sil austin

「真夜中のサックス・ムード」(UNIVERSAL MUSIC COMPANY UICY−80010)
シル・オースチン

 シル・オースチンといえば、サム・テイラーと並ぶムードテナーの王様だが、硬派(?)なアルバムとしては、ガッツのあるR&Bばかり集めたポリグラムの「スウィング・ステーション」とか、同じくホンカーのレッド・プライソックとのテナーバトル「バトル・ロイヤル」、ブラックトップから出ていたテナー3人によるバトル「ザ・トリサックシュアル・ソウル・チャンプス」(このときはけっこうよれよれ)……などが思い浮かぶだけで、あとはたいがい「ダニー・ボーイ」「ハーレム・ノクターン」……なんかをストリングスをバックに歌い上げるようなものばかりだ、と思っているかたもいるだろうが、本作はたしかに同じような企画であり、「ハーレム・ノクターン」「枯葉」「サントワマミー」「ダニー・ボーイ」「スターダスト」……と選曲だけみると、ああ、よくあるやつか、と思ってしまうけど、これはなかなか面白いのです。ストリングスやコーラスのかなり凝ったアレンジのうえでシル・オースチンがそれをぶち壊しそうなほど可能の限りブロウしている(「ダニー・ボーイ」なんか延々とグロウルしてて凄まじいですよ)。そして、そういう演奏のお手本のような細かいテクニックの数々が、良い録音のせいもあって露骨にわかります。ホンカー好きで、ムード系はちょっと……と思っているかたも一度お試しを。ビッグ・ジェイか! と驚くようなブロウが(ところどころで)聴けますよ。「サマー・タイム」における、コーラスが「でゅわわわー」と入るアレンジやら、「グリーンスリーブス」のテーマのヘンテコな吹き方やら、笑いどころも満載。ときどきアルトやソプラノが入ってるのだが、本人が持ち替えているのか、べつのひとなのかはよくわからない。多重録音の可能性もあるかも。