治療の歩み(1986.5.26〜2005.12.15)(2005.12.16〜2008.10.13)


 開院してそろそろ20年になる。最近になり、自分の治療体系が出来てきたような気がする。 最初は、夢中でがむしゃらに治療を行い、新しい発見があったと喜び、何故治らないのだと 悲しむ日々だった。
 最初の3年間は、ほぼ鍼(はり)治療のみ。祖父の言葉もあり、マッサージの看板は掲げていたが、 あまり熱心ではなかった。今は、親指の関節も変形し、丈夫に育ち、マッサージをしても平気になったが 、最初は指が腫れてズキズキした。この世でマッサージほどひどい仕事は無いと思ったぐらいだ。
鍼治療は響き重視の鍼で、どうすれば響かせられるか、そればかり研究していた。この鍼はギックリ腰 や頭痛に抜群の効果を発揮する。そのため、何でも響かせればよいと、多少自分勝手な治療をしていた ような気がする。たくさん治療するうちに、一人一人感受性、体力の違いがあり、何でも響かせれば よいというものではない事がわかってくる。ただ、この響きの研究は必要だった。自由に響かせる事が 出来なければ、強くしたり弱くしたりとか調整は出来ない。

 ぎっくり腰の治療は、悪い所を響かせる。たとえば、右腰が痛いときは、右側を響かせる。 左側も鍼を打つがあまり響かせない。
鍼灸師(しんきゅうし)をやっている人ならわかると思うが、痛く無い側はよく響く。そして、痛い右側はなかなか 響かない。これは当たり前のことで、組織が正常なところは異物である鍼(はり)にすぐ反応するが 、痛くてしょうがない所は鍼に反応してくれない。このなかなか反応しない所を響かせるのが、 治療のコツだ。
 患部に鍼を打っていくと、ある深さのところに、硬さが微妙に違う筋肉が見つかる。この筋肉だけ 上手に鍼を雀啄(じゃくたく、雀が啄ばむように鍼を上下させる)すると、突然筋肉が小さく痙攣する。指先には魚釣りの時の、あたりのような感覚がある。 このとき重要なのは、すばやく鍼を抜き上げること。抜き上げ損ねると、鍼が曲げられてしまう。 鍼が曲がれば、多少なりとも組織が損傷するので、なるべく避けたい。
 また、抜き上げすぎると体表から鍼が抜けてしまうので、繰り返し同じ所を響かす事が出来なくなる。 ヒット・アンド・アウェイみたいな感じで上手に響かせると、硬い筋肉が無くなり、周りと同じ硬さになった のがわかる。すぐに起きてもらい、痛みを確認すると、程度が軽い場合はそれだけで治ってしまう。 まだ痛みが取りきれていないときは、再度治療をおこなう。この治療法は、雀啄や逃げが出来ない と不可能なので、置鍼(ちしん、鍼を刺しっぱなしにして置いておく)や通電鍼(置鍼に電気を送る)では無理だ。
 また、頭痛のときは風池(ふうち)、天柱(てんちゅう)といったつぼを響かせるのだが、症状が良くなるに連れ、 響きが強くなる。最初、欲しい所によく響き、気持ち良いと言ってくれた患者さんが、治ってくるに したがい響きが強く感じられ、あまり気持ち良くなくなる。その為、良くなった後も定期的に通お うという人は多くない。今までの経験からすると、完全に治してあげると来なくなる。 治療していると少しずつ良くなるという患者さんのほうが、長続きする。しかし、こればかりは 治せるのに治さないなんて事は出来ない。
 こう書くと、鍼で何でも治せそうだが、そう簡単にはいかない。たとえば、ギックリ腰を1回の 治療でかなり治したとする。翌日とか、何日後かにまた来てもらうことにするのだが、中には数時間後 とか翌朝に動けなくなってしまう事もある。そんなことが時々あると、響かせる治療が段々怖くなり 、効かない治療のほうが良いのではと思ってしまう。何故そう思うのかというと、効かない治療で あれば、ちっとも良くならないと文句を言われることはあっても、余計ひどくしたと言われる事は無い。 しかし、一旦良くなったものが再度悪化すると、鍼治療なんかしなければ良かったと言う事になって しまう。
 同業の鍼治療院で、響かす鍼を打っている所がほとんど無いのは、この恐怖に打ち勝てなかったのも 一因なのではないかと思う。私が何故その鍼を続けられているのかと言うと、それは必死で考えた 結果だと思う。
 その場でかなり良くなるのだから、決して悪い治療のはずが無い。何故戻ってしまうのだろう。
 最初は、悪い所を上手に響かせれば、治るはずだという考えだった。しかし、頭痛などは上手に響か せればかなり効果があるが、ギックリ腰は響かすと言うより、筋肉が小さく動いた時のほうが 結果が良かった。鍼治療で強く響かすと、鍼の麻酔効果もあり痛みは軽減する。しかし、あくまで 麻酔効果であり、麻酔が覚めれば痛みは戻り、治った訳では無い。でも、筋肉が動いた時は治って しまうことか多かった。これは何故なんだろう。
 ギックリ腰は、そこが炎症を起こしているから、湿布でも貼って安静にしていなさい。これが、 一般的な治療法だ。本当に炎症なのだろうか、炎症なら鍼治療をして筋肉が動いたぐらいで治る はずが無い。
 ギックリ腰になった患者さんに話を聞くと、そんな無理な動きをした訳ではない、ちょっと捻った 時に、何か奥でズンとしたと思ったら、段々動けなくなってきて、ついには全然動けなくなった。 そんな人がほとんどだ。
 そこで一つの仮説を立ててみた。炎症では無いのではないか。動いた拍子に何かが神経に触れしまう。 人間の体はその部分が傷ついたと思い込み、筋肉を固めて治そうとする。本当に傷ついた時、筋肉を 固めないと出血は止まらない。また、動いた時に 痛みが発生するような状態にしないと、平気で動かし てしまい、傷口もくっつかない。体はすごくうまく出来ていて、自然と傷口を治すが、たまには勘違い をする事もある。ギックリ腰はどうもこの体の勘違いなのではないだろうか。
 この仮説に沿って考えてみた。筋肉を弛めた程度では簡単に治らない。長い時間、筋肉に締め付け られていた神経は、筋肉が少し弛んだとしても、筋肉と神経が癒着してしまい、なかなか剥がれない。 そのため筋肉を動かすと、神経が引っ張られ、その痛みでまた筋肉が収縮する。どうも、そんなこと が繰り返されているようだ。
 鍼治療で硬くなった筋肉がプルッと動くと、急に痛みがなくなるのは、その時癒着が剥がれるのでは ないだろうか。そうすると、体を動かしても神経が引っ張られる事は無く、痛みがとれる。
 では何故元に戻ってしまうのか。治療した直後は癒着が剥がれたとしても、じっとしていると、 またくっ付いてしまうのではないだろうか。今まで痛みのため収縮していたのだから、血流もリンパ の流れも悪くなっていて、癒着しやすくなっている。そう思い、患者さんに、治療後、家に帰ってから 寝たりとか、同じ姿勢で座っていたりしないようにお願いした。また、反ったり捻ったりすると、 最初の時のように神経に触るといけないので、横に小さく1秒に1回程度、腰を振るように指示した。
 この腰の横振りはかなり有効で、癒着を防ぐだけでなく、筋肉の血流を良くする効果があり、 慢性腰痛の人にもお勧めだ。
 夜、寝ているあいだは動かせないので、朝は固まっている可能性が高い。起きる時に無理して捻って 起きると再発する事があるので、布団の中でうつ伏せになり、お尻を持ち上げて起きるやり方を指示した。 これらの指示により、今まであった数時間後の再発や、朝起きられない、ということが無くなった。 やはり、じっとしていると固まってしまうようだ。
 ところで、ギックリ腰の鍼治療は、起こしてから1日以上たってからのほうが効果的だ。以前、1、 2回で治してあげた患者さんが、またギックリ腰をやってしまったので、すぐ治して欲しいと電話し てくるときがある。今度も一発で治してくれと言っている。いつやったのかと聞くと、ほんのちょっと 前だという。これは、なかなか難しい。やってすぐだと、まだ神経が興奮していて、鍼で弛めても筋肉 がすぐ収縮してくるのがわかる。そんな時は、強めに響かせ、鍼麻酔的な治療をするしか無い。 本格的な治療は翌日以降になる。

