<当直日誌>


・超モンスターペイシェント 6/3

先日超モンスターペイシェントに出くわしてしまいました。腹部の超音波検査の最中に、
「では向こう側を向いて横になってください。」
と言ったら、
「向こうとはどっちだ!左を下にした横向きとか、右を下にした横向きとか言え!俺は馬鹿じゃないんだ。どうしてそういういい加減な言葉を使ったのか理由を言え!!」と。
診察中に
「俺は健康に気を使っているから、天ぷらや焼肉は一切食べない」と言うので、
「では肉はほとんど食べないのですか?」と質問したところ、
「肉は食べないといっているのに、もう一度肉を食べるか聞くとはどういうことだ!!人に同じことを2回も聞く失礼な行動を取るにいたった顛末を言え!」
「顛末とはどういう意味だかわかるか!答えろ!!」
「人を馬鹿にするとどういうことになるかわかっているか?お前の目の中に唐辛子を入れてやる!おれはやるといったらやるぞ!」
と大声で怒鳴り、私の顔面に拳を振り上げました。(振り下ろしてはいないが。)
<焼肉=肉類すべて とは思わなかった。>などと正当な説明をしても一切聞き入れない。とりあえず謝ってみても効果なし。流して次へ進もうとしても駄目。
逃げ場のない診察室で次から次へと言葉尻をつかんで責め立てられ、脅されて、遂に私は涙が出ました。
何のミスもしていないし、自分に落ち度がないのにどうしてこんな目にあわなければいけないかと思うと悔しくて涙が止まりませんでした。
いままでも、予約の時間から10分待ったことで激怒した患者さんに怒鳴られたり、肺炎の入院患者に入院3日目に2回目の血液検査をして「ホントの医者なら検査をしないで、診察だけで判断しろ。このやぶ医者」といわれたり、救急外来で何か月分も薬をよこさないと騒がれたり、いろいろな目にはあいましたが、その都度自分の感情を押し殺して、謝ったり説明したり、なんとかこなしてきましたが、今回のはどうにもなりませんでした。
しかし、1,2時間のうちにこの噂は病院中に広まって、いろんな人がかわるがわる慰めに来てくれたので、余計涙が止まらなくなりました。
いっそのこと、軽く殴ってくれれば警察を呼べるのに・・・と思いました。
あとで、人からこの発言だけでも脅迫罪だ。って言われましたが・・・
医者もつらいものです。

・顔面縫合 5/29

現在の勤務先では外科も内科も一人の当直医が診ます。なので、交通事故とか、外傷なんかも来るのですが、明らかに骨折をしていて急をようするなら整形外科のオンコールをよぶ。というようになります。
電話で問い合わせがあれば、「今日は内科医です。」と伝えて軽い怪我なら診る。といった具合です。
先日の当直の時に、30代の酔っ払いが転んで顔を切ったと直接やってきました。
若い患者の顔の場合は以前なら形成外科医を呼んでいました。どうしようか。外科医をよぶかなぁ・・・
などと思いながら救急外来へ行ってみると、酔っ払いの集団が待っていて、うち一人が超こわおもてで、私のことを睨み付けて、頭の先からつま先までジロジロとみるのです。
当の患者さんはヘラヘラした感じです。
傷を見ると、4cmくらいパックリと切れていて、縫合は必要。でも他の病院へ行けとか、外科医を呼ぶから待てといったら、隣の人相の悪い酔っ払いが暴れだしそうな勢いだったので、自分で縫合することにしました。
傷は顔といっても顎のあたりで、患者さんはヒゲの濃い男性。跡が残っても別にかまわないというので縫合しました。
5-0ナイロンで、8針縫いました。自分じゃ意外によい出来かな・・・?
翌日外科先生にかなり上出来だというお言葉ももらい、ご機嫌になりました。
最近はステープラーをいうホッチキスみたいな器具があるので、手足や頭皮などはこれでガチャガチャ止めちゃうので、ナイロン糸で縫合する機会って意外に少ないんです。
このホッチキスは糸よりだいぶ太いからしっかりと跡になるんです。でも、外科の先生は「俺なら顔でも男ならステープラー使っちゃうなー」と言っていました。
さて、内科医がちょっとドキドキしながら丁寧に縫合するのと、外科医がホッチキスでガチャガチャ止めるのと、どちらがラッキーなんでしょう??

・オヤジの決まり文句
今日はオヤジの決まり文句を紹介しましょう。

「どこか具合の悪いところはありますか?」
「あたま!」

「なにかおもちの病気はありますか?」
「あるある!金欠病!!」

血圧測定時に・・・(Ns.が測定)
「美人の前だと血圧あがっちゃうよ」

みなさん、ザ・オヤジにならないように気をつけてくださいね〜

・当直中の本音 4/23
現在月に3回の当直をしています。就職時には「翌日は仕事がなければ午後は帰宅してもいい。」との条件でしたが、実際に勤務してみると、外来があったり、手術の麻酔があったり、内視鏡の検討会があったり、事業所の健診が入っていたりで、ほとんど帰れません。
つまり、朝8時半に出勤して、夕方から当直で救急患者を診て、翌日はまた8時半から通常勤務で、夕方6時から会議やカンファレンスがあって、病院を出るのはだいたい19時くらい。
約35時間勤務です。帰れない午後の分の時間外労働がついたりはもちろんしません。
そんな勤務状態のなかで夜間の急患が21時まではほぼコンスタントにやってきて、21時からはまばらになりますが、1時間半から3時間おきに患者さんが来ます。
しかも、21時を回ってから来られる患者さんと言うのは都会と違って本当に病気だったり、苦しんでいる人が多くて(都会はコンビニ感覚の軽症者が異常に多い。夜間仕事している人も多いため?)重症の割合も高くなるので、一台救急車が来ていろいろ検査をしたり、入院の指示を出したりしているとあっという間に2時間くらいかかります。
つまり、3時間おきに患者さんが来たらほとんど眠れない。と言うことになります。
診察を済まして当直室で仮眠を取ろうと横になってウトウトっとした矢先に消防からの電話が入って「これから意識のない90歳の女性を搬送したい」などとの電話が入ってくれば、つい、頭の中で<これを受ければ2時間は確実に眠れない。あしたは外来と麻酔があるなぁ。つらいなぁ。>という思いがよぎり、更に高速を使って通勤している私は帰りの運転の心配まで浮かびます。そして、何とか断る理由はないだろうか?と考えるのです。例えば他の病院のかかりつけであるとか、明らかに何か特殊な病態で専門外である。とか・・・
でも、自分の病院のかかりつけであったり、特別断る理由もなければしぶしぶ受け入れて、眠い目をこすりながら救急外来に出向くものです。
でも実は毎回心の中で、<他の患者の処置中。とかベッドが満床。って嘘ついて断ってしまいたい。>と思ってしまいます。
日中には、<なるべく当院で見れる範囲の急患は受け入れてあげたい。どうしても手に負えない患者さんだけ更に高次機能病院へ・・・。>と思っているのに。です。
日頃は救急への意欲があり、実際に患者さんが来てしまえばもちろん真剣に診療はします。診ているときはいいんです。でも、寝ているところを起こされて<これからいいですか?>って言われると内心<イヤだ>って言ってます。そして、翌日がとにかく辛い・・・。
ほとんど眠れずに、周期的に強制的に起こされていると人格も変わるみたいです。だんだん愛想もなくなっていくのに自分で気付きます。医療行為はちゃんとやるけど、説明は最低限とか。
ちなみに看護師は夕方出勤してきて当直をして朝の10時には帰宅します。
医師も朝10時と言わないまでも昼で帰れるとか、そういう勤務であれば、夜中の受け入れ要請があったときの気持ちはだいぶ違うんだろうなぁ。と思います。
しかも、この35時間の勤務中、当院の多くの医師はシャワーを浴びることもありません。
冬はともかくとして、一応女性の私としては35時間汗をかいたまま過ごすことは苦痛ですので、掃除道具置き場になっていたシャワー室を整備してもらい、隙をみてシャワーを浴びていますが、この数十分の間になにか急変があって責められたりすることがあったらどうしようかとビクビクしながら超特急でシャワーを浴びています。
本当にいまの救急医療っていうのは、医師のボランティア精神でなりたっているなぁと思います。
ようやく最近、医療崩壊などといって医師不足や医師の過重労働などという言葉が報道で聞かれるようになりました。すぐになんとかなる問題でもありませんが、なんとかこの労働環境がよくならないものかと思います。
勤務医たちはお金が欲しいわけじゃないと思うんですよね。いくら年収3500万で麻酔科を募集したって、1,2年がんばってお金をためたら辞めよう。って思うと思うんですよ。
年収があと200万アップしたら、過酷な当直回数が増えてもいい。とは私は全然思いません。
逆に200万減っても、当直の翌朝に手放しで帰れるほうがいい。って思います。でも、マンパワーの問題でそれは出来ないんですよね。
私達が研修医の頃は10年目以上の医師は当直免除!とかあったのに、研修医の過労死や、医療ミスの問題で研修医が一人で救急や当直が出来なくなったから、結局我々の世代にしわ寄せが来てるんです。
研修医時代は月給3万円で、週3日は病院に泊まって、毎日深夜に帰っていたのに、今の研修医は月給30万もらって当直は楽して夕方帰ってくんだから、中堅医師のモチベーションが保てる訳がないですよね。
あーあ。何とかならないもんかなぁ・・・

