louie belogenis

「THE OTHER SHORE」(BOXHOLDER RECORDS BXH040)
EXUBERANCE

 ルイ・ベロゲニスとロイ・キャンベル・JRの双頭バンドで、ウィルバー・モリスに捧げたアルバムらしい。オーネット・コールマンの初期の演奏を忠実に引き継いでいるような、変態バップ的なテーマからソロ回し……という非常にシンプルで地味な、だが、ある意味ストレートアヘッドでシリアスな演奏が並んでいる。ロイ・キャンベルは好きなプレイヤーだが、大味なところと小味なところが同居しており、曲によってそのどちらかが出る。一方、ベロゲニスは「うまいな〜」と思う。悪い意味ではない。フリージャズの八方破れ的なところがなく、楽器がよく鳴っているし、フレーズやスケールを普通にうまくアーティキュレイションをつけて吹けるし、普通の意味でテクニシャンである。だが、そういった普通の技術というものはフリージャズをやるうえではときに足かせになる。自由に吹こうとしても、そういった「培った技術」みたいなものが顔を出す。そんなミュージシャンは多い。しかし、このルイ・ベロゲニスやアシーフ・ツァハーなどは、ありあまるテクニックを足かせにせず、逆に道具にしている点で新しい世代のフリージャズミュージシャンだと思う。やっぱりフリージャズだってうまいほうがいいよなあ、と思わせてくれるアルバム。だが、ベロゲニスには、ラシッド・アリとのデュオで延々一曲20分……みたいなパワーミュージック的側面もあり(ラシッド・アリの項目参照)、決してこの盤での姿がすべてではないが、こういった小気味よい短編集的フリーもちゃんとできる、というのは大事なことだと思う。いちど生で見たいものです。双頭バンドなのだが、プロデュースその他からして、ベロゲニスの項目に入れた。アイラーレコードからこのバンドのライヴもでているようだが、それは未聴。聴いてみたいなあ。

「BELLS」(KNITTING FACTORY WORKS KFW190)
PRIMA MATERIA WITH RASHIED ALI

「プリマ・マテリア」というのは、ルイ・ベロゲニスがリーダーのカルテットで、そこにラシッド・アリがゲストで加わったものではないか、と思っていたが、このグループは、ほかにも「ピース・オン・アース」「メディテイション」といったコルトレーンにトリビュートしたアルバムを残しており、そのいずれもラシッド・アリが参加しているので、もしかしたらラシッド・アリとベロゲニスの双頭バンドなのかもしれない。ある資料には、もともとベースにウィリアム・パーカーが参加しており、2ベースだったが、パーカーは脱退した、とあった。まあ、よくわからん。とりあえず、ベロゲニスがライナーノートを書いているし、(ラシッド・アリとともに)プロデュースもつとめているので、ベロゲニスの項目に入れた。ニッティング・ファクトリーにおけるこのグループのライヴで、収録曲はなんとアイラーの「ベルズ」のみ。一曲が1時間5分15秒という長尺ものである(ただし、5パートに分割されている。5パート目はただのメンバー紹介で、こんなものわけてもしかたないと思うけど……)。音楽をいいとこどりでダウンロードし、アイポッドで何百曲と持ち歩くような今の時代にとうてい受け入れられる音楽ではないが、こういうアホでエネルギッシュな試みこそ大事にしなくてはならない。で、肝心の演奏だが、やはり1時間強のあいだテンションを維持するのはなかなかむずかしいようで、ダレる瞬間もある。だいたいが似たような展開ではあるし、ラシッド・アリが例によって「気持ちはあるんだけど、技術が……」的荒っぽい、型にはまったドラムをずっと叩いていて、演奏家もさることながら聴き手のほうがテンション維持がむずかしい。しかし……しかしである。それにしてはなかなかがんばっているほうだと思う。アルトのひとはぜんぜんしらんひとだが、フリーの嵐のような演奏のなかで、朗々とメロディックなラインを吹き、存在感を示す。ルイ・ベロゲニスは相変わらずのすばらしい吹きっぷりで、さすがにアシーフ・ツァハーと並ぶ若手フリーテナーの雄だけのことはある(私が言ってるだけだが)。ベロゲニスのファンなら買って損はない一枚。ただし、ラシッド・アリがどうも……というひとには向きません。