 腰痛の人で、それほど痛くないが、いつも重いという人がいる。聞いてみると、何回か ギックリ腰を起こしたことがあり、その後ひどい痛みはとれたが、重い感じが取れないと言う。 これは、根が深いので、ただのギックリ腰より治すのに時間がかかる。一見、ギックリ腰のほうが 痛みの程度が強いので、ひどそうだが、そうではない。
 からだは体表に近いほど、痛みを感じる受容体が多く、深いところはそれほどではない。ギックリ腰 は浅い部分まで固まってしまうので痛みが強い。そのため、浅い部分が弛めばひどい痛みはとれる。 しかし、重く鈍い痛みが残っている時は、それも治さなければ、たとえひどい痛みが取れたとしても、 治療したとは言えない。重い痛みがあると言う事は、深いところがまだ固まっていると言う事。そのまま にしていると、頻繁にギックリ腰を繰り返したり、慢性腰痛や坐骨神経痛になったりする。
 深いところが何故弛みにくいのかと言うと、背骨に近いので可動範囲が少なく、日常生活で大きく 動くことが無いためと思われる。
 治療としては、深い部分の鍼治療をおこない、癒着を剥がす。患者さんの協力も必要で、暇さえあれ ば腰の横振りをしてもらう。そして、同じ姿勢でじっとしているのをなるべく避けてもらう。
 また、ギックリ腰を起こし、3週間以上安静にしていると、その部分の筋肉は固まった状態が続き 栄養不良となり、硬く疲れやすい筋肉に変性してしまう。なるべく早く治療を開始し、何とか頑張って 、3週間以内に重い痛みまで取るようにすれば、慢性腰痛にならない。
 鍼治療をしていると、いろいろな事がわかってくる。体のなかをボーリング調査しているようなも のだ。特に筋肉についてはよくわかってくる。ところが、鍼の学校で習う刺入法は回旋術だ。これは, 錐(きり)のように揉み込みながら刺入する方法なので、刺入しやすく痛みも少ない。しかし、これではどの 部分がおかしいのか、指先に感じる事は出来ない。鍼治療をやっているのに、指先で感じられないのは 、ちょっともったいないような気がする。指先の感覚と治療効果の相関関係を覚え、その積み重ねに より自分の腕を上げてゆくのが鍼治療の面白さだと思う。

 鍼治療でわかったことは、痛みがある筋肉は収縮して固まっている事が多いということ。これはある 意味当たり前だ。筋肉は力を出す時、収縮する。しかし、元の長さに戻るための力は出ない。収縮を やめるだけだ。痛みがあると、筋肉は収縮状態になり、それが永く続くと、硬くて短いスジ状の筋肉 に変わってくる。この筋肉を元の長さに戻し、筋肉と神経の癒着を剥がしてやれば、筋肉系の痛みは たいがい治ってくる。

 最初の頃、ギックリ腰は治せたのに、坐骨神経痛は難しかった。腰、臀部、足に鍼を打つの だが、たまに治る事はあっても、あまり良い結果は出なかった。
 95歳まで現役で治療師をやっていた祖父に聞いてみても、お前は何でもすぐ治そうとするが、そう 何でも治るものではない、ワシの所だって坐骨神経痛の治療で何年も通っている患者がいっぱいいる 、と冷たい返事しか返ってこなかった。
 でも、痛みがある筋肉は収縮している。筋肉を伸ばし、筋肉と神経の癒着を剥がせば治ってくる。 これに気付いてからは、治療方法が拡がった。癒着を剥がせばよいのなら、何も鍼治療じゃなくても 良いのではないか。
 坐骨神経痛の臀部から足の痛みは、臀部の筋肉が収縮してしまい、その筋間を通っている坐骨神経が 圧迫されることにより生ずる。元の原因が腰椎の4,5番付近だとしても、そこの治療だけでは治らない。 臀部の筋肉なんか、鍼を打っても筋肉が伸びる訳が無いし、癒着が剥がれそうに無い。そこで、スト レッチが登場する。
 単純に、縮んでる筋肉は伸ばせば元に戻るのではと考え、臀部の筋肉のストレッチを開発してみた。 これは見事にはまり、坐骨神経痛が治せるようになった。

 そのころになり、はじめてマッサージ免許を取っておいて良かったと思うようになった。祖父が鍼 専門だった事もあり、マッサージにはそれほど興味が無かった。しかし、長男が斜頚(しゃけい)だったこともあり 、マッサージ免許も一緒にとることにした。
 当時、斜頚の治療はマッサージ、もしくは手術だった。とても、マッサージに通わせるお金は無か ったので、自分で免許を取ってしまえば好都合だと思った。結局、マッサージをしないうちに斜頚の 手術をしたのだが、鍼の学校へ行っていたのが役に立った。
 そこで出会った同級生が、ラモス瑠偉の膝を手術した先生がやっている病院に勤めていた。当時、 スポーツ整形外科をやっている先生は非常に少なく、東京近郊では数人しかいなかった。その先生に 診てもらったところ、いま変形は出ていないが、これからさき変形がでたり、スポーツをする時に障害 になる可能性があるので手術をしたほうが良いでしょうと、快く引き受けてくれた。
 この手術のきっかけは、長男が小学校3年の時、学校の検診で斜頚の事を言われたことにある。
 長男の斜頚は生後すぐわかっていた。首が座る頃から整形外科に通い、治療をおこなっていた。治療法 は、頭をクリクリ坊主に剃り、テーピングで肩と頭を固定し、首の萎縮した筋肉を引っ張った状態に しておく、というものだった。髪の毛が生えそろい、可愛くなってきた頃だったので、ちょっと抵抗が あったが、丸坊主も意外と可愛かった。ただ、かわいそうなのがテープ交換の時しか頭が洗えない事 。そんな治療を何ヶ月か続け、これ以上良くなりそうも無いので、治療を終了した。
 それから何年もたち、子供の斜頚については、自分がマッサージの免許を取りさえすれば大丈夫と思 っていたやさきに、検診の先生に言われてしまった。整形外科でちゃんと見てもらったほうがいいとい う診断だった。
 整形外科医に知り合いはいなかったので、誰かいないかと考えた所、兄貴の親友で外科医をやって いる先輩がいた。さっそく相談の電話をかけてみた。
 今までの経過と変形が無いことなどを伝えると、急に怒った口調で、それは親のエゴだな、変形が 無いのに治したいと言うなら、美容整形にでも行くしかないなと、あっさり言われてしまった。電話 を切ったあと、無性に腹が立ったが、よく考えるとしょうがなかったのかもしれない。
 彼は生まれつき足に障害があったのだが、それを克服し、スポーツ、勉強ともに頑張り、医者になっ た人。彼にとっては斜頚など障害のうちに入らないのだろう。相談する人を間違えてしまった。
 この事を鍼の学校で同級生に嘆いていたら、うちの先生に聞いてあげようか、と言ってくれる奴がいた。 すぐに、その病院に子供を連れて行き、診察してもらった。手術してあげると言われた時は本当にうれし かった。
 手術は全身麻酔で、首の萎縮している筋肉を切るということだった。全部の筋肉を切ると首を支える 力が無くなってしまうかもしれないので、今回は半分ほど切り様子を見る。それでも具合が悪いよう なら再度手術、ということだった。手術は成功し、子供も再手術を嫌がったので、そこで終了した。
 普通、なぜ変形するまで手術をしないのか聞いたところ、筋肉を切る事自体は難しくない。しかし、 首は神経血管が多いので、それらを傷つけないように手術するのは大変だ。軽度の場合は後遺症を考え ると、やりたがらないのではないかと言っていた。
切った筋肉はどうなるのかと尋ねた所、勝手に縮んで無くなるか、動かしても邪魔にならないところ に付着するから大丈夫、とのことだった。この話しが、後に肉離れや肩こりの治療法を考える時に役 立った。

