱる感じだと思う。そういうあたりはオールドジャズのマターなのだが、他の要素がぶっ飛びまくっており、このアルバムあたりがそういう変態的でかつかっこよくて力わざでしかも「ジャズ」から大きく逸脱したブライスの真骨頂だと思う。個人的には、マリオ・ブラウン、ジョン・チカイ、ロスコー・ミッチェル、ジョセフ・ジャーマン、オリバー・レイク、ジュリアス・ヘンフィル、アンソニー・ブラクストン、ヘンリー・スレッギル、そしてオーネット・コールマンすら「音色」というかソノリティの問題でいまいちピンと来ていなくて(凄いことやってるかもしらんけど、音がへろへろやん、ということです。すいません。その後、全員めちゃくちゃ好きになりましたが、それはずっとあとのこと)、どうしてエリック・ドルフィーや坂田明、梅津和時のような音で吹くフリー系のアルトはいないのだろう……という気持ちでいた私が唯一、こいつはすごいわと思っていたのがこのアーサー・ブライスの「音」だった。そんなこんなでずっと聴いていたブライスだったが、自分がアルトをやめてテナーにチェンジしたある日、たしか「イン・ザ・トラディション」の1曲目を聞いて、その音のあまりに甲高くて突き刺さるような響きになんとなく嫌になってしまい、持っていたブライスのアルバムを全部売るという暴挙に出たのだ。まあ、ブライスだけでなく、ほかにもフリー系のアルトはかなり売りました。今から考えると二度と入手できないようなものも含まれていて惜しかったなあと後悔しまくりだが、しかたがない。その後、ブライスは音色もおとなしくなって、演奏もマイルドになった。やはりこういうぴちぴち跳ねている行きまくりのブライスのほうが好きだ。その後、生も観て、なるほどなあ……と思ったりしていたのだが、訃報に接し、あらためてこうして聴き返してみると、すばらしいとしか言いようがない(ウルマーのギターが大きく貢献しているのは間違いないが)。いやー、ええなあ。しばらくブライスを聴き直したいと思っております。傑作。