・病棟縮小
4月から勤務している病院のベッド数が大幅に削減されました。ここ数年の療養型病床の診療報酬削減で不採算部門である療養病床の一部を閉鎖していましたが、これに看護師1人に対して患者7人という割合で看護師を多く配置した場合は診療報酬が加算されるという制度に伴って、(看護師は募集しても増えないので)経営の効率化のため、ベッド数を大幅に減らしました。
少ない報酬で大勢診るのは割りに合わないというわけです。うちは民間病院なので、経営効率化というのは国公立よりも優先されますし、病院自体の再編成というのも独自に出来るわけです。で、現在のベッド稼働率は100%を越えていますので、新規の入院や救急の受け入れは中止しています。
1年前に近くの日赤の病院が事実上閉鎖状態で、救急や入院を受け入れていなかったので、うちの病院の患者数はかなり増えていたのですが、ここにきて縮小していますので、救急隊は搬送先が減って困っているようです。
そして、更に近所にある3次医療機関は更に患者が殺到して大変なことになっています。
高齢者を在宅に誘導しようとして、療養病床を減らそうとしたって、患者は在宅へは容易には行きませんし、病院は患者を簡単には追い出せないので結局医療機関にしわ寄せがくるのです。そして、病院の生き残りのために病院は不採算部門を切り落としますから、結局のところ困るのは患者さんで、いざというときに受け入れ困難となってしまうのです。
政府が方針を変えるたびに病院は看護師を雇ったり、建物の工事をしたりと投資をしますので、これで受け入れ拒否、医療難民が出たからと言って、では療養型を増やしましょう。と急に政策転換されたら、工事費など全額補助でもしてもらわない限り、医療機関は倒産です。もう後戻りできないところまで崩壊は進んでいる気がします。
まったく、小泉元首相に現在の医療崩壊についてどう思っているのか聞いてみたいものです。

・手も足も出ないやるせなさ
先日90歳近い患者さんが、胸が痛いとのことで自家用車で来院しました。
心臓病を疑ってすぐに心電図をとりましたが、心臓病と断定できる所見はありませんでした。血液検査とレントゲンをしてみると、レントゲンで心臓から出る大血管に異常がありそうなので、すぐにCT検査を行いました。すると、想像どおり解離性大動脈瘤という血管が裂けてしまう重症でした。
幸いその時点では避けているのは心臓から出てすぐのところから10cm程で血管の外へは出血はしていないようでした。痛み止めと、降圧剤の投与をしながら、心臓血管外科のある病院へ転院させるべく、近隣の病院へ電話をかけました。しかし、病態&年齢の為か、医師不足のためか、時間帯が悪かったのか近所の病院にはすべて断られ、30km離れた病院にも断られ、1時間半経過してようやく50km以上離れた大学病院への受け入れが決まりました。
救急車が到着して、「これから転院しますよ」と声をかけ、「しょうがない、がんばってくるか」と返事をした直後、おじいさんは意識を失い、あくびをし始めました。
最悪の事態が起きたと直感し、そのまま救急室へ移動。人工呼吸、心臓マッサージ、薬物投与など手をつくしましたが、回復することなくそのままなくなりました。
何が起こったかといえば、おそらく裂けていた血管の裂け目が破裂して、血管の外の心臓の周りに出血してしまい、心臓が血液に圧迫されて動けなくなってしまったのだろうと思います。
直径6cmもある太い動脈が胸の中で裂けてしまう。こんな事態にあってはもうどうすることも出来ないのです。
心臓マッサージをすれば血管は余計に裂けるだろうし、しなければ心臓は止まったまま。出血を止めることは不可能だし、解離が始まってしまえば、血圧を下げるほかに解離をとめる手立てもない。おそらく、転院がすぐに決まっていても、救急車のなかか、転院先で同じ事態が起きていずれにしても救命は出来なかったでしょう。
個人的には、90近くまで元気で動脈瘤の破裂でなくなるって言うのは、あっという間に気を失って苦しみも少なく亡くなり方としてはいいな。と思うのですが、高齢であればそう言って慰めることもできますが、これが50代の患者さんだったらと思うと・・・。全くもって医者は無力だと痛感するほかありませんでした。

・タミフル
先日10代のインフルエンザの患者さんを入院させました。嘔吐がひどかったので入院させました。入院して2日経ってから飛行機に乗って出かけるとか、武士に背中を押されたなどという幻覚が出現しました。
今流行のタミフルの副作用か??と思いましたが、髄液の検査で異常があり、副作用ではなく、髄膜炎でした。
インフルエンザの神経合併症には、解熱剤を飲んで起こるReye症候群と、5歳以下に多いインフルエンザ脳症と、ウイルス性の髄膜炎とがありますが、今回は一番経過のいい髄膜脳炎でした。
いままで、インフルエンザの患者さんは数え切れないほど診て来ましたが、幻覚は初めてです。(痴呆の老人がおかしなことを言っていたことはあるような気もするが・・・)
最近タミフルの副作用というのが騒がれていますが、副作用という言葉は頻繁に耳にしますが、脳症とか髄膜炎という言葉はほとんど出てきません。髄膜炎は髄液の検査でわかるのですが、異常の出ないのが脳症で、MRIをやればわかることがあります。
子供で脳症になると、急速に進行して、重篤な後遺症を残す(植物状態や知能障害など)ことが多いのです。
一方大人では脳症はほとんどありません。その、小児と大人のハザマで中途半端な幻覚が出現するのではないか?
という印象があります。周りの医師でも副作用より、インフルエンザそのものの症状ではないか?という意見が多い。
タミフルを使用することで、症状が助長されるというのはあるのかもしれませんが・・・
タミフルが出てきたのは4,5年前のことで、鳥インフルエンザの騒ぎで一躍有名になった薬です。
そもそも、中学以上の超高齢者以下ならインフルエンザはほうっておいて治る病気なのに、鳥インフルエンザで死者が出たから<インフルエンザ=怖い病気>というイメージになり、患者さんが過剰に心配し、タミフルを希望するようになりました。かかってもいないのに、タミフルを飲みたがる人もいます。
よく「インフルエンザですね。」と伝えると「わぁ、大変だ!」と患者さんが言うことがあります。そのたび
「何でですか?熱が出て、人に移るだけで安静にしていれば数日で治る病気ですよ。おかしな病気じゃないからいいじゃないですか。」と言っています。キョトンとされますが・・・・
タミフルの効果は飲まなければ、平均5日で治るところが平均4日で治る。という程度です。
大人は服用する必要はないと思います。でもそういっても8割の人が処方してください。といいます。
小児の場合は5歳以下では脳症の発症が服用した群の方が抑えられるようなので、体重が10kg以上で5歳以下の小児は飲んだほうがよいのかとも思います(ちなみに脳症の発生は遺伝子の関係でアジアに多いようです。)それに5歳までは、タミフルを飲もうが飲むまいが、<親が目を離さない。>が可能です。
悩ましいのは5歳〜19歳です。重篤な脳症は少ないが、精神症状が出やすく、ひとときも目を離さないというのも難しい頃。
きっと、転落せずに家で変な行動をとった未成年も多いことでしょう。ベッドや机から飛び降りたってニュースにはなりませんから・・・
運悪く、飛び出した道路に車がいたり、飛び出たところが高いところだったから不幸な結果になってしまっているのでしょう。これからは薬を処方するときに住んでいる場所まで聞いて判断したほうがよいということでしょうか。
個人的にはこの年代は予防接種もいいのではないかと思います。脳症を起こしやすいインフルエンザのタイプとワクチンの効くタイプは大部分共通しているようなので。(しかし、ワクチンでの神経合併症が出やすいのもまた若い人・・・とまったくジレンマですね。)
つくづく、いろんな報道を見ていると、偏った報道だなぁ。と思います。なんにしても弱者側にたった報道で、かえって一般市民に誤解を生じさせることが多いと思います。もっと中立的な立場で、いろんな情報を伝えてほしい。
多くの情報をもとに患者さんが治療法を選択できるようになればいいと思います。
でも、これを機会にインフルエンザは多くはほうっておけば数日で治る病気だってことが少し浸透するといいですね。