だいぶ話がそれてしまったので、筋肉の治療に話を戻そう。当時は筋肉と神経の癒着を剥がす事 に夢中だった。ストレッチが可能な所は、鍼は使わない。痛みがある筋肉の起始と停止(筋肉が骨に付着する部分の両端)の位置を調べ 、最大限に伸びるようにストレッチをする。それでもストレッチが足りない時は、その状態を保持し て指圧する。これで、ほとんどの筋肉の痛みは取れる。ただ、背骨の周りの筋肉は、無理にストレッ チをすると背骨をいためてしまうので、鍼治療となる。
 筋肉の治療で新しい発見は肉離れだ。肉離れの治療に訪れる患者さんがいる。たいがいは、 肉離れの再発。一度肉離れを起こし、3週間ほど安静。その後リハビリをしながら軽い運動をして 1ヶ月ほどたち、痛みもなくなってきたので練習を再開。そしたら、また痛めてしまったという患者 さん。
 診て見ると、切れた筋肉の残骸が塊となって残っている。その周辺がまた痛いと言う。治療はその 塊を剥がすためにストレッチをしたり、静脈リンパマッサージ、鍼治療をおこなう。しかし、強固に 張り付いて一体化しているので、剥がすのはなかなか難しい。その筋肉の最適なストレッチ方法を教 えてあげ、ひたすらストレッチしてもらうしかない。
 そんな時、自分も子供と走っていて肉離れを起こしてしまった。情けない事に、最後のラストスパ ートで負けそうになったので、エイと力を入れたら、ブチッと切れてしまった。あまりの痛さに、し ばらくは安静。内出血を取るために静脈リンパのマッサージをおこない、ストレッチは痛いので少し ずつしか出来なかった。結構早く治せたが、いためた場所に軽いつっぱり感は残ってしまった。
 この時、なぜ完全に治らないのか考えてみた。やはり、切れた筋肉の瘢痕がへばりついているようだ。 その時、ふと子供の斜頚の手術を思い出した。手術で切った筋肉は縮んでどっかへ行ってしまうので 大丈夫、残った筋肉が太く育つので心配は要らない。そんな話だった。
 そうだ、肉離れで切れてしまった筋肉が、前と同じ筋肉に戻るはずが無い。切れた部分は縮んで隣 の筋肉にくっついているはずだ。これをそのまま固めてしまうから、変な位置に瘢痕組織が残り、 隣の正常な筋肉まで動きが制限されてしまう。そのため、また同じ場所で肉離れを起こすのではない だろうか。
 では、どうすれば良いのか。切れた筋肉はどうせ役に立たないのだから、痛めた直後からストレッ チをして、他の筋肉の邪魔にならない所まで、移動させてしまえばよいのではないだろうか。そうす れば、変な位置に瘢痕組織は残らないはずだ。肉離れの直後は動かすとすごく痛い。あまりの痛さに 、じっと治るのを待っているのが、後遺症を残す原因になっているのでは無いだろうか。でも、これ は仮説であり、いきなり患者さんに試すわけにはいかない。
 試す機会は意外と早くやってきた。自分が、今度はテニスで、同じ場所を肉離れしてしまった。
 自説に従い、直後からストレッチしてみた。これは、本当に痛い。ちょっと力を入れるだけでも痛 いのに、そこをストレッチするのだから、痛くないはずが無い。感覚としては、裂かれるような痛み で、そんなことをしたら、もっといっぱい切れてしまい、ひどくなるぞ、そんな感じだ。でも、絶対 大丈夫なはずだ、今痛みがあるのは、断裂した筋肉が移動している痛みで、損傷してない筋肉がスト レッチで切れるはずが無い。我慢して、他の筋肉に影響しない所まで移動させなければ。当然、内出 血もあるので、リンパ静脈のマッサージもおこなう。このマッサージも半端じゃなく痛い。
 初日のストレッチは、強くやると気絶しそうになるので、気合の割にはたいした強さでは出来ない。 2日目、3日目とストレッチをしていくと、段々痛みがなくなってくるのがわかる。どうも仮説は正 しいようだ。これが、痛みが増したり、腫れあがってきたら、当然中止していた。4日目になると、 ストレッチをしても多少のつっぱり感はあるが、痛みはかなり無くなってしまう。その頃には、歩く だけなら痛みがなくなる。まだ完全に治ったわけでは無いので、筋肉に強い負荷をかければ、当然痛 みはある。
 人間の体は不思議な物だ。肉離れを起こしてから4日しかたっていないのだから、傷が治っている わけではない。でも、動かした時、神経さえ引っ張られなければ、痛みは感じないのだ。
 その後も、ストレッチとマッサージを繰り返すと、3週間ぐらいで違和感がとれる。最初は恐怖感 もあるが、運動を再開し、筋肉をなじませる。
 45歳ぐらいからは、筋肉がボロくなってきたのか、6回ぐらい肉離れをおこした。しかし、全部違 う場所で、再発はなかった。今でも後遺症が残っている所は無い。
 うちに他の治療で来ている患者さんが、たまたま肉離れをした時は、みんなこれで治してあげた。 割と簡単に治ってしまうので、周りからはたいした怪我ではなかったと思われているようだ。
 肉離れは、治し損ねると選手生命が絶たれる。一般の人でも、好きなスポーツが出来なくなったり、 思いっきり出来なくなり、だんだん年齢相応の動きになってしまう。よくスポーツ選手の肉離れの話 を聞くが、こうして治せばいいのになーと思う。
 肉離れの予防は、もちろんストレッチだ。ただ、雑誌などに載っているストレッチをみると、これ 、どこの筋肉をストレッチしているの、というものが多い。
 スポーツなどで痛みやすい筋肉はだいたい決まっている。たとえば、ハムストリングなどは、膝を 伸ばした状態でストレッチしても必要な筋肉は伸びない。膝を曲げた状態で腿を胸につけ、それから 膝を伸ばしていかなければ、肉離れを起こしやすい筋肉のストレッチにはならない。また、腿を胸に つける位置を変えただけで、伸びる筋肉は微妙に変わってくる。人それぞれ筋肉の長さや骨格は違う。 はやく自分の痛みやすい筋肉を見つけ、その部分を入念に、正しいストレッチをすれば、かなり怪我 は減ってくる。
 正しいストレッチとは、その筋肉の起始と停止(筋肉が骨に付着する部分の両端)を考え、体をどの方向に曲げれば、その筋肉が一番 伸びるかを考えれば自然とわかる。