「LENOX AVENUE BREAK DOWN」(COLUMBIA RECORDS JC35638)
ARTHUR BLYTH

 ジャケットが秀逸すぎて、アルト奏者なら皆このジャケットを壁に飾りたいと思うのではないか。私も高校生のときにそうしていた。しかし、LPは手放してしまったので、CDの大きさだと物足りない。しかも、今聞いているのはだいぶまえに買ったお得盤で4in1になってるやつ。4枚のうち、単独で持っているのは「イリージョン」だけなので、そういう意味ではお得はお得なのだが、ジャケットも4in1で、めちゃくちゃ小さく、魅力は半減どころかぼゼロである。音楽のデジタル配信だとジャケットがIPODやスマホの画面に入る程度の大きさになり、それもまた悲しい話である。閑話休題、本作はメンバーも豪華すぎて逆に引きそうになる。ベースがボブ・ステュアートのチューバとセシル・マクビーのツインベースって凄すぎるし、フルートはジェイムス・ニュートンだし、ウルマーは入ってるし、ドラムはなんとディジョネットだし、パーカッションはギルヘルム・フランコだし(私がガトー・バルビエリを観に行ったときのパーカッションのひと。ビリンバウすごかった)……。で、内容はどうかというと、1曲目がいきなりホイッスルが鳴り響くサンバ曲で、イントゥーのリズムにアルトとフルートが軽やかな、あれ? と思うような演奏が始まる。この曲にかぎらず、曲はけっこうポップなものも多く、ディジョネットのドラムは炸裂しているし、ウルマーのギターもイリージョンほどではないが適度に変態的な味わいをつけたしているのだが、全体には非常に聴きやすい。2曲目など不穏なテーマで、ドラムも弾けまくりでニュートンも爆発していて、チューバのめちゃいいソロもあって、マクビーの「なにがやりたいねん」的な変態ソロも含めてそうとうエグいのだが、1曲目からの流れがあるのでそういう風には聞こえない。これを1曲目にすればけっこうアルバムの評価も変わったかもなあ。2曲目の「長さ」はロフトジャズ的なものであって、この長くてちょっとダレるけど全員それぞれやりたいようにやりました感はけっして悪くないのだ。3曲目は7拍子の曲で延々と続くリフをバックにマクビーがわけのわからんソロをし、それが突如4ビートになってブライスが絶叫し、ディジョネットが叩きまくる。4曲目はチューバの低音が心地よいエスニックな曲。ブライスが熱いアルトを吹きまくる。ウルマーのギターはようやく本領発揮……とまではいかないがとても面白い。アルバム全体としてジェイムズ・ニュートンのフルートが、ニュートンとしては相当軽やかでメロディックで、それもまた聴きやすさの一因だと思う。主役であるブライスのアルトはいつもどおり暑苦しく、ぶっとい音色で高音をびゅんびゅん鳴らしているのだが、それがバックのカラフルさ、ポップさに溶け込んでしまい、ロフトジャズのブライスを期待すると、「え?」と思うかもしれない。まあ、メジャーレーベルというのはこういうものだ。チューバとベースが同居しているので、なんとなく変〜な空気はずっと持続していて、聴きようによってはかなり硬派なアルバムだとは思うが、印象としてはポップな変態フュージョン……という感じ。ときどき図太いチューバが自己主張したり、ウルマーがぎゃんぎゃん吠えたりするのだが、「曲調」というのは怖ろしいもんで、それを掻き消してしまうのだ。私なりの結論としては、なにもかも1曲目の印象が全体を支配してしまった、という感じ。ほかの3曲はかなりゴリゴリなんですよ。久し振りに聴いてみて、あー、そうそう、こんなんやったなあと思い出した。ときには「え? カリフォルニア・シャワーやったっけ」と思うような演奏もあり、しかもそれがこれだけの猛者を集めたうえで、どうしてこうなるのかよくわからん感じなのだったやっぱりあの当時もブライスは「イリュージョン」と「メタモルフォシス」「グリップ」あたりをよく聴いていて、これはあんまり聴かなかったかも。でも、ジャケットは秀逸だし、ディジョネット〜ウルマーという組み合わせはなかなかないので貴重では? 私は好きなアルバムです。

「IN THE TRADITION」(COLUMBIA RECORDS JC36300)
ARTHUR BLYTH

 これこそ、私にブライスのレコードを全部売ってしまおうという気持ちにさせた元凶的アルバムで、それまではなんにも考えずに聴いていたのだが、あるとき突然、1曲目の「ジターバッグ・ワルツ」のテーマやソロ(あと2曲目の「センチメンタルムード」のピアノソロあとの高音)が耳障りに感じ、なんか「キーッ」と思って全部売ってしまったのだ。今にして思えば体調が悪かったのかなにかの神経症的なものだったのかよくわからん。でも、このアルバムでのブライスは「おいおい」と言いたくなるほどフラジオを連発しており、しかもブライスのフラジオはなんというか癇に障るような「キーーッ」とい音なのだ。細くてミストーンみたい、というのとはまたちがって、非常にクリアな太い音なのだが、クリアなだけにイラッとする感じ? そこがええねん、というのは今でこそ思うことで、当時(大学のころ)はそこまでの度量がなかったのねんのねーん(青田赤道風)。それと、ブライスにスタンダードをやらせるという企画自体が、「えっ?」……なのであって、もともとスタンダードをバリバリやっていたであろうブライスにとってスタンダードをやることにはなんの問題もなかっただろうが、そういうところからファンクジャズつーのかフリーファンクつーのか、ロフトジャズ的なもののなかから新しい音を模索して、やっとたどりついたのが「イリュージョン」的音楽観だとすれば、本作のような先祖がえりはけっこうな両刃の剣だったのかもしれない。1曲目の「ジターバッグ・ワルツ」なんか、テンポの設定のせいなのか、ブライスは力任せに軽々と吹いていて、その「軽々さ」がなんともセッション的というか安直な感じが若干なきにしもあらずに聞こえる。ブライスはめちゃくちゃ上手いし、どんな素材もこなすし、なんでもできるのだが、その器用さがすごく聴こえてくる。ジェイムズ・カーターのような、「ゴリゴリの器用さ」みたいな……。それにしても、ブライスがこのメジャーレーベルでスタンダードをやりまっせ、というときのリズムセクションに、スタンリー・カウエル、スティーヴ・マッコール、フレッド・ホプキンスという3人を選んだことはまことに興味深い。とくにカウエルは、ブライスのめちゃくちゃ凄いけどときに一本調子に聞こえるような力押しの演奏をじつに巧みに深みと陰影のあるものにつくり上げていて素晴らしい。本人のソロもかなりエグくて、オールドスタイルからフリーまでを行き来するような演奏で、本作の立役者という気もする。あと一言、全体に「テンポ速くね?」ということで、あとちょっと遅くしていれば、どの曲ももっとよくなった……とか思ったり思わなかったり。