「TWICE TOLD TALES」(DIW RECORDS DIW−944)
LOUIE BELOGENIS

 最初聴いたとき、めちゃめちゃおもろいけど、テナー吹き以外にとってはどうかな……と思った。たとえば、ギターのひとが何人か集まってのライヴなどを聴いていると、本人たちはいかにも楽しそうに「お、そうきましたか。じゃあ、私はこっちから」「なるほど、さすがですね。でも私なら……」「おお、それ知ってるのか。私だってほら……」みたいな感じで和気藹々、喜々として弾いているにもかかわらず、我々ギタリストでない人間には、なにがおもしろいのかさっぱりわからないような演奏ってあるでしょう? このアルバムは、音楽的にももちろんかなり高いところにあるとは思うが、正直、ちょっとそういったギターミュージック的な部分に片足を突っ込んでいる感なきにしもあらず……と思った。で、久しぶりに今回聴き直してみたのだが、いやいや、やっぱりかっこええなあ、ルイ・ベロゲニスとトニー・マラビーが組んでるのだからあたりまえか、聞き所満載やなあ、と感心した。フリージャズ+びしびしのキメ……みたいな演奏は、どちらかというとマラビーの音楽ではないかと思うが、リーダーはベロゲニスなのであった。──しかし、こういう聴き方も、じつは私のテナーサックスオタク的な耳によるものかもしれないが。こういった「テナーサックスミュージック」的な演奏というと、リーブマンがらみのものをいろいろと思い出す。エルヴィンのライトハウスは、エルヴィンの存在によってそうなることを免れているが、近年のリーブマンのリーダー作でテナー二管のものは、かなりの確率で「テナーオタク」向けになってしまっているのではないか、と内心思っているがどうだろう(だから、あかんというわけではなく、逆に私にとっては喜びではあるが……)。あと、タイトルがすばらしいと思った。このアルバムにぴったりである。

「REJUVENATION」(ESP−DISK ESP4052)
FLOW TRIO

 テナーのルイス・ベロゲニスのワンホーン、ピアノレストリオによる演奏。最近しばらく名前を聞かなかったが、こうしてがんばっているのを知ってうれしい。ただ、内容は、ときどき聞いているほうの緊張感が途切れる瞬間があるかも。最初から最後まで、おなじようなタイプの演奏が続くのも、その一因か。ベロゲニスのテナー自体は立派で、ガッツのある、野太いブロウを聴かせてくれるが、トータルではもっとストレートに、果敢に攻めてくれたほうが好きかも。バンド名が浮遊トリオなので、そういった、ややふわふわした感じを出そうとしているのかもしれない、とは思いました。

「BLUE BUDDHA」(TZADIK TZ4010)
BLUE BUDDHA

 えーっ、あのルイ・ベロゲニスが? TZADIKから? しかもトランペットがデイヴ・ダクラスでドラムがタイショーン・ソーリーでベースが……げっ、ビル・ラズウェル? どうなっとんねん! もちろんただちに聴いた。めちゃめちゃええやん。これまでのベロゲニスは、遅れて来たアイラー系テナーで、ラシッド・アリなどにかわいがられながら、ニューヨークの仲間たちとアンダーグラウンドシーンでがんばってる、私好みのテナー奏者……という感じだったのだが、本作では完全に一皮も二皮も剥けたような自信にあふれた音楽を展開しており、ああ、やはりこのひとは凄腕だった、いいテナーにはいいリズムセクションが必要だなあと思ったが、単にテナー奏者としてだけでなく、ここで繰り広げられている音楽自体が従来よりもずっと大きな世界観のあるものになっており、きっと本作で開花したというより、これまでもこのひとはこういう深い音楽をやりたいと思っていたのだが、場に恵まれなかっただけなのだと感じた。そらまあ、これだけのメンバーを集めるには金もかかるやろからなあ。でも、とにかく本作は凄くて、なかでもビル・ラズウェルの存在は大きく、演奏をかなりキワキワのキレキレなものにしている。そしてもうひとりはタイショーン・ソーリーのアグレッシヴかつ包容力のあるドラム(めちゃかっこいい!)。このふたりの作り出すリズム世界に、ベロゲニスのテナーは真っ向からドストライクのブロウをぶち込んで、ディープでスピリチュアルで、かつフリーキーな演奏が繰り広げられている。こういうセッティングで聴くと、たのひとのテナーの音の艶やかさや楽器コントロールの見事さもあらためてわかるなあ。ゆったりしたロングトーンの音にほれぼれする。2曲目のドラムとの激しいデュオも最高。いやー、コンポジションもいいし、めちゃくちゃ気に入りました。もちろんデイヴ・ダグラスもすばらしいですよ。やっぱりこれはジョン・ゾーンのプロデュース力なのかなあ。ゾーンは、ベロゲニスの演奏を聴いて、共演者はたぶん、えーと……こいつとこいつと……あとこいつがいいんじゃない? みたいに適格な人選をしたのだろうと思う。ベロゲニスの本当の実力というか音楽性はこれまでもその片鱗は感じられていたのだろうが、今回のセッティングにおいてはじめて完璧に発揮された、といったら言い過ぎだろうか。作曲・構成力をはじめ、アブストラクトなプレイ、モーダルなゴリゴリしたプレイ、フリーキーに暴れ倒すプレイなど、底の深さと幅の広さを存分に見せつけて感動的である。一種のオールスターバンドなのだが、オールスターたちを相手にまったくひけをとらずに自分のなかに呑み込んでしまう大物ぶりにちょっと感涙。本作がベロゲニスの到達点であり、また新たな出発の第一歩でもあると思う。がんばれベロゲニス。応援してまっせ! 傑作。なお、本作はルイ・ベロゲニス名義ではなく、ブルー・ブッダというバンド名義らしい。