 筋肉の治療に関しては、だいぶ自信がついてくるのだが、どうしても治せないのが五十肩だった。 腕を動かすと、肩の周りの筋肉に激痛が走る、それが五十肩だ。
 自分の理論に従い、痛む筋肉をストレッチしたり、鍼治療で癒着を剥がそうとするのだが、一向に良 くならない。しまいには、あきらめてしまって、何でも治せるわけではない、どこの医者や治療院に行 っても治せないのだから、治せなくても僕が悪いわけじゃないと開き直っていた。
 そんな時、僕を信頼し、健康管理を任せて、毎週通ってくる患者さんが五十肩になってしまった。信 頼を裏切るわけにはいかない。考えられる治療は全て試してみた。しかし、予想通り一向に良くならな い。患者さんも、五十肩は治るのに1、2年かかると言うから気にしなくていいよ、と言ってくれるの だが、そんな訳にはいかない。肩に関してはやることが無いので、痛む筋肉を軽く揉むだけだった。
 あるとき、肩を揉んでいたら、手にジャリっとした手応えが感じられ、肩関節が動いた感覚があった 。あれ、これはなんだ。同じ感覚が得られるように何度も繰り返してみた。だんだんジャリジャリ感が 大きくなり、上腕骨の骨頭が肩関節の中で動くようになって来た。
 患者さんに起きてもらい、腕を動かしてもらった。なんと、痛みがほとんど取れてしまった。まだ、 1回の治療なので、完全には腕が上がらない。しかし、日常生活には困らない程度にはなった。
 そうか、五十肩は痛む筋肉の問題ではなく、関節の滑りだったのだ。これで、肩の痛みにたいする説 明がほとんどつく。
 筋肉を痛めたのではなく、関節の滑りが悪いため、筋肉がこじられ痛みが発生する。筋肉が悪いため ではないから、そこをいくら治療しても治る訳がない。また、痛いからといって安静にしていると余計 関節が固まってしまう。五十肩のいやらしいところは、自分で治そうと腕をグルグル動かしてみても、 痛めるだけで滑りは良くならないところにある。
 治療法は上腕骨の骨頭を押して関節の中で動かす。ジャリジャリ感のあるところを探し、骨同士を擦 り合わせ滑らかにする。ちょうど関節の錆取りをするような感じだ。錆と言っても金属の錆ではなく、 軟骨が無くなり骨が露出した所に、ザラザラした石灰が付着している、そんな感じだ。
 治療を続けてゆくと、段々ジャリジャリ感が取れてくる。軟骨は再生しないが、骨の滑りが良くなれ ば、関節は引っかからなくなる。そうすると、変に筋肉が引っ張られる事も無くなり、痛みが取れる。
 五十肩に限らず、スポーツなどで肩を痛めたときも、最初は関節の引っかかりだったと思う。初期 の段階で、関節の滑りを良くする治療をおこなえば、すぐに回復する。痛みが長引き、安静にしてい る時間が長いと、関節はさらに錆び付いてくる。肩を治すには、まず肩関節の錆取りをして滑りを良 くしなければならない。

 五十肩の原因と治療法がわかってからは、いろいろな関節周辺の、痛みの原因がわかってきた。た とえば、手の親指の付け根が痛く、雑巾を絞ったり、はさみを使うのが困難な時がある。これは、関 節炎だとか腱鞘炎といわれ、湿布ぐらいしか処置がなく、あまり良くならない。しかし、これも関節 の錆つきが原因だ。ジャリジャリしているところを探し、滑らかにしてあげると、痛みがとれ動きも 軽くなる。
 足の甲などもそうだが、半関節であまり可動域は無いが、少しは動くという関節がある。こういう 関節が錆び付くと、結構痛みや腫れが生じる。骨が折れたり、ずれたりしている訳ではないので、レ ントゲンを撮っても異常は見つからない。そのうち骨が育ち、出っ張ってくる。半関節が固まって丈夫 になると、痛みもなくなるが、治るまでに結構時間がかかってしまう。こんなのは、滑りが悪く引っ かかっているだけなので、半関節を動かし、ジャリつく所をとってやると、すぐに治ってしまう。
 関節の滑りが悪いことが原因で、痛みが発生するときは特徴がある。突然、痛みが発生したり、急 に治ったりする。また、筋肉が痛むときでも、痛む場所が変わることがある。原因を考えれば当た り前で、関節が引っかかれば痛み、動きが良くなれば治ってしまう。
 肩関節のように、いろいろな方向に動く関節は、ひっかかる方向により無理に伸ばされる筋肉が変 わるので、痛む位置も変化する。

 筋肉、関節とだいぶ分かってくるが、それでも分かっていなかったのがテニス肘だった。ある程度 治せていたので、分かったつもりでいたが、原因は全然違っていた。
 自分もテニスをするので、テニス肘の相談はよく受けた。ある時テニスをしていて肘が少し痛んだ 。その時、何を考えたのか、自分も痛めてみればよく分かるのではないかなどと、アホな事を考え、 無理にテニス肘にしてしまった。これにより、テニス肘の痛みはよく分かったが、治るまで時間がか かり、ひどい目にあってしまった。
 テニス肘を文献などで調べると、前腕部の伸筋が繰り返し過伸展されることにより、筋肉の付着部 である上腕骨の外側上顆に痛みが生じるとなっている。僕もそれに沿っていろいろ治療してみた。
 筋肉の治療なので、鍼治療とストレッチ、疲労と炎症を取るためにリンパ静脈のマッサージ。こ れだけでは、まだ足りず、痛い所に円皮鍼をはり、痛み取りのためにしょっちゅう円皮鍼の上から押 した。この方法で、ほとんど痛みは取れた。時々、痛くなるが円皮鍼を貼って上から押さえれば何 日かで痛みは取れた。
 自分なりに、痛みの原因と治療法を解析してみた。テニス肘は痛い割には炎症を起こさない。普通 、骨の周りの炎症が続いていると、そこを丈夫にしなければと自然に骨が育つ。しかし、テニス肘の 場合は炎症が少ないので、なかなか骨が育たない。そこで円皮鍼を貼り、上から押していると、鍼に より炎症をおこし骨が丈夫になる。また、鍼による痛み止め効果もあり、それで治ると考えていた。 事実、それで治っていたし、回数は結構かかったが、患者さんには喜ばれていた。
 ところが、それがどうも違うとわかったのは、割と最近だ。よく来ている患者さんが、たまたま テニス肘になってしまった。テニスをした訳ではなく仕事で痛めてしまった。どれどれと言いなが ら、ここが痛いんでしょ、と上腕骨外側上顆のちょっと下を押したら、骨がゴクッと動いた。あり ゃ、何だ、この骨って動くの。そのあと肘を動かしてもらったら、テニス肘の痛みは取れていた。
 この時、今までの自分の治療法に対するかすかな疑問が解けた。なぜ完全には治らないのだろ うか。なぜ筋肉全体ではなく、上腕骨外側上顆だけに、痛みが発生するのだろうか。それと、テ ニス仲間でテニス肘が悪化し、ついには剥離骨折までした奴がいた。本当に過伸展だけで、剥離 骨折までするのだろうか。
 そう、テニス肘は、筋肉の過伸展の繰り返しによりおきるのではない。撓骨を押さえている靱 帯が弛み,骨が外側に動いてしまうことによりおこるのだ。そのため、上腕骨外側上顆にある筋 肉の付着部が、下から骨により持ち上げられる。特に、この筋肉が緊張している時は、筋肉には 引っ張りというより、せん断力がかかる。これでは痛いわけで、ひどい時は剥離骨折まで考えら れる。
 治療は、まず撓骨を元の位置に押し込む。弛んだ靱帯はそう簡単に戻らないので、テニスをす る時はエルボーバンドをする。エルボーバンドは撓骨が正規の位置に収まるように締め付けなけ れば効果が無い。また、日常生活でも、撓骨が外側に動かされるような動作は避ける。これで治 ってしまう。
 では、なぜ以前のような治療法で治っていたのだろうか。一番の原因は円皮鍼だと思う。肘の 周りに何ヶ所も貼るのだが、一番効果があったのは撓骨と上腕骨外側上顆のあいだで、撓骨に近 い所だった。そこを鍼の上から押すように指示していたので、だんだん撓骨の位置が戻ったよう だ。
 そういえば、円皮鍼は大、中、小、極小のうち、極小が一番効果があった。それは、極小以外 だと押すと痛みがあり、あまり強く押せなかったためと思われる。何のことは無い、鍼が効いて いたのではなく、押す位置をマークしていただけだった。
 テニス肘は原因からわかるように、撓骨が完全に元の位置まで戻らなくても、痛みはとれる。 筋肉に触る位置まで撓骨が動かなければ、痛みは発生しない。そのため、永くテニスをやってい ても、筋肉に当たる位置までずれなければ、テニス肘にはならない。ある日突然テニス肘はやっ てくる。少しずつ靱帯がゆるみ、だんだん撓骨と筋肉が近づいてくる。そしてついに骨が筋肉を 押し上げ始めた時にテニス肘を発症する。
 また、テニス肘の原因が分かるきっかけになった患者さんのように、生まれつき肘の関節がゆ るい人もいる。こういう人は日常生活でもテニス肘になりやすい。反対に、ゆるみが少なくガッ チリした関節に生まれついた人は、多少無理してもテニス肘にはならない。
 テニス肘の原因が分かったのは嬉しいのだが、ちょっと悲しい事もある。今までテニス肘の治 療は、最低でも5、6回はかかっていた。それでも、今までなかなか治らなかったのが治ったと 、患者さんは喜んでくれた。今度は、その治療が1、2回で終わってしまう。もっと喜んでくれ るかと言うと、そうでもない。簡単に治ってしまうと、たいした事はなかったと思うらしい。そ れほど感謝されず、治療回数が減り、売り上げも少なくなる。技術の向上と売り上げが正比例し ないのは悲しい。