「BLYTHE SPILIT」(SONY MUSIC ENTERTAINMENT BGOCD1242)
ARTHUR BLYTHE

 本作は、私が「ブライスはもうええ」と思ってアルバムを全部売ってしまったあとに出たものなので、ほとんど記憶にない。ジャズ喫茶で何度か聴いたことがある、という程度だ。だから、今回ほぼお初に近い感じで聴いてみたわけだが、いやー、めちゃくちゃいいじゃないですか! ベースのかわりにチューバが入っているのも相変わらずで、メジャーレーベルでも筋を通すブライスの姿勢を感じる。どの曲も「突き進む」という感じのブライスの重戦車のような演奏が心を打つ。ブライスって、フリージャズでもなんでもなく、ただただジャズの王道なのだねー。ひたすらひたむきで情熱的なブロウは、たとえばジョニー・ホッジスやアール・ボスティックを思わせる。ブライスは、オーネット・コールマンやドルフィーではなく、もっとディープでスピリチュアルな先人からイマジネーションを得ているのではないだろうか。ええことであります。超アップテンポの「ストライク・アップ・ザ・バンド」でもブライスはフリーキーに吹いたりせず、ドライブしまくるリズムセクション(すばらしい!)と混沌としたチェロなどの空間のなかをただただストレートアヘッドに吹きまくるのだが、なぜかそれが非常に自由で先鋭的な演奏に聞こえる(事実、そうなのだろう)。「ミスティ」もクールなようで熱い。アミナ・クローディン・マイヤーズのオルガンを入れた「ジャスト・ア・クローザー・ウォーク・ウィズ・ティー」も、デキシーでよく演奏されるトラディショナルだが、この曲など聞くと、ブライスはオールドスタイルな雰囲気をがっつり作っておいて、そのなかで自分を全開にしたブロウをすることで、伝統と前衛というものをぶち抜くことに成功したのだなあと思う。傑作。