・電子カルテ導入
ついに引越しと同時に電子カルテが導入されました。引越しにより今までのポケベルからPHSに変わったものの、アンテナがまだ全館に配置されておらず、医師がいる医局にはなんとつながらない。放送も新棟のみで医局には入らないなどなど不完全な状態での移行。
そんななか、病院を試すかのように8:30の始業と同時にに消防署からのホットラインが入りました。
「胸が苦しい患者さんをこれから搬送します。」と・・・
8:40に搬送されてきた患者さんは救急車内で急変し、心配停止に至っていました。
人工呼吸と心臓マッサージを行いながらの搬入。
引越しと電子カルテの導入を同時に行うという前代未聞のイベントを外来休診も、入院制限も、救急車制限もしないでやるという無謀さに管理職以外の医者は当直を拒否。で、管理職が当直だったのですが早速お手上げ、お助けコール。
しかし救急待機の私のPHSはつながらず、使えるはずだったポケベルは切り替え作業により壊れていました。(本人はそんなこと知らずに携帯。)
いくら呼んでも連絡がつかないからと、緊急用のエマージェンシーコールが全館に発令されました。
引越し&導入のため待機していたスタッフが大勢救急室へつめかけましたが、どこに何があるか把握しきれておらず、役割分担も不明確で現場はパニックです。電気ショックをかけるのにもスタッフが患者に触れていたり(そのままショックをかけると触れていた職員が心停止にいたる恐れもあり。)で、怒声が飛び交いナースはオタオタするばかり。
そんな緊迫した雰囲気の中、隣接する老健施設より呼吸停止の患者さんが運び込まれる。
一瞬「重症が二人?これはまずい・・・」と緊張が走るが、患者が二人になったところで自然とトリアージ(緊急優先度)が行われました。
自宅で急変した60代の患者と、寝たきりの施設入所の90代の患者さん。山盛りいたスタッフが、内科医を中心としたチームと、その他の科の混合チームの二手に別れ、乗組員と船頭が見えてきました。まるで映画「ER」さながらの緊迫した中で救急救命処置が施され、心停止の患者さんは7回の電気ショックの後、心拍再開しました。結局電子カルテになんてだれも指一本触れることなく患者さんはICUへ入院しました。
治療の甲斐あって人工呼吸器からも離脱でき、10日後には「オハヨウ」と声も発し、自力で起き上がるまでに回復しました。
結果的に大きな問題は起きませんでしたが、管理職に対しては「ほれみたことか。あれだけ警告したのに・・・」
という態度がはっきりし、その後は管理職 vs 医局員という立場がはっきり・・・
その後も、電子カルテがために、胸水をとるはずだったのに血をとられたり、違う人に診断書がでたりと小さなトラブルが続出。
幸い、間違って血を取られたのは間違った検体ラベルを発行した検査科の職員の家族だったりで、一般の患者さんに身体的な実害は生じていませんが、まぁ、バタバタしてマイナートラブルは絶えませんね。重大なミスにつながらないことをただ祈るばかりです。
結局導入時にも未完成のシステムもあり、実用に耐えない箇所もあり、今使用できているのは一部ですが、果たして全面電子カルテになるのでしょうか?
電子カルテ=ペーパーレスなんでいわずもがな嘘でありまして、何かひとつ修正するたびにプリンターから
*修正 血液・生化学
と2行だけ印刷された紙が次々と打ち出され、プリンターはほとんど休むまもなく稼動。回りは紙の山。
まったく環境破壊もいいとこです。
あー、紙カルテの時代はよかったなぁ。
IT加算なんで糞食らえです・・・ほんとに。

・四苦八苦
40代の男性が全身の浮腫みで入院しました。30代から糖尿病なのですが、食事療法をするどころが驚くほどの暴飲暴食を続け、通院も中断。
その結果10年弱で腎臓がやられてしまい、結局血液透析をしなければ助からないところまで来ました。
これまでも仕事はしないで生活保護を受けていたのですが、保護費を受け取るとすぐそのお金を持ってパチンコへ・・・
お金がなくなると家でゴロゴロ、食事もしなかったり。小学生の子供がいるのですが、諸事情により国籍はなし。婚姻暦はなく母親も不在。
その子供の食費までも浪費してしまい、近所の人が見かねて食事を与える。という繰り返し。
まぁ、いわゆるロクデナシってやつですね。(ちょっと言葉悪くてすみませんが)
「死んでもいいからこれからだって絶対に食事療法なんてしない!」と唾を飛ばして叫びます。
入院中もわがまま放題で、すぐに大声で怒鳴ったり、気に入らないことがあると病院で首を吊るぞ。と脅迫・・・
思わず心の中で「どうぞ、お好きに。」
「死んだほうが子供は児童施設に入って安定した暮らしができるなぁ」などとも思ってしまう。
でもそんなこと思っても言えないし、病院で自殺なんかされたら大問題ですから・・・。
金銭的理由や性格上の理由で与える医療を差別してはいけないのが日本の医療ですから、数週間で200万の治療をして、これからも月に何十万もかかる治療を継続させる義務がある。生活保護の場合は本人負担はゼロ。
透析のために週3回往復8千円かかるタクシー代も申請すれば国から出るのです。
それを本人も知っていて「先生が必要だと書けばお金は出るんだからタクシーで通う。」とも悪びれずに言うんです。
私だって月に9万6千円もタクシー代なんてとても出せないのに・・・
兄弟を呼んで治療の説明をしようとしたら、説明を始める前に意味不明の兄弟げんかが始まり、「きちがい!!もう勝手にしろ!」
と怒鳴りあい、「一切弟の面倒は見ない」と言い、私の説明が始まる前に強引に帰ってしまいました。
残った本人は「キチガイ呼ばわりされて、これ以上こんなとこにいられるか!!」って私の目の前の机をバーン!!とたたく・・・
「私はキチガイなんて一言もいってないって・・・。」
そっから云々かんぬん1時間。「少しは食事療法もします、これからも診て下さい。」と頭を下げさせた私もなかなかのツワモノだと思いました。
(周りの医療スタッフもみんなビックリ!忍耐の勝利でした。)
アメリカならこんな人は、きっとまともな医療を受けなくってきっと長生きできないんだろうなぁ。と思う。
これも、心と頭の病だからと大きく包む日本の福祉ってすごいと思う。
本人に少しでも、やる気と感謝の気持ちがあればこっちだってやる気もするんだけど・・・
それも、すべて病気なんだと広い心で受け入れなきゃいけないんでしょうかね。
皆さんの税金がもったいない。とかいろいろな気持ちが頭をよぎりますが、すべて忘れて、目の前の病人を治すということだけに没頭しようと思います。