 テニス肘と反対に内側が痛くなる野球肘と言うのがある。これも、どうもテニス肘と関 係がありそうだ。
 ピッチャーをやっている小学生がやってきた。肘の内側が痛いと言う。痛みのためか、肘がまっ すぐ伸びない。肘の外側には痛みは無い。
 テニス肘の原因がわかるまでは、野球肘の治療も、鍼治療、ストレッチ、マッサージだった。し かし、今度は考え方を変えてみた。
 痛めたから肘が伸びないのではなく、肘が伸びない状態で投げたから痛めたのではないか。では 、なぜ伸びないのか。それは撓骨が位置ずれして伸びないのではないだろうか。テニス肘のときも 肘は伸びない。
 そこで、内側の患部を治療せず、撓骨を押し込んでみた。すると、今まで痛くて伸ばせなかった 肘が伸びた。肘を曲げ伸ばししても痛みは生じないという。痛めた内側にマッサージを施し、自分 でのやり方を教える。また、撓骨の押し込み方も教える。これで、1回の治療で治ってしまった。
 その後も、何人か野球肘を診たが、みんなすぐ治ってしまった。野球選手で、肘を痛めてから何 年もたっている人の治療をした事は無い。治るかどうかわからないが、一回試してみる価値はある と思う。
 肩もそうだが、関節周りの痛みは、原因場所と痛みの場所が違う事が多い。

 自分の体を痛めたときが、その状態がよくわかるため、いちばん治療法を見つけやすい。しかし 、テニスで転んだ時、手首を地面につき、手首の尺側内側を痛めたときは、本当にまいった。当然 、考えられる治療はすべてやったのだが、半年以上治らなかった。
 この痛みの特徴は、日常生活ではそれ程でもない。しかし、テニスをやると、特にフォアボレー の時、かなりの痛みが走る。スイートスポットに当たればまだよいが、当たり損ねると最悪だ。元 気にバンバンとボレーを打っている人を見ると、本当に羨ましくなる。痛いだろうなと思うと、ど うしても打つ瞬間躊躇してしまう。
 1、2週、テニスをしなければ、だいぶよくなるが、再開するとすぐ痛む。こんな状態が数ヶ月 続くと、テニスをするのが厭になってしまう。2ヶ月ほどテニスを休む事にした。その間治療に専 念し、完全に痛みをとってから再開しようと思った。
 日常生活ではほとんど痛みが無くなったので、テニスを再開した。しかし、痛みはすぐ再発して しまった。治療しても駄目、休んでも駄目、でもテニスはやめたくない。手首の解剖図を見ながら 必死で考えた。
 この方向に動かした時、この部分の腱が痛む。自転車に乗りハンドルを掴んでいると、時々手首 がゴリゴリする。残っている原因は、手首の関節円板軟骨が、手をついた時の衝撃で変形したぐら いしか考えられない。とりあえず、やってみることにした。
 痛みの場所を考慮し、はみ出していると考えられる所を押し込んでみた。あまり期待していなか ったのだが、強く押し込んだとき、指先にグスっとした感触があり、何かが中に入った感触があっ た。すぐに手首を回してみたら、今までと痛みの感触が全然違っていた。どうも痛みの原因はこれ だったようだ。その後、毎日手首を押し込んでいたら、1週間ぐらいで治ってしまった。痛めてか ら治るまで10ヶ月もかかった。
 軟骨がはみ出し、関節の動きがおかしいのが原因なのだから、いくら痛んだ所を治療しようが、 使わないで休んでいようが治るわけが無い。なぜ、早く気が付かなかったのだろうか。自分が情け ない。まー、原因もわかり、治ったのだから、よしとしよう。
 ところで、思い出してみると、自分が痛める1年ほど前、同じ症状で通ってきた患者さんがいた 。交通事故の後遺症で、事故から2年以上たつがまだ痛い、といって治療に来ていた。整形外科で はこれ以上治らないので、現状で我慢するしかないと言われたという。
 そこで、ストレッチ、マッサージ、鍼治療をおこなった。前よりだいぶ良くなったと喜ばれ、2 、3ヶ月で治療を終了した。しかし、今から考えると、あの患者さんも、軟骨のはみ出しではなか ったのかと思った。
不思議なもので、そんなことを考えていると、その患者さんから電話があった。別な所を痛めたの で、診て欲しいという。別の所の治療を終えてから、手首の事を聞いてみた。完全には治っていな いが、日常生活に不便は無いという。自分の手首の話をして、もう一度治療させてもらった。やは り、原因は軟骨だったようで、1回の治療で治ってしまった。
 前回は、自分の実力不足で回数がかかってしまったが、テニス肘同様、本当の原因が分かるとす ぐ治ってしまう。これ以降、手首の治療は、割と簡単に治ってしまうので、嬉しいような悲しいよ うな複雑な気分だ。