「THE GRIP & METAMORPHOSIS」(BOMBA RECORDS BOM574)
ARTHUR BLYTHE

 ブライスの初期の代表作2枚をカップリグしたアルバム。通常、2on1とかは鬱陶しく思われがちだが、本作はかえってこのほうがいいのではないかと思われる。というのはこの2枚は同じ日の同じ場所でのライヴ録音で、それを2枚のレコードに分散して発売したものだからだ。おそらくこのCDの曲順のほうが当日のものに近いのではないかと思われる。1曲目は、ライナーを書いている松尾史郎というひとが、「まちがいなく70年代屈指の無伴奏サキソフォン・ソロであった」と書いていて、なんの根拠があるのかさっぱりわからないが、まあ、すばらしい演奏だが、こんな風に書かれてるとなんかさめる。しかし、レコードのときこの曲はB面のいちばん最後、つまりアルバムのラストに置かれていたわけで、それがアルバムの冒頭に来る、というのはまったく印象が変わってしまう。これはブライスがすごいのか、再発2on1をプロデュースしたひとがすごいのか、それともなんにも考えていない結果なのかはわからないが、めちゃくちゃ強烈な印象を聴き手に与える曲順である。私は、「ザ・グリップ」も「メタモルフォシス」も売ってしまったので、あんまり覚えていなくて、この1曲目が無伴奏ソロ(しかもタイトルが「マイ・サン・ラ」)というのは正しい配列だと思う。テーマ性のある即興(「イリュージョンズ」で再演している)。2曲目はパーカッションとのデュオで、きっちりしたテーマのある曲。タイトルの「ナイル下流」どおり、満々たる褐色の水の流れがイメージされる。という具合に、なかなかバンドとしての全体像を見せてくれないなあ、と思っていると3曲目でようやく全員登場。フリーなイントロからボブ・スチュアートのチューバがベースのパターンを刻み、ドラムが入ったとおもったら、全員でベースラインと同じフレーズをユニゾン、そして、アルトが吹き伸ばしのテーマを。サビはまたべつのパターン……というなかなかに複雑な構造の曲。チューバがこういう風に決まったラインをリズミカルに吹くと、バンドとしての音がスカスカにあり、そこがもうなんともいえない味わいなのだ。このへんのことを昔、ブライス自身がインタビューで語っていたのをジャズライフで高校生のときに読んだような記憶がある。ベースだと、ぶーんぶーんと弾くが、チューバだとボッ、ボッと吹くので、サックスのソロもそれに応じて変えねばならない、というかなりリアルな演奏上の話だったと思う。アーメッド・アブダラーのトランペットも切れ味良く、チェロも不気味な弾き方でかっこいい。4曲目も、3曲目同様のひねったテーマを持つ曲。テーマが終わると同時に超アップテンポでフリーキーになる。ブライスのアルトはどんなときでも音がでかくて芯があるのでよく聞こえるなあ。なお、レコードのときはこのフリーな曲が1曲目だったわけで、やはりこの2on1の曲順のほうが正解だと思う次第です。めちゃくちゃするブライスに対してアブダラーのトランペットは筋を通したしっかりしたもの。かっこいい。ドラムソロもイマジネーション豊かでええ感じ。5曲目はチェロとのデュオ。途中からどっちがチェロでどっちがアルトかわからなくなるような演奏になり、なんかめちゃくちゃおもろいなあと思いながら聞いていると、最後はまたアルトとチェロが分化してエンディング。6曲目は「メタモルフォシス」のほうのタイトル曲(エラボレイションズで再演している)。リズミックで楽しげなテーマなのに、ソロに入ってしばらくするとフリーな感じになり、テンポもソロイストの勝手にどんどん変わり、リズムセクションはそれについていく。途中からチューバがベースラインを放棄して、ふぉぉーっ! と象のように咆哮したりして、ものすごく面白い。ブライスが引っ掻き回すだけ引っ掻きまわしたあと、一旦途切れて、アーメッド・アブダラーのソロになるのだが、ドラムとの対決の様相をていしていてすばらしい。このひとはほんと、レスター・ボウイのようにフリーキーにならず、どんなときもきっちり吹くなあ。最後はなぜかアルトによるバラードのようになって終わる。不思議な構造の曲。7曲目は、「グリップ」に入っていた曲で、唯一ブライスの曲ではない。フリーな感じのバラードだが、一旦終わって、チューバとチェロによる幻想的なノーテンポの場面になる。ここがすごく面白い。次第に盛り上がっていったところでアルトがふたたびテーマを吹く。8曲目と9曲目は「メタモルフォシス」に入っていた曲。8曲目はもとはA面全部を占めていた曲で、印象的なリフではじまる全編チェロとアルトのデュオ。ブライスの、でかい、輝くようなしっかりした音で吹かれる、アイデアが明確なフレーズの数々にチェロがさまざまな引き出しを開け閉めしながら対応していく。すばらしい。こういうのをずっと聞いていると自分でもやれそうな錯覚を覚える。なぜかというとブライスが、いわゆる超絶技巧をほとんど使わず、シンプルなことしかしていないからだが、それなのにこのデュオは最高なのである。最後の最後に一応最初のリフが再登場してエンディング。ラストの9曲目は不気味な雰囲気のテーマを持った、いかにもロフトっぽい曲(偏見?)。混沌としたなかで全員によるコレクティヴインプロヴィゼイションが展開する。チューバとチェロ、ドラムのトリオか自然発生的にビートが生まれ、また消えていく。こういう(良い意味で)ダレたところが楽しく味わえるかどうかによってロフトジャズの受け取りかたはかなり変わってくると思う。ロフトジャズは客のまえで行われる実験だからである。