・被害妄想
2年前から私が外来で診ている80代後半のおじいさんが肺炎で入院しました。でも、本人は肺炎だとは全く思っていません。向かいの家のおばあさんに毒を盛られたせいだというのです。2年間付き合いのある私はピンときました。認知症に伴う被害妄想なのです。
痴呆で、物忘れが目立たずに被害妄想が前面に出てしまうことはしばしばあるんです。2年前から徐々に軽い物忘れがあったり、ブタクサを踏んづけたら逆流性食道炎になったとか、骨折して整体で電気を当てられたら気管が悪くなったとか、たまにおかしなことを言うことがあったのです。
でも、遠くに離れて住んでいる息子さんは、
「いままでそんなこと言い出したこともないから本当に何か事件に巻き込まれているのではないか?」
と心配しています。本人に、いくら「毒ではこんな肺炎にはならないんだ。背中が痛いのは肺炎のためだ」とどんなに説明しても聞き入れてくれません。
そして、向かいのおばあさんを殺して自分も自殺するとまで話すようになりました。
向かいのおばあさんも一人暮らしですが、お互い助け合って暮らしてきていました。届かない背中に湿布を貼ってもらったり。
そのとき出してもらったココアに毒が・・・・
こうなるともう、いくら言っても考えは変わらないし、肺炎が治っても退院させたら何をするかと心配です。
結局始めは「毒ではこの肺炎の説明がつかないのですよ。」と説得を試みていましたが、いまは「また毒を盛られたら危険だから、安全なところに避難しましょう。」と説明して精神科へ転院することになりました。
認知症は一般には、物忘れが代表的な症状ですが、物をとられたとか、毒を盛られたなどという被害妄想が中心的症状になることもしばしば・・・
そうなると、社会生活が営めなくなるし、家族関係や近所との関係も悪化したりと結構困ります。
もし、高齢の家族の方が、物を盗られたとか、上の階の人(なぜか上が多い)に嫌がらせをされているとか、毒を盛られたなどと言うようになったときには、認知症の可能性もあるので、警察ではなく病院にも相談してみてください。

・想定外!?
夜中の1時ごろに40代の男性が夕方からの下痢と腹痛で救急車でやってきました。胃腸炎かなと思いましたが胃腸炎にしては痛がっている。
念のためにレントゲンと血液検査をしてみたがほとんど異常がなかった。
途中「寒い!寒い!」とも大騒ぎをしているので、大げさな人なのかな?などとも思い、強めの痛み止めを注射したところ症状が落ち着き数時間眠っていました。しかし、4時ごろにまた痛い痛いの大騒ぎになりました。
で、腹部CTをやりましたが、胃が拡張して、小腸から大腸まで全部がむくんでいた。胃腸炎でもむくむことはあるが、程度がちょっとひどい。消化器外科医も呼んで診てもらったが胃腸炎のひどいのでいいんじゃないか?とのこと。
胃に溜まった胃液でも抜けば楽になるかとチューブを入れて胃液を抜くと、なぜか血が混じっている。
胃腸炎では普通は出血しない。「なんだ〜???」と思い翌朝胃カメラをしてみたが、潰瘍はなく、胃全体がただれていた。
(へんだなへんだなーーー。)と思っていたら11時くらいになって、
「昨日の夕方に台所にあった農薬を間違って飲んだかもしれない・・・」と本人。
「えーーーーっ!?」
慌てて会社の人に部屋に行って持ってきてもらったら、間違えようのない茶色いビンに大きく「アブラムシ、カメムシに!!!」って絵付きのラベルが張ってあった。おまけに部屋には遺書もあったようだ。
「かもしれないじゃないだろーーー!!」と私は激怒!!「自分で救急車を呼んだならそういうことを隠すんじゃない!」
それから中毒センターに問い合わせして成分を調べたり・・・
サリンと同じグループ(有機リン)の中毒でした。解毒剤やら下剤やらいろいろ使って一命は取り留めましたが、まぁ怒り心頭でした。
まぁ、こういう人はそういうところからして病気なので仕方ないのでしょうが・・・

・困った酔っ払い
夜中にどこかが痛いおじさんが救急車で運び込まれました。酔っ払っているようで質問をしても「痛い!痛い!」と転げまわるばかり。
胸が痛いのかお腹が痛いのかもわからない。心電図をみると心筋梗塞ではなさそう。胸の音を聞いてみると「ブチブチッ」と変な音・・・
胸を触ってみると皮下気腫(皮膚の下に空気が溜まっていて、雪を握ったようなので握雪感という。)がある。
それなら気胸(肺に穴があいてしぼんでしまう病気)か?とレントゲンを撮ってみたが肺は縮んでいない。
暴れる患者さんをよーく見ると髪の生え際に5mmぐらいの切り傷とアザが2つあった。
「外傷か???」ということで整形外科医を呼ぶ。そして、全身のCTを撮ったところやっぱり肺はわずかに縮んでいた。癒着のためにレントゲンではわからないようだった。
しかし胸にはぶつけたような痕もないし、骨折はなさそうだから肺自体の問題ではないか。と言われ内科に入院させて様子を見ることになった。
しかし、よくよく考えてみても、肺の縮み方と皮下気腫が結びつかない。どういう理由で空気が皮下に漏れてきたのか説明がつかないのです。
おかしいなぁ。と一晩考えて翌朝胸部外科医に相談したらやっぱり肋骨が折れていて、胸膜と肺を損傷しているということになり、外科的に治療をすることになりました。
当の本人は酔いから醒めて「ここは何処だ?なんで入院してるんだ?」と・・・・
前日は飲みに行っていて、店の人に聞いてみたら帰るときに階段から落ちたような音がしたとか。
酔っ払いとはつくづく厄介なものですね。

・ホームレス感動の対面!?
先日の当直中の朝5時、「セブンイレブンで突然立てなくなった男性がこれから救急車で来ます。」と一報があった。なんだろう。脳梗塞かな?不整脈かな?などと考えながら救急室へと向かった。
そして、救急室に入った瞬間・・・
「ガーーーン!!」
みるからにホームレス。すごい臭い・・・
聞けば氷点下8度に冷え込んだ夜にずっと外にいて、寒くて凍えたようだ。店の人が困って通報したものだった。
もう10数年は橋の下で軽自動車でくらしていて、ここ最近はコンビニの駐車場で暮らしているようだ。
でも、そのホームレスさんは軽自動車をもっていて、ガソリンも入っている。(普段はエンジンはかけないそうだ。)
ためしに家族の居所を聞くと住んでいる地域と名前が判明。で、警察に連絡して調べてみたところ息子が見つかり、息子が迎えにやってきた!!
「15年前にいなくなっちゃって何処に行ってるのかな〜。と思っていた・・・」とちょっと涙目。
おおっ!!感動の再開シーン!!!
(でも、なんで捜索願とか出さないで住所を戸籍からなくしちゃってるの??)
まぁ、いずれにしても感動の対面を果たせてよかったよかった。
特に検査や治療はせずに、暖まってお茶をのんで帰ってもらいました。
そして忘れかけた約1ヵ月後。
「先生の患者さんのホームレスの人がこれから見てもらいたいって市役所から電話なんですけど。」
って、別に私の患者さんじゃないってば!!
その後、また車に乗って家を出て行ってコンビニの駐車場で暮らしていたところ、悪臭と、だんだん弱っている。って理由で警察に通報される。
警察が連絡しても息子が来ないため、車ごと息子宅の家の前に捨てられていたとのことでした。
その後わかったことですが、本人は年金を受け取っていて、10数万円の収入がずっとあったようなんです。
田舎には2,3万の部屋はその気になればあるのに何故・・・
病院にはは入れる部屋がなく、特例的に療養型病棟に入院(入浴?)させ、戸籍を復活させて、今後は施設へ入ることになりました。
結局、たいした病気じゃないのに手続き上の問題やら関係部所との連絡でその人一人に夕方からずっと4時間もかかりきり。
まともな家族がいて、収入のあるホームレスなんてほんとに珍しいので、いやいやほんとにぐったり疲れちゃいました。
しかしいったいどんな事情があったんでしょうかねぇ。