 足首の捻挫の治療は、歴史が古い。治療法の開発のきっかけは、やはり自分の足。テニスの試合 (もちろん草試合)の2週間前に、ひどい捻挫をしてしまった。どうしても試合に出たかったので 、何とか治せないかと、必死にもがいた。
 当時は、まだ鍼灸学校の学生だった。級友に聞いてまわったところ、父親が捻挫治しの名人と言 う奴がいた。痛んで腫れている所を無理やり押し込む、という治療法。これは、滅茶苦茶痛かった が、治療後だいぶ痛みが取れ、結構普通に歩けるようになった。
 これ以外に何か無いかと考えてみたら、1年程前、鍼の研修会に参加した時、やはり捻挫治しの 名人を自称する人がいたのを思い出した。突き指の時、指を引っ張るように、足首の関節を引っ張 るというものだった。その時のやり方を思い出しながら、級友に引っ張ってもらったところ、結構 効果があった。
 結局、試合には間に合わなかったが、日常生活に不自由しなくなるまでに、そんなに時間はかか らなかった。これが、開業後も捻挫治療の基本だった。
 捻挫の治療ではいろいろな事を学んだ。開業当初はこの基本だけだったが、症例が増えるにつれ 、いろいろな治療を試みた。その中で一番有効だったのは、リンパ静脈のマッサージだった。
 押し込みと引っ張りで、だいぶ良くなるのだが、足首の腫れと内出血は、引くのを待つしかなか った。そこで、何とかこれをとる方法が無いか考えてみた。腫れたり内出血しているのは、捻挫に より血管やリンパ管が損傷したために起こる。切れたものはしょうがないが、引っ張られてつぶれ ている血管やリンパ管は修復できるのではないか。また、リンパ静脈のあらたな流れ道を作ってや れば、腫れも内出血も速くひくのではないかと考えた。
 そんな時、知り合いの息子さんが階段で滑り捻挫したという。どうすればいいのかと言うので、 まず整形外科でレントゲンを撮り、骨折してないようなら、うちに来ればといった。足が地面につ くとかなり痛いようで、ケンケンしながらやってきた。
 さっそく、押し込みと引っ張りをやってみた。気絶しそうなぐらい痛いが、これを我慢すればす ぐ足がつけるようになる。そのあと、リンパ管、静脈管の修復マッサージをやってみた。これは、 リンパ静脈の流れに沿って絞り上げるマッサージで、イメージとしては溜まったリンパ液、血液を しごき、通りにくくなったリンパ管や血管を拡げると言う感じ。30分程マッサージを続けると、急 に腫れが引いてきた。そうすると、今度は下に隠れていた内出血が見えてくる。そこも、さらにマ ッサージを続けると、内出血も薄くなってきた。その日の治療はそこで終了し、明日来るように言っ た。もちろん痛みはあるが、歩いて帰れるようになった。
 翌日、来院したので、さっそく診て見た。腫れが元に戻ってしまったらどうしようと思ってい たが、ひいたままだった。リンパ静脈のマッサージは大成功だった。その後、1、2回治療し、マ ッサージのやり方と押し込み方を教えたら、すぐ治ってしまった。
 現在も、治療方法はほとんど変わらず、かなりの実績を上げている。後遺症もなく、最短で治る 。ただ、この治療の難点は、滅茶苦茶痛いこと。押し込みの痛みはかなりだが、一瞬で終わる。し かし、マッサージの痛みは延々と続くので、これがきついと皆さん言っている。でも、次々と紹介 があったり、再度捻挫したときもまたやってくるので、とてもよい治療法だと思っている。
 不思議なのは、鍼治療はそれほど痛くないのに怖がり、捻挫の治療はかなり痛いのに、鍼を使わ ないから安心だといって治療にやって来る。名前が遠藤はり治療院なので、鍼しかやってないと思 われてしまう。本当はいろいろな治療をやっているのに、何か名前で損しているような気がする。
 足首の捻挫の治療法は、現在もほとんど変わらないが、考え方が若干変わった。ただ押し込むの ではなく、捻挫する前の形に戻すように心がける。関節包、靱帯、軟骨を元の形にもどす。たまに 、外くるぶしがずれている事があるので、それも元の位置に戻す。足首を捻挫前の形に戻し、リン パ静脈の流れを良くしてやれば、あとは自然にからだが治してくれる。