「HIPMOTISM」(ENJA RECORDS R2 79672)
ARTHUR BLYTHE

 傑作。というか大傑作。というか超ウルトラ傑作。コロンビアの諸作から、エンヤに移った(たしか)第一作である。コロンビアの後期は「ほえ?」という感じのものもあったので、エンヤ移籍は大正解だった……とリスナーとしては思うのだが、本人としてはどうだったのか。とにかくめちゃくちゃすばらしい。ヴィブラホンのガスト・ウィリアムス・チリスが効いているが、ほかのメンバーも最高で、ドラムはドン・モイエ、チューバは盟友ボブ・ステュアート、ギターがこれも盟友ケルヴィン・ベル(kelvinという表記になっているがどうやらkelvynが正しいらしい)、そしてアフリカンパーカッションがアルト・トゥンクボヤシ(と読むのか?)という布陣。そこにハミエット・ブルーイットが曲によって参加……という豪華なメンバー。しかし、ただ豪華なだけでなく、なにかを生み出すに必要な顔ぶれである。1曲目はアルトとマリンバ、幻想的なヴォイスによる演奏で、マリンバとヴォイスは同じフレーズを延々ループし、伸びやかなアルトが淡々とフレーズをつむぐ。スピリチュアルで民族音楽的な匂いもするが、スピリチュアルジャズとかああいう感じではなく、もっとシンプルで宗教歌的な雰囲気もある。この1曲目がアルバム全体に与える影響は大きく、いつもこの曲でなんとなく聴く姿勢が引き締まる。2曲目はチューバのベースラインの吹き方がかっこいい。「キャラバン」に似た曲、というか「キャラバン」そのものなのだが。3曲目はシャッフルっぽいリズムの楽しい曲。ブライス節としか言いようがないフレージングの見本市のようなソロに続き、ケルヴィン・ベルのきゅんきゅんいうギターがフィーチュアされる。チューバのベースラインからはユーモアを感じる。4曲目は速い4ビートで、不穏な雰囲気漂う、ロフトジャズの名残りが感じられるような演奏だが、パワーや熱気はそのままなのに全体にすっきりまとまっていて聴き手をぐいぐいひっぱっていく力がつねにあるところが90年代の演奏だなあ、と思う。パーカッションやチューバが大活躍しており、ガスト・ウィリアムスのヴィブラホンのソロも鋭くてかっこいい。タイトルチューンの5曲目はゆったりとした7拍子のグルーヴが延々続く、シンプルなテーマの曲。ブルーイットのバリトンが炸裂する。ええ音やなー。とにかくグルーヴを聞かせる曲で、ソロは短め。そういう趣向らしい。6曲目はパーカッションとヴォイスをフィーチュアした曲で、ブライス〜チューバ〜パーカッションというトリオ。テーマリフの最初の吹き伸ばしのところの「ため」をどんどん長くしていき、変なリズムになっていく快感。でも、なぜかビート感はまるでそこなわれない。リズムっておもしろいですね。ときどきパーカッションがアフリカの言葉らしいものを叫んでいるが、おそらくちゃとした意味のある言葉なのだろうが、でたらめに聞こえる。全体がそういう感じなのだ。7曲目はブライスとブルーイットの2管だけのからみではじまるが、ラフな演奏のなかに音楽的な蓄積やテクニックがありったけ詰め込まれており、興奮する。全員が参加してからも、基本的には譜面のない即興なのかと思う(一応、ブライスの作曲ということになっている)。一番最後にテーマリフらしいものが顔を出し、そのまま終わっていくのだがよくわからない。とても自由で面白い演奏。8曲目は「ブッシュ・ベイビー」の再演で、チューバとパーカッション、ギターが躍動しまくる。やっぱりええ曲や! ブライスのソロもいきいきしている。ギターソロも変体ぶりを遺憾なく発揮している。ラストテーマになってからもまだまだ盛り上がる。9曲目は「マイ・サン・ラ」をアルトの無伴奏ソロ。「ザ・グリップ」でも無伴奏で吹いていた。美しく、また、個性的な音(とくに高音)で、緩急をつけながら切々と歌う。エンディングもかっこいい。というわけで、ブライスの問答無用の大傑作であります。全曲オリジナルで固めた意欲作。ライナーノートの、メンバー全員のアホな写真も楽しい。