・個人情報保護法なんて!!
先日熱射病疑いの重症患者さんが入院しました。急激に悪化して人工呼吸器にのせて、血液透析等々。
入院前の体重とか肝機能とか、いろいろ知りたいことがあったので、奥さんに会社でした検診のデータを借りて下さいと頼みました。
すると、人事部の人が「個人情報ですので例え奥様と言えども検診結果を教えることは出来ない」などと言うのです。
で、電話を変わってとにかく重症で、本人が取に行くことが出来ない状態で、命に関わるので教えろと言っても駄目。
で、「ところで、○○さんは熱射病なんですか?」
と言う。
「それこそ個人情報ですからそんなこと言える訳ないでしょう!」と言ったら
「あ、そうですよね。」って納得してましたけど、なんて不便な世の中なんでしょう?
結局会社の医務室に電話をして保健婦から聞き出しましたけど・・・
最近は、外来でも診察室でカルテの名前を隠したり、名前で呼ばないで番号で呼んでみたり。
入院でも部屋の入り口とかベッドの頭の名前を無くしたり、棚のカルテの名前が見えないようにしたり。
受け持ち患者とかカルテを探すのに大苦労です。
「撮ったレントゲンは個人情報で俺に所有権があるんだからよこせ!」
とかむちゃくちゃなこと言う人も・・・。診療した情報は病院が管理する義務があるんですよ。
まったく過剰反応としか考えられない・・・
そのうち病名は本人以外の家族には告げてはならないとかいうことになるんでしょうか・・・
そうかと思えば会社の検診で異常を言われた。と検診の一覧表を持ってきて、その紙にはずらっと30人ばかりの名前が書いてあって、その横に血圧上昇、血糖高値、血尿等々記載してある。
本人のところにマーカーペン引いてあるのをこのご時世に持たしてくるところもあり。
これは同じ社員同士で病名までわかってまずいんじゃないのか??ってこっちが心配してしまった。
インターネットで簡単に情報が流れてしまう昨今。情報の管理や責任を問うのは当然でしょうが、医療の現場では
名前の確認ってとても大切なので、番号なんかでやっているといつか取り違えたりしそうでとっても不安です。
なんだか必要以上に過敏になりすぎているような気がします。
あんまりそんなこと言われたら、病院の入り口とか診察室に貼り出してある医師名も隠しますよ!って言いたくなってしまう・・・
・意気地なし
先日研修医同士で胃カメラの練習をさせました。というのも患者さんの胃カメラをさせるのに、途中で変わって少しやらせるにしても、患者さんの表情とかお構い無しに乱暴な操作をするので、とにかく身をもって体験しなさい!
ということで、1年目の研修医2人が互いにカメラをやりあうことにしたのです。
まず始めに研修医のA君がB君のカメラをやりました。A君はもう内科研修も終盤に近いのですが、どうも乱暴な操作が気になります。同僚がが苦しそうにしていても「ごめんなー。がんばって・・・。」というのは口ばかりで手を止めず、そろそろやめてあげたら?と言っても「もう少し・・・」などと言い、苦しがっているのにお構い無しに40分もカメラをしていました。
1時間の休憩の後、今度はB君がA君のカメラをする番です。B君のほうが性格は温和。さて、それでもさっき散々苦しめられたから少しは仕返し(?)でもするのかなぁ?なんて思いつつ、見ていました。
・・・と5cmくらいしかはいってないところで、被検者のA君は頭をもたげて、
「くっ、苦しい〜!」と手でカメラを掴んで引っこ抜きました。
それを見た私「全くこの根性なし!!」と一言。
で、仕切りなおして再び・・・
今度はぐっと我慢してカメラが通過。そして、一通り観察を終えたB君はやさしいので、「そろそろやめましょう」と20分で終えてあげてました。
そんな一部始終があったにも関わらず、研修医のA君は医局へ戻り他の先生達に
「今日胃カメラを飲んだんですよ〜。Bにやってもらったんですけど、苦しくて思わず自分で引っこ抜いたらMiki先生に
<この意気地なし!!>って言われちゃいましたー。」
なんて言うから、みんなに「Miki先生厳しいねぇ。」「しかし<意気地なし>っていまどき死語じゃない?」
などといわれてしまった。えー、私が悪者〜!?
・PTSD
ある当直中の夜、当直室に行く薄暗い廊下を歩いていたら、後ろから「せんせーっ!!」って叫んで駆け寄ってきた人がいました。
振り返ると50代半ばの仲良しのナースでしたが、息を切らして駆け寄ってきて私の腕にしがみつきました。
なにか用があって2階に来たようでした。
「なんか、急にさっきの患者さんの頭を持った手の感触が蘇ってきちゃって・・・」
と母親ほどの年齢の人が怯えていました。
その数時間前の出来事で、事故でトレーラーに轢かれた患者さんが搬送されていました。
頭、胸、手足もタイヤに轢かれて、頭蓋骨は粉々に砕けていました。表面上は出血や変形はありましたが骨や脳が露出している訳ではありませんでした。しかし、人工呼吸をしようとマスクで口から空気を送ると耳の辺りからシュ―と空気が漏れて来ました。肋骨も砕けていて胸も変形していました。居合わせた医師3人は瞬時に、救命不可能(既に死亡)と判断して、蘇生を中止、状態の把握と死亡確認の作業へと移りました。
その間も、ナースは家族の目に触れるからと目に付くところの血液を拭いたり、顔の向きを直そうとして、頭を持ち上げました。すると、硬いはずの頭は手の中でグズグズっと崩れたようなのです。
「わっ」と言った彼女の顔が引きつっていました。
警察による検死作業などが済んだ後は、ご遺体を自宅へ帰すために身体や髪を拭いて血液などの付着物を取り除いて、綺麗な浴衣などに着替えさせてあげるのですが、これはナースの仕事です。その際に、損傷を受けた遺体の細部まで必然的に知ってしまうのです。崩れた頭蓋骨を収める枕も発泡スチロールで作成してあげたそうでした。
搬送された直後は救命のために医師もナースも沢山集まり、救急隊もいて騒然としますが、この清拭の作業のときは潮が引くように医療スタッフはいなくなって2人程度のナースだけで処置を施すのが一般的です。
深夜の病院は意外に静まり返っている場合もあるので、ふとしたことで怖くなったりするものです。
だいたい医者は騒然としたときにバタバタ仕事をして、重要な箇所だけを重点的に診て、検査をしたりするだけなので、ナースのように患者さんに接触しないことが多いものです。
それでもこういった患者さんを診たあとは翌日くらいまで重苦しい気分になったり、ふとしたことで光景が蘇ってきたりします。
医者もっと密接な接触をもつナースはやはり相当のショックを受けるようです。
プレPTSDのようなものなんでしょうね。医者の仕事っていうのは責任っていうものが重くのしかかっていますが、ナースの仕事っていうのはこれまた相当大変なものだと思うのでした。
安楽死!?
先日の当直中に自宅で突然意識を失い、心停止、呼吸停止の状態で救急搬送された患者さんがありました。この日は心肺停止で搬送された患者さんが1日でなんと3人。そのうちこの患者さんだけが、救命処置により一命を取り留めました。
現在は人工呼吸器につながり、多臓器不全の状態です。
しかし、呼吸停止から救急隊が到着して人工呼吸を行ったまでの時間が推定10分。
短いようで、呼吸停止の時間としては脳にダメージを与えるには充分な時間です。
脈拍、血圧が回復した後、低酸素の影響で脳に浮腫が生じ、頻回に痙攣を繰り返すようになりました。
何日か経過しても意識は回復せず、重度の後遺症が予測される状態です。
日々現状を家族に説明しますが、とても楽観的なことはいえない状態ですので厳しい状況を説明しました。
その数日後、家族から話がしたいと依頼があり会ってみると、
「回復の希望がないならば人工呼吸器をはずして欲しい。」
との依頼でした。これは、以前新聞などニュースでもとりあげられていましたが、安楽死の問題。
この患者さんはまだ脳死といえる状況ではありませんし、呼吸器をはずしたら私は殺人罪にあたってしまう訳です。とうぜんそんなことは出来ませんので、治療を継続させてもらう説明をしましたが、呼吸器をはずせないなら薬の投与をやめて欲しいなど、とにかく治療の中断を求める内容でした。
確かに、80歳を越えた患者さんで元気に回復する見込みは限りなくゼロに近く、いたるところに管がつながれ時折痙攣を繰り返す今の状態は見ている家族にも辛く、金銭的な負担も増えるばかりなので、本心では中断が妥当とも思ってしまいます。