 膝の治療は結構複雑で、現在の治療法に至るまで、長い歴史がある。治療法で、最初の発見は膝 蓋骨(膝のお皿)の引っ掛かりだった。
 ある朝、起きて階段を降りようとしたら、右膝に激痛が走った。どうしたんだろうと思って、膝 を曲げ伸ばししたら、余計痛くなって腫れてしまった。さっそく、診療所で自分の膝を治療してみ た。膝に鍼を打ったり、マッサージをしたり、当時考えられる治療はすべてやってみた。
 その甲斐もあり、比較的早く痛みはおさまり、日常生活やテニスでもあまり不便は感じなかった 。しかし、体重をかけ、膝を深く曲げると、膝の奥にかすかな痛みがあり、それは残ってしまった。
 よく考えてみると、その痛みは中学高校時代からあったような気がする。スキーか縄跳びで痛め たようで、スクワットのように膝を深く曲げると、不快感があり、力が出なかった。テニスでロー ボレーやハーフボレーをする時、もっと膝を曲げろと言われるのだが、曲げると力が出ず不安定に なり、なかなか出来なかった。
 いつもなら、この程度の痛みは気にならないのだが、今回は激痛を起こしたこともあり、じっく り考える事にした。解剖学アトラスを見ながら、こう動かすと、この位置が痛む、なぜなんだろう 。いろいろ考えているうちに、一つの事に気が付いた。
 当たり前のことなのだけど、大腿四頭筋、膝蓋骨、膝蓋靱帯は機能的には3つ合わせて1つの筋 肉と同じ働きをする。本当は、1本の筋肉でよいのだが、関節でこすれる所は、そのままでは炎症 をおこすので膝蓋骨となり、膝蓋骨と脛骨を膝蓋靱帯でつないでいる。
 膝の痛む原因を考えてみると、どうも膝蓋骨の動きがおかしいようだ。膝を伸ばした状態で、膝 蓋骨をいろいろ動かしてみた。動かすと、多少痛みはあるが、特に異常は見当たらない。次に膝を 曲げた状態から膝を伸ばしてみた。伸ばすとき膝蓋骨は上にあがってくるはずだと言いながら、膝 蓋骨の下に指先をあて、膝を伸ばしながら膝蓋骨を引き上げてみた。
 その時、バキッとすごい音がして膝蓋骨が膝から剥がれたような感触があった。なんだ、これは 。もう一度、同じことをやってみた。今度は、大きな音はしないが、伸ばすたびにカリッカリッと 一定の音がするようになった。今までは、曲げ伸ばししてもそんな音はしなかったのに。
 さっそく、しゃがんでみた。なんと、膝の奥にあった、変な痛みが消えていた。多少腫れがあっ たので、深く曲げると腫れぼったい感じは残っていたが、昔からあった膝の奥の痛みが取れてしま った。
 何分かたつと、またくっ付いてしまうのか、バキッと大きな音がする。確かめてみると、大きな 音をさせたあとは、深く曲げても痛くない。しばらく経ち、膝蓋骨がくっ付いた感触があるとき、 しゃがんでみると、やはり痛みがある。今は炎症が残っているので、くっ付きやすいようだ。
 炎症を取るためリンパ静脈のマッサージをおこない、膝のバキバキを繰り返していたら、完全に 治ってしまった。テニスなどで深く曲げた時も痛みがなく、力が入るようになった。また、貼り付 いている時の感触もわかるようになり、怪しい時はバキッとやるようにした。
 これは、膝の治療にかなり有効で、どうすれば簡単に膝が鳴るか、たくさんの患者さんを治療し て研究した。最初、大発見だ、これで膝の治療は大丈夫だと思ったが、これはまだ序の口だった。
 この、膝のバキッは男の人にはかなり有効だが、膝痛で一番多い、中年以降のちょっと太った 女性にはそれ程の効果がなかった。その女性たちの膝の痛みの原因がわかり、治せるようにな ったのは、ここ2年ぐらいのことだ。
 人間、自分で何か良い事を思いつくと、そのことに固執してしまい、全部をそれで説明しよう として、発展が遅れてしまう。膝治療に関しては、15年以上も止まっていたような気がする。
 その女性たちの膝関節症の根本原因は、足のむくみだと思う。このあと、足のリンパ静脈の マッサージについて詳しく述べるが、足のリンパ液の戻りが悪いと、何かの拍子に痛めた膝の炎 症がいつまでもひかない。炎症が引かないと、余計リンパの流れも悪くなる。関節液の循環も悪 くなり、軟骨に栄養が行かない。また、いつまでも炎症が取れないと、軟骨細胞は破壊され、からだは強度が足りない と思い骨を育てる。普通に歩いていて、ちゃんと骨が育てば、関節は丈夫になるのだが、痛いの で、かばいながら歩いていると、変な方向に骨を育ててしまう。ついには、がに股になるように 育ててしまう。
 治療は、まずリンパの流れの改善。流れが改善されないうちに膝の治療をおこなうと、炎症が ひどくなってしまう。流れがよくなれば、膝蓋骨、腓骨の調整、膝の横方向の錆取りなどをおこ ない治していく。
 15年間も膝にリンパマッサージをしなかったわけではない。当然していたのだが、劇的な効果 は無かった。なぜ、あまり効果が無かったのか、それがなぜ2年前から急に効果が出始めたのか。
 原因は、マッサージ用の短パンを作ったことにあった。それまでの治療は、膝のちょっと上ま でしかできなかった。患者さんが着ている洋服のこともあり、そんなに上までは、たくし上げら れなかった。短パンは膝治療のために作ったのではない。老化防止に、足全体のリンパマッサー ジがいいのはわかっていたが、短パンに着替えてもらわないと治療が難しかった。探していたが 、ちょうどいい短パンが既製品ではなかった。何か良い物があったら買おう、そんなことを考え ているうちに何年も何年も経ってしまった。
 そこで、2年ほど前、良い物がないなら自分で作ってしまえと、ジャージーを買ってきて短パン にカットし、裾にゴムを通した。これが、なかなか優れもので、患者さんも僕も恥ずかしがらず に足全体のリンパマッサージが出来るようになった。
足全体のリンパマッサージをしてみると、一般的に流れが悪くなる所がよくわかる。膝の悪い患 者さんの、そこを重点的にマッサージしていたら、膝の内側の腫れがみるみる引いてきた。膝 の腫れが引くと共に痛みもとれ、さらに何回も続けていたら膝の内部のジャリジャリも取れてき た。
 今まで難しかった、ちょっと太り気味の、中年以降の女性の膝が治せるようになった。体重が 多いため、膝に負担がかかるのが原因と言われているが、そのての女性は足がむくんでいること が多く、それが原因になっているようだ。
 また、男と女ではどう違うのかと言うと、女の人は結構むくむが、男はあまりむくまない。皮 下組織の違いで、リンパの流れが悪くなると、女性はむくみ、男性は行き場がなくなったリンパ 液が皮膚を押し上げ、痒くなる。
 また、男性の膝は元々頑丈に出来ており、痛みにくい。そのため、膝蓋骨の引っ掛かりを治せ ば、たいがいは治ってしまう。しかし、女性はむくみが原因なので、リンパの流れの改善をしな いうちに、膝蓋骨の治療などをすると、よけい腫れたり痛くなってしまうことがある。女性の場 合は、膝周辺だけでなく、足全体のリンパの流れをよくしないと治ってこない。
 よく、膝の治療で大腿四頭筋の強化などと書いてあるが、あれは違うのではないかと思う。確 かに、膝が悪い人の大腿四頭筋は萎縮している事が多い。でもこれは萎縮したから痛いのではな く、痛くて使えなかったから萎縮したのだと思う。それなのに、そこを強化する運動を指示した ら、さらに炎症を起こし逆効果になってしまう。スポーツ選手などが、膝の手術したあとにおこ なうリハビリとはわけが違う。
 また、レントゲンを撮ってみて、これだけ変形していれば痛いだろうと言うが、変形したから 痛いのではなく、いつまでも腫れていたから変形してしまったのだ。リンパマッサージで腫れを 取れば、変形した骨は治らないが、新たな変形は止まる。