「TODAY’S BLUES」(CREATIVE IMPROVISED MUSIC PROJECTS CIMP#158)
ARTHUR BLYTHE & DAVID EYGES

 ブライスとエレクトリックチェロのデヴィッド・エイジズのデュオ。16曲が収録されているが、5分をこえるものはない。どれも短い演奏ばかりだ。チェロがピチカートで同じラインを弾き、ブライスがメロディを朗々と吹く一曲目からすでにこのアルバムのコンセプトというかテーマ性がわかる。丁々発止の即興、大げさなブロウなどはない。ライナーで当人たちが書いているとおり、ここにあるのはブルースやフォークミュージック、スタンダードジャズ……といった「アメリカの民族音楽」を今日の視点で捉えなおした演奏である。といって、そういった素材が実際に演奏されているわけではなく、全曲が二人のオリジナルである。タイトルを見てもわかるように、ブルースやフォークソングなどを演奏していなくても、そういう匂いが湧き上がってくる……そんな演奏ばかりがぎっしり詰まっている。一曲の短さがよい。本当に珠玉の、宝物のように大事にしたくなるような曲ばかりで、聴いているとしみじみ「ええなあ……」と思う。盛り上げようという気持ちはほとんど感じられず、逆に早く終わろう、このあたりでやめよう、という感じが伝わってくる。ブライスもかつての切り裂くような、突き刺さるような高音やぶっといラーセンの音は一切封印し、ふくよかで押し付けがましくない音で吹いている。その分、一聴でブライス! とわかる個性は減っているわけだが、フレージングその他で十分自己主張がなされており、エグい音でブロウすることでこの作品の主旨が減じるより、コンセプトを大事にした結果だと思う。このアルバムは本当に「愛聴盤」といってよくて、「聴きたい!」と思ってかけるというより、なんとなーくしょっちゅう聴いてしまう。それにしてもチェロのデヴィッド・エイジズというひとはめちゃくちゃ上手い。デュオの相手としてこれ以上のひとはなかなかいないだろう。1曲だけこのひとのソロが入っているが、それもいい(「祈るひと」というタイトルだが、まさにタイトル通りの演奏で聞き惚れます)。「マイ・サン・ラ」もまたまたやっていて、ブライスがこの自作曲を本当に愛していたのだとわかる(あいかわらずソロで演奏している)。タイトルになっている「トゥデイズ・ブルーズ」はブルーズフィーリングの曲だが、形式的にはブルーズではない。この曲でのふたりの絡みは最高です。
 晩年のブライスが、かつてのような轟音でのプレイやフラジオでの挑みかかるような演奏をしなくなったことについては、いろいろ意見もあるだろう。それは意識的にそうしているのだ、という意見と、こういう風にしか吹けなくなったのだ、という意見に分かれると思う(パーキンソン病に苦しんでいたという話も聞いている)。私はどちらだかよくわからない。しかし、どっちでもいいじゃないか。このアルバムに聴かれるようにブライスはこんなにすばらしく豊穣な表現ができているのだから。そう思います。シャッフルして聴くのもいいかもしれない。傑作!