でも、治療をする前の段階で家族の要望などで治療を行わないことは法に触れなくても、一度行ってしまった治療を中断することは殺人罪になってしまう。
どこかに矛盾を感じつつも、法で決められた以上はそれに従うしかない。家族の希望にも逆らって、1%に満たない回復に期待して1日に数十万円の医療費を投じていかなければならない。
そんなことを考えつつ、薬剤の中止の根拠を見つけては中止し、再度悪化したときには再投与は行わない。
こんなことで患者さんの残された命のコントロールをする。毎度のことですが、高齢の重症患者さんの治療は切ないです。
搬送されてきたときは何とか助けたいと思って救命処置をするのですが、救命されたばかりに生じる家族や医師の苦悩ってものがあるんですよね。あの時助けなかった方が幸せだったのかな。と思うことが時々あります。
でも、その瞬間は先のことは予想できないので助けるほかないのですが・・・
これはいつまでもなくならないジレンマなのでしょうね。
・緊急避妊!
当直中、医局にいたら産婦人科の女医さんのPHSが鳴りました。げんなりした表情で、
「これから緊急避妊がくるらしい。」
緊急避妊??なんだそりゃ??
恥ずかしながらその言葉の意味が良くわからないので聞いてみると、妊娠の可能性があるときに、行為から72時間以内ににホルモン剤を内服すると80%妊娠が防げるんだそうです。
で、そういう患者さん(?)が真夜中にやってくることも多いとか。(事件の被害者とかではなくですよ。)
特に最近は10代の女性も多いようで、みんな良く知っていますね。
で、費用は保険がきかなくて1万円。これは他の病院に比べると破格で、民間の病院では3-5万円するらしい。
1錠百何十円かの錠剤を数錠出すだけ。ボッタクリみたいな気もするけど、妊娠して中絶手術になれば30-50万円かかるわけですから安いということにもなりますが・・・
しかし、夜中にそんなことで起こされたらほんとにげんなりしますね。1万円じゃ安い!って思っちゃいますね。
ちなみに普通のピルなら2錠、低容量ピルなら4錠飲めばいいそうです。
・先日大学の同級生と新幹線に乗りました。彼は某大学病院の外科医です。久々の再会でしたので座席に座ってお互いに近況報告をしていました。「最近は主になにやってるの?」「第1外科で乳癌を専門にやってるんだ。」「私は一般内科で・・・地方は救急事情がが東京とは全然違って」なーんて話をしばらくしていたとき。車内放送が流れました。
「ピンポーン♪お客様にお知らせいたします。ただいま車内に心臓病のかたが体調を崩しておられます。お客様のなかにお医者様がおられましたらどうか5号車までおいでください」
私たちは一瞬顔を見合わせました。
「どうする?」「仕方ない、行くか・・・」
平日の夜。帰宅途中と思われる会社員男性がほとんどで静かな車内。多分私たちの会話は聞いていれば医者同士とわかる内容でした。そんなこともあり、行かない訳にいかない雰囲気もあり。二人ともスーツ姿だったこともあり、5号車へ行って見ました。
(一人でジャージ姿で乗っていたりしたら行かなかったりするかも・・・?)
5号車に入ると数名があつまっていました。「もう、先に来ている人いたねぇ。」なんて引き帰そうかとすると、
30才前後の医師が「僕専門じゃないんですよ。お願いします。」
専門じゃないって、新幹線のなかでなんの機材もないのに専門もひったくれもあったもんじゃない。でもそれでも顔を出すなんてえらいな。皮膚科かな眼科かな?なんて思ってたら、連れの外科医が
「大丈夫ですよ。僕は外科だけど彼女は内科ですから。」なんてことを口走る・・・
なんてこった。と思いながら患者(?)を診てみると前の座席に突っ伏していて、反応がない。呼吸をしていなくて、チアノーゼ(酸欠で顔色がとても悪い)になっている。
あらら、これはほんとに緊急事態だわ。なんて思いながら、急いで力ずくで身体を起こして叩いて呼んでみる。
・・・無反応。(ついでにに隣の座席の乗客も無反応にしれーっと新聞を読み続けている。)
車掌さんに次の駅に救急車をよこすように指示をして、脈を確認すると脈は触知良好。
では、気道確保だわ。ってことで、脂ぎった首の短いおじさんの顎をぐいっと持ち上げて気道を確保すると、
「ぶはーーーーっ」っと呼吸を始めた。
うえっ!!!酒くさーーーい。 なんだ、ただの酔っ払いか???
「お連れのかたいますか?」と言うと後ろの座席から
「あー、それ俺のダチ。狭心症があるんだっつーからさ。大丈夫かぁ?」なんて呑気な声。
「お酒飲んでるんですか?」
「あー、飲んでる。しこたま飲んだ。そいつは自分の限界ってのを知らねぇ奴でよ。普通は自分がどのくらい飲んだら・・・」
とベラベラしゃべり出した。そうこうしているうちに患者の顔色もよくなり、
「んあ〜?なんだよ。胸はいたかぁない。」なんて話もはじめたので、
「すいませんがお友達の方。その席をこの隣の方に譲って、あなたはこちらに来てください。」
「そして顎のこことここをこう持って、駅に着くまでこうやって支えておいてください。こうしていればもう大丈夫ですから。飲みすぎが原因でしょうが、病院に行っていちおう心臓も併発しているかどうか調べてもらってください。」なんてあれこれ指図なんかしたりして、手を良ーく洗って席に戻りました。
「まあ、行かなければことによっちゃぁ・・・だったからまぁ良かったね。」
なんて話ていると
「ピンポーン♪ご連絡いたします。ただいま○○駅に救急車を手配いたしました。ご協力いただきましたお医者様。大変ありがとうございました。車内放送で失礼いたします。」
なんて放送が入って、またこっ恥ずかしい思いをしました。
いちおう人助けをして気分は良いような気もしつつ、ひどい酔っ払いだったのがちょっと腹立たしくもあり、まわりの乗客のシラーっとした冷たさも不快に思い、
「ひさびさの会話の時間を奪われたんだから飛行機みたいに次回グリーン車へグレードアップ券でもくれたらいいのにねぇ。」
なんてなことを言ってみたりして・・・
実はこれが本音だけれど、医者は病んでいる人を救うのが当然だからこんなこと言うとブーイングの嵐がやってきちゃいますね。
・先日の当直中の朝8時前に警察から連絡がありました。うちの内科に通院中の患者さんが自宅浴室で死体で発見されたのでみに来て欲しいとのこと。そういうのは一応、変死体ということになるので通常は病院の死亡診断書ではなくて、検死にまわるのです。
検死は専門の担当者が行います。ただし、通院中の病気が原因で死亡したものと考えられる場合には直前に病院にかかっていなくても、死亡診断書を作成してもよい決まりになっています。いずれにしても、当直中に病院から離れる訳には行かないので、断ろうとしたところ、副院長が偶然来てその間の当直は診ておくから行って来い。とのこと。
カルテを持って警察の車で行ってきました。そういう変死体をみに行くのは初めてのこと。
着くと警官が沢山現場検証?などしていて、こちらです。と案内されて和室の襖がガラッと開くと部屋の真ん中にゴロンと全裸のお婆さんの死体が横たわっていました。まずこれにちょっとビックリしました。癌等の病気の患者さんが自宅でなくなる場合、死亡確認に行くと、浴衣やパジャマを来て布団をかけられた状態で家族に囲まれて横たわっているので全然光景が違うんです。
死後12時間近く経過しているようなので、死斑も死後硬直なども亡くなってすぐのご遺体とは違います。浴槽内で亡くなっていたので足も曲がっています。
話を聞くと前日の夜、お婆さんが入浴中に息子さんは2階に上がり就寝。朝、いないので探したら浴槽で死んでいた。と。
カルテを見ると87歳の患者さんは腎不全と心不全、不整脈があり、数ヶ月前に急に悪化して入院歴があり。
いつ急変してもおかしくはないような病状ではありました。警官に髄液を採ってくださいと、見慣れない金属の太い針を渡されました。死体を横向きにして、背中に針を刺して髄液を採取しました。これもやりなれないことで違和感があります。
髄液は透明でした。すると、警官は「髄液は綺麗ですね。脳ではないということですね。では心臓か腎臓ということで説明つきますか?説明可能なら死体や家の状況には不審な点はありませんし、病死ということで診断書をかいてもらえませんか?」
しかし、髄液の見た目だけで脳でないと何でいえるのだろうか?外傷やある種の脳出血でないというだけだと思うのですが、法医学の専門知識もないし、脳梗塞でも心臓でも体勢に影響ないので警官の意見にしたがいました。
検討すると幾つかの死亡原因が考えられました。なかでも数ヶ月前の入院に絡んで一番可能性の高そうな病名に<疑い>とつけて診断書を作成しました。
病院に戻って主治医に会ったのでそのことを報告すると、確かにいつ急変してもおかしくないような病状だったけれども、一人で安心して入浴できるような状態ではなかったのではないか。同居の息子さんはほとんど面倒をみずにヘルパーに任せきりだった。という話。殺害とか明確な殺意などがあったかはわかりませんが、死んでもかまわないという気持ちが存在した可能性もないとは言えない・・・
浴槽で死んでいたっていうのは悩ましいです。死亡推定時刻も変化するし・・・いろんな可能性がある。
ずっと前に50代の女性が浴室で心肺停止で搬送され、蘇生で心臓だけ回復。数日後に死亡しました。
原因がわからないまま最終的に病死扱いになりました。本当に病気だったのか?とずっと疑問に感じていました。
でも、はっきり不審な点がないと警察に通報しないことも案外あります。
多少疑問に感じて連絡をしても、明らかに事件性がなければ病死扱いにしておいてくれ。と警察に電話で言われることもあります。
警察も、病院外の死亡を全て事件にするとキリがないのか(?)、出来るだけ病死にしたがる傾向があります。
実際に特に高齢者の場合は突然死も多いし原因がはっきりわからなくても、病死扱いにしているケースというのは結構あります。
しかし家族、特に高齢者を病死に見せかけるのは現実にはいとも簡単だと思います。
首を絞めたり、薬をもったりと実際手を下すというのではなくて、こうすれば、あるいはしなければ死んでしまうだろうな。と予想できることはかなりありますから。気が付かなかった。見てなかった。というのはその人しかわからないですからね。
今回のケースがどうかはわかりませんが、世の中には表沙汰にならない殺人事件というのが実は結構あるんじゃないかと思うのです。
今回のような変死体の場合はいろいろと考えますが、死亡直後や死亡寸前で搬送された場合、どうしても我々は救命とか病因という方に目がいって、事件ということは認識外なので気をつけなければいけないなぁ。と思いました。
・呼吸困難の患者さんを搬送します。と、消防署からの連絡。どうも過換気のようだ。とのこと。
過換気症候群とはストレスなどが誘因で呼吸をしすぎてしまう状態のことで、精神安定剤を注射することでおさまります。なので、内科当直に連絡があり、そのつもりで待っていたところ、到着したら、ゴミを捨てに外に出たらヤクザに突然襲われて首を締められたといって苦しがっている女性でした。
首にはしっかりと締められた後があり、爪で皮膚が傷ついていて、手足にも擦過傷や打撲痕が多発していてました。
過換気なんかではなさそうなので、あわてて警察を呼びました。
警察は到着するなり5,6人で患者さんを取り囲んで、仁王立ち。
冷たい視線で「どうしたのっ!?」って、なんだか威圧的な態度です。
ここらの警察はこんなに冷酷なのか。と驚いていると、その患者さんは警察の常連さんのようでした。
いままでにもお酒を飲んで暴れたり、暴力をふるったりしてお世話になっているらしいのです。
でも、今回の外傷は自分でつけたものではないので、誰かに首を締められたのはたしかなのですが・・・
事件や事故による外傷は普段は外科が診てくれるので、なれない私はあたふたしてしまいました。
そう考えると、外科の先生っていうのは、事件がらみの患者さんも多くて大変ですね。
・なんとなく元気がないという80代のおばあさんがやってきました。外来検査の結果では重症の貧血と、軽い心不全がありました。入院をして貧血の原因を調べているうちに脳梗塞を起こしてしまいました。脳梗塞が起きると急激に痴呆が進行しました。そして数日後には熱が出始めました。発熱をきっかけに不整脈の発作などもおこしてしまいました。
入院して数日で容態はどんどん悪化してしまい、一方で原因は不明。というか、検査をしようとすると何か新たな発作が起きたりして充分に検査が出来ません。そんな状況に家族は苛立ち、主治医に不信感を抱き、いったいどうなっているんだ!と主治医に詰め寄りました。
それは当然な気持ちであり、一方で「入院していれば脳梗塞や心臓の発作は起きない。」というような勘違いもあり、でなかなか納得はしていただけませんでした。
その後の検査で、胆嚢に大きな癌があることがわかりました。そして、そこに感染を起こして膿が溜まっていました。
進行癌があるために貧血や脳梗塞が起こっていると思われました。
ボイスレコーダーを持って詰め寄ってくる家族はストレスフルではありましたが、何とかわかってもらおうと出来る限りの話をして、依頼があればカルテもお見せしました。そして途中からは家族と話し合って患者さん中心の治療を行い、最後には患者さんと家族を思って治療をしました。
そして、遂に患者さんは苦痛なく人生の幕を閉じ、ご家族にも満足していただけたようでした。
癌、特に肝臓以外の消化器の癌というのは早期で手術的に切除できるもの以外は治すことが出来ないというのが現状です。化学療法やいろいろな処置も根治的ではなく医者の無力感を痛感する瞬間です。
進行癌の前にあっては内科医は多くの場合、敗北です。
癌の末期治療においては患者さんの苦痛を取り除くことを最優先に、患者さんと家族の時間を大切にして、そして残される家族に悔いの残ることのないように、最大限看護や介護に協力していただけるようにバックアップをしています。
そういう上で、患者さんや家族との信頼関係っていうのはまず大前提ですから、今回の一件に関しては始めは大失敗だった訳です。最大のミスは入院初日に「命に関わるような病態ではなさそうだ」と言ってしまった事です。
(翌日にはこの人助からないかもしれないと感じたのですが。)
医療ミスはなくても一度信頼を失ってしまうとそれを回復させるためには本当に努力と時間が必要でした。
年配の先生が言っていました。高齢の患者さんには一見たいしたことなさそうに見えても、何が起こるかわからない、死んでしまうかもしれないといっておいた方がいいと。
思ってもいないのにそんなふうに言うのはいやだな。と感じていましたが、やっぱりそうなのかもしれないと思いました。
たった一言がなかったために、信頼を失ってしまい、そのためにご家族が検査を拒否したり、何か検査をするために全て承諾を得なければいけなかったり、と通常よりも診断、治療に必要以上に時間がかかってしまうこともありました。
医者になって8年目。重大な病気がありそうか、なさそうか。重症か軽症か。患者さんをみて少しすればおおかた解るようになってきましたが、そういう印象とか勘を過信してはいけないなと改めて思いました。
いつものことですが、初心に帰って慎重に診療に当たらなくてはいけないと感じた今日この頃でありました。
・今、私には悩み事があります。救急で入院させた患者さんのことでとても困っています。なぜか?
その患者さんは、日本人の姓名を名乗るまだ若い女性ですが、一目で他国籍の方だとわかる方で、保険証はありません。
名乗った名前はいわゆる源氏名なんですね。結婚していますか?と聞くと、結婚しているが、夫には妻がいると・・・○×▲?
日本の仕組みだと、保険さえ使わないならば、どんな名前と年齢でもカルテを作れるんですよね。
私が「浜崎あゆみ、26歳です。」って言えば、浜崎あゆみ、26歳。のカルテが出来上がるんです。(笑)
こういう患者さんは、よほどでなければ入院させないので、よほどのことがある病態なんです。
とてもとても大変な病態で、命に関わる病気で、しかも特殊な病気でとってもお金がかかるんです。
どうやらVISAは切れているようで、不法滞在なんですよね。通報すれば強制送還ってとこなんですけど、密入国だったりすると帰国までの手続きがややこしくてすぐに帰れない場合もあるようです。
金銭的に余裕のある方なら問題は無いのですが、そうでもないらしくて、状態が状態なだけにいろいろと検査をしたいんですが、支払いのことなんかも気になります。
人道的、医学的にはどんどんやる必要があるんでしょうけど、支払いができなかった場合は病院の負担になります。
自分の負担じゃないからいいような気も少ししますが、公立病院ですから、みなさんの税金ということですよね。
無駄な検査は控えたいとも思うし・・・ 一方で日に日に、というか数時間単位で目の前で悪化していく患者さんをお金が払えないからとほうってもおけません。
不法滞在の人を見たときには、我々には本来通報の義務があるんです。通報すれば強制送還となって、知っていて雇っていたお店などは摘発されます。(知っていて治療したからといって医療者が罪に問われることはまずありませんが。)患者さん本人が入国管理局へ出頭すると、摘発などは免れるようなんですが、とても入国管理局までいける状態ではないんです。
どちらの場合も帰国費用は本人持ちですから、費用が工面できないと、収容所で過ごすことになり、おそらく帰国までに命は持たないでしょう。
ですから、雇っていたお店の人や他の従業員、夫という人に支払いを依頼していますが、暗に通報、摘発のことを含みながら医療費や帰国費用の支払いを依頼する・・・
これってある意味、脅し、恐喝ですよね。
そもそも、不法滞在という法を破っている言ってみれば犯罪者なわけですが、目の前にいるのは病気の患者さんなのです。
法を優先させるか、命を優先させるか・・・
こんなことに日々頭を悩ませています。
・今の病院に赴任して約3ヶ月。東京に比べると圧倒的に診た患者さんの数は少ないのですが、なぜか珍しい患者さんに遭遇しています。
一人でスキーに来ていたところ、熱が出て腰が痛むという男性が来ました。
その方は数日前に凍結した道で尻もちをついたと・・・
熱と腰痛は関係があるのかないのか?
腰を叩くと非常に痛がります。普通に考えれば、腎臓にばい菌が入って起こる腎盂腎炎かなぁ。と思うところですが、尿は綺麗です。
腰痛は転倒の影響なのでしょうか・・・?
血液検査をしたところ、非常に強い炎症がありました。
身体のどこかにばい菌が入っているようです。とにかく入院してもらいました。
熱と腰痛。あまり多くはありませんが、化膿性脊椎炎という背骨に感染をおこす病気があります。
これかなぁ?と思いつつシンチグラムという放射線の検査をしてみましたが、当てはまりませんでした。
腎臓などお腹の中もCTで検査しましたが、異常ありません。
全身調べても熱の原因が見つからず、髄液の検査をすることにしました。
髄液とは脳や脊髄の周りを流れている液で、脳炎や髄膜炎のときに異常がでます。
症状は腰痛ではなくて頭痛になるはずですが、ちょっと会話がかみ合わないこともあるので、意識障害と考えて髄液検査をしました。
その結果、正常の髄液は透明なのですが、黄色い濁った液になっていました。しかも、検体を振ると細胞成分が固まっていくのです。(こんなに明らかに見た目がおかしい髄液は初めてみました。検査室からもこれは髄液ではないのでは?と問い合わせがきたほどなのです。)
診断は細菌性髄膜炎。
まずは診断がついたのでほっとしました。
しかし、何日かしても熱は下がらず、血液の結果も腰痛もちっともよくなりません。
髄膜炎だけではどうしても説明が出来ません。腰痛の原因はなんだろう・・・
CT,MRI、超音波といろいろ調べて、整形外科の先生にも診てもらいましたが、原因は不明です。
どこかに膿瘍があるんじゃないか・・・
もう一度、はじめにやったのと同じ検査のCTを取り直しました。
すると、1週間前には異常がなかった骨盤の腸腰筋という筋肉の中に、膿が溜まっていました。
更にもう一度全身を調べたところ大胸筋の中にも膿が溜まっていました。
こちらも、1週間前の検査では異常なし。
普通糖尿病とか癌とか無い人にはあんまり膿は溜まらないものなんです。
しかし膿が溜まる膿瘍ということであれば治りが悪いのは納得できます。薬の量を倍に増やして長期戦になる覚悟を決めました。
膿の溜まっているところを切開して膿を出し、ようやく熱が下がって来ました。
今でも会話はちょっとかみ合わないままなのですが、ようやく連絡がついた家族によればもともと。とのこと。
連絡のつかない妻や子供というのは、空想上の人でした。(苦笑)
今回改めて思ったこととして、当たり前だけれど患者さんの訴えを良く聞かなければいけないなぁ。ということです。
つい、私たちは検査の結果を重要視しすぎて、一度異常なしと出てしまうとその病気は完全に否定してしまう傾向があります。
そして、診断に都合の良い訴えだけを無意識にピックアップしてしまったりしがちなのですが、患者さんはめったなことでは嘘はいいませんから、痛いと言うところは痛い。おかしいというところは異常があるものです。
検査の結果をみて、そんなはずは無いだろうと、患者さんを疑ってしまうのって、すごい医者のゴーマニズムですよね。
・最近入院させた脳梗塞の患者さんがありましたが、始め右半身の麻痺があり、左の脳梗塞の診断で入院させましたが、数日後、今度は左半身の麻痺が出現しました。
驚いてCTをとったところ、ちょうど反対側の同じ部分に脳梗塞が出来ていました。
これは左右別の血管で、こんなに時期を近くして両側に出るというのはこれまでみたことがありません。
しかも、ここ最近は脳梗塞は神経内科に任せていたので、脳梗塞の患者さんを自分で診たのは久しぶりでした。
ですから、何か治療がいけなかったかとか、診断が間違っていただろうかという不安に駆られて、その症例をカンファレンスに出しました。
診断も治療も特に間違いは無かったのですが、神経一筋数十年という先生もこんなケースは診たことがないとのことでした。
発作を繰り返したので、薬を強い薬に変更したところ、副作用の消化管出血が生じてしまい投薬の中止を余儀なくされました。
そうこうしているうちに今度は狭心症の発作を起こしました。
これは血管系に異常があるのではないかと、血管炎や膠原病などの検査もしてみましたが何も見つかりません。
治療をしていて悪化してしまうとき。副作用や合併症が出てしまうとき。
何か自分が間違っていなかったか。いけないことをしてしまわなかったか。ととても不安になります。
だから、いつもいろんな人に相談をしながら仕事をするようにしていますが、人間の身体は予測が出来ないことも多く、絶対という確信はなかなかもてません。
でも、みんな自信を持って仕事をしているように見えます。
そんな時、あるバリバリ仕事をしている循環器内科の女医さんが、
「先生はもういやになることありませんか?私は出来たら結婚してはやく医者をやめたいです。」
と話してました。
やっぱりみんな不安で、ストレスをかかえているのかな。
近頃は間違いではなく、予測される副作用や合併症でも医療ミスだと言われて訴訟になったりします。
だから、起こり得ることを全て説明しなければなりませんが、それは患者さんの不安を増強させてしまうんですよね。
上手く説明をしつつ、協力して治療をしていくのは意外に難しいことです。
誰か、将来の見えるメガネつくってくれないかな・・・
・先日の当直中、料理店で出されたナマコを食べたら気持ちが悪くなった。
匂いが悪く腐っている。という方々が2人、数人の付き添いとともに救急車で来院しました。
お酒をしこたま飲んでおいでのようで、アルコール臭が漂っています。
もう既に、店と病院の区別もつかないようで、
「こんなものを客に食わす奴があるかー!!お前喰ってみろ!!」
と自分の吐き出したナマコを持参してすごい剣幕。
そちらの筋の方なのか、取り巻きもがたいがよくて、今にも殴りかからんという勢い。
今すぐ食品の検査をしろ!と大騒ぎです。
「ここは病院ですから・・・」
といっても、理解はされず、「同じ地方公務員だろうが!!って・・・
保健所の担当の方を連絡をして食品は当院で冷凍保存することに。
で、病院としては症状を悪化させない対策をすると説明して薬を処方しました。
しばらくして・・・
「このやろー、病院のくせに患者を診ないで帰れとはどういうことだーー!!」
って、あなたそりゃぁずっと立ってウロウロして近寄ろうもんなら殴りかかろうとしたじゃないですか。
と思いながら再び診察室へ招き入れてじゃあ横になってください。と。
おやおや素直に横になる。
おなかの診察をしていると。
「先生。」
「なんですか?」
「愛してる。」
はー、これだから酔っ払いは付き合いきれない・・・・
そのうち調子に乗ってそのおじさんは股間がどうのこうのと言い出したので、適当にあしらって追い返しました。
あ〜ぁ、毎度のことですが、こんなために当直しているのかと思うとがっかりしますね。
しかも、この方々その店の常連さんだったらしく、翌日やってきて店との関係があるから無かったことにして欲しい。
だなんて・・・
まったくやりきれません。
酔っ払いの方々。くれぐれも病院では暴れないで下さい。お願いします。

2003年までの当直日誌

2001年までの当直日誌