 関節の話しばかりになってしまったので、また筋肉の話しに戻そう。鍼灸マッサージには 肩こり治療の患者さんがけっこう多い。肩こりには鍼灸マッサージがよく効くという イメージが強いが、これがなかなか難しい。腰痛や肉離れのように悪い部分がはっきりして いる時は、治療法についていろいろ考えられるが、肩こりは何か漠然としていて、取り留め がない。
 寝違いや、むち打ち症のように頸椎を痛めているときは、自分もそうだったので、割合わ かりやすかった。鍼治療をおこない、猿の反省のポーズをとってもらう。これで大部分は治 る。
 この反省のポーズとは何かと言うと、あごを引いた状態で、首の力を抜く。そして、痛い 側の反対の手を頭の上に載せ、下に引っ張り、首のうしろの筋肉をストレッチする。この形 が、日光猿軍団の反省のポーズに似ているので、そう名づけた。この反省のポーズは、なか なか有効で、首の筋肉のストレッチだけではなく、椎間孔を拡げる効果もあり、むち打ち症 や寝違いの治療には絶対必要だ。
 あまり知られていないが、背骨は反った状態で捻ると痛めやすい。多くの人は、痛みがあ ると、動かして何とか治そうとする。動かしているうちに治ってしまえばよいのだが、背骨 周りの痛みのときは、だいたい悪化する。なぜ悪化するのかというと、痛みを再現しようと して、こうするとまだ痛い、などと言いながら反って捻ってしまう事が多い。背骨を反っ て捻ると椎間孔が狭くなり、神経に触りやすい。また、ストレッチにはならない、神経は刺 激されるはで、何も良いことがないのに、結構やってしまう。
 頸椎を痛めたことによる肩こりの特徴は、片側が痛いことだ。背中や腰もそうだが、背骨 の両側を均等に痛めることはまず無い。どちらか片側を痛め、痛くて動かせないうちに、両 側とも固まってしまう事はあるが、最初はどちらか片一方だ。痛めた元を的確に探し、そち ら側のみ治療する。頚椎を痛めていると、その部分もそうだが、肩や肩甲骨周り、腕などに 痛みやこり、しびれが来る。
 肩こり治療で、頸椎からくるものは最初から治せたのだが、ごく一般的な肩こりが割り と苦手だった。鍼治療で効く人もいれば、あまり効かない人もいる。響かせると、喜ぶ人も いれば、嫌がる人もいる。ひたすら強く揉んでくれという人もいれば、揉み返すので弱く揉 んでくれという人がいる。ものすごくコッているでしょ、と言われ、揉んでみても筋肉は柔 らかい。その反対に、すごく筋肉が硬いのにコリを感じないという人もいる。ぜんぜん訳が わからなかった。訳もわからず治療するのは、あまり良い気分ではない。自分の無能さ加減 を晒しているようだ。だいぶ良くなったとか、楽になったといわれても、原因がわからないの で不満だった。
 治療院を始めて10年ぐらい経った頃、ふと気が付いたことがあった。今まで、筋肉の治療 は、まずストレッチと言っていたのに、肩こりに関してはストレッチをしていない。何故し なかったのだろうか。
 肩の筋肉は、横向きに寝ると、勝手にゆるんでしまう。正確にいうと、ゆるむのではなく 、筋肉の起始と停止(筋肉が骨に付着する部分の両端)の間隔が近づくために、ゆるんだよ うに見える。
 肩関節は鎖骨と肩甲骨と上腕骨で構成されている、そのため、この部分はかなり自由に動 いてしまう。頭を支えている首の筋肉が縮んできても、肩が上にあがるだけで、横に寝れば わからなくなってしまう。そのため、肩こり治療をしていても、筋肉に縮んだ感触が無く、 ストレッチをしようと思わなかった。
 肩こりは首を支えている筋肉の異常緊張から起こる。そのため、押したり揉んだりすれば 、結構楽になる。ただ、それでは緊張をほぐすだけなので、楽にはなるが決して治りはしな い。
 このことは、治療院としては悪いことでは無い。前にも述べたが、根本原因を見つけ、治 してしまうと、患者さんは来なくなる。世の中で流行っているものをみると、気持ちよくて 、少し良くなるというものが多い。それぐらいが商売的にはいいのかもしれない。なにしろ 、治らないのだから、ずっと来てくれる。気持ちはいいし、ぜんぜん治らないわけじゃない ので、また来てくれる。これぞ商売繁盛の極意。
 つまらない事を言ってないで、本題に戻ろう。肩の筋肉をストレッチするにはどうしたら いいか考えてみた。ストレッチは筋肉の起始と停止の距離を最大限にすればよいのだから、 例えば左肩の場合、頭を右に傾け左肩を下げれば最大限となる。それで足りない時は、その 状態を保持したままで指圧すればよい。
 さっそく自分の肩で試してみた。引っ張られるような、伸ばされる感覚があり、かなり効 きそうだ。ただ、指圧やあんまのような気持ちよさは無く、痛い感じ。どうも自分が開発す る治療法は痛いのが多い。気持ちがよく、抜群に治る治療法が開発できれば、患者さんで溢 れかえるのにと思ったりしてしまう。
 来院してくる患者さんの肩をみんな調べてみたら大発見があった。肩こりの人の筋肉をス トレッチしてみたら、ただ肩の筋肉が張っているのではなく、首筋に異様に短い筋肉が浮か び上がった。これは、どう考えても、段々短くなった物ではない。そう、先天的に短いとし か考えられない。
 いろいろ聞いてみると、短い程度がひどいほど、小さい頃から肩こりが始まっていた。ち ょうど、首の両側に軽い斜頚(しゃけい)があるような感じだ。また、この短い筋肉があると、筋肉が柔 らかくても肩こりを感じ、この変な筋肉が無い人は、硬くてもあまり肩こりを感じないよう だ。
 さらに、たくさんの症例を調べていくと、この短い筋肉が存在する位置によって、肩こり だけでなく、いろいろな症状が起こることがわかってくる。後ろ側だと頭痛、前側だとめま い吐き気、それに自律神経失調症と呼ばれる症状が出てくる。
 治療法はその短い筋肉をひたすらストレッチする。生まれつき短いので、そう簡単には伸 びない。もちろん、かなり痛いのだが、患者さんには相撲の股割りの話しをしたり、自分の 子供の斜頚の手術の話をして、邪魔な筋肉は無いほうがいい、切るわけにはいかないから、 頑張って伸ばしましょうと説得し、我慢してもらう。
 なぜ痛い思いをさせてまで伸ばすのかというと、その短い筋肉を伸ばしてみたら、本当に 結果が良かったからだ。頑固な肩こりもすぐ治ってしまう。ストレッチを怠ると段々戻って くるのだが、自分でやる方法も教えるので、ほとんど治ってしまう。
 この治療法で一番嬉しかったのは、高三の女の子を治してあげた時だ。その子の母親は時 々頭痛の治療に来ていた。あるとき、その子を連れて治療にやってきた。
 今、受験生なのに肩こりと頭痛がひどく、勉強に支障をきたすので、診て欲しいとの事だっ た。診てみると、今まで診たなかでは一番筋肉が短かった。これはすごい、これだったら、 かなり昔から症状があったんじゃない、と聞いてみたら、そうだという。小学校3,4年の時 から具合が悪く、起きられなくなり、1週間ぐらい学校を休むのは年中だった。いろいろな病 院で検査をしたが異常はみつからず、薬をのみ続け現在に至るという。
 さっそく、短い筋肉のストレッチをしてみた。滅茶苦茶痛いらしく、目に涙を浮かべていた が、絶対よくなるから我慢してね、とやさしく言いながら、強くストレッチした。効果は抜群 で、3回の治療で不愉快な症状はほとんど取れてしまった。
 その後も1週間に1度の割合で通院していたのだが、2週間ぐらい経った時、そういえばこ の治療を始めてから、まだ薬を飲んでないわと言った。小学校のときから、1週間以上も薬を 飲まなかった事はなかったらしい。今回、頭痛肩こりの治療として、首肩のストレッチをした が、ひょっとしたら小学校以来の不定愁訴の原因はこれだったのかもしれないと思った。
 そのことを話し、治ったあとも週1回治療に通ってもらった。予想どおり、薬なしで3ヶ月 すごす事が出来た。やはり、原因は短い筋肉だった。
 その子は原因がわかったとき、たったこんな事で10年近くひどい目にあってしまったと 嘆いていたが、17歳じゃまだ先があるし、原因がわかり治ったのだからいいじゃないか、と 慰めた。
 母親も少し反省していた。全部検査したのにどこも悪くないと言われていたし、いろいろ な所で脳からすべて検査しても分からないので、学校に行きたくないから仮病を使っている のかもしれないと、疑った事もあったと言っていた。
 このように、首肩の短い筋肉は、肩こりだけでなく、いろいろな症状を引き起こす。頸動脈 を圧迫すれば、血流が悪くなるだけでなく、そこに血栓を作るもとになり、脳梗塞を起こす 確率を高める。
 そういえば何年かまえ新聞に、毎日髭をそる男性に脳梗塞が少ないと言う英国の記事が載 っていた。原因としては、女性を意識して身だしなみを整えるのが、脳梗塞の予防になるの ではないかと書いてあった。
 それを読んだ時、それはあるかもしれないと思った。あご髭を剃る姿勢はちょうど首筋の ストレッチによく似ている。これを毎日やれば、当然脳梗塞の予防になる。治る原因の解析 はちょっと違うが、髭剃りは良いかも知れない。ただし、顎の下を剃らなければ意味が無い。
 その他にも、首肩の短い筋肉はいろいろな所に影響するようだ。今来ている患者さんで、 突発性難聴や低眼圧緑内障の患者さんもいるが、短い筋肉のストレッチで症状の進行が止まってい る。
 生まれつき短い筋肉を持った人は、若い時から症状が現れる。そうで無い人でも、年齢を 重ねると筋肉は短く硬くなってくる。年を取ってきて首肩の筋肉が短くなると、様々な症状 が現れ、検査をしても原因不明となることが多い。ストレスからとか、更年期障害といわれ 、原因不明のものに、この首肩の筋肉からくるものが多い。
 あと、肩こりで少数ではあるが、肩関節から来るものがある。五十肩まではいかないのだ が、関節の滑りが悪く、腕を動かすのに力が要る。そのため、肩の筋肉に余計な負荷がかか り、肩がこってしまう。
 面白い例が一つあった。駅伝の選手なのだが、どこも悪い所が無いのに、このところ練習 で10キロを過ぎると、急に足が行かなくなるという。本番も近いので何とかしてくれと言う 。肩こりがあるというので、ひょっとしたらと思い、肩関節の錆取り治療をしてみた。若い のに、錆びているはずが無いと思ったらそうでもなかった。何年も同じ方向にばかり、腕を 振っているので、関節としては滑りが悪かった。これを治してあげたら、ストライドも伸び 記録も翌日には戻った。
 他の選手の肩もやってあげたら、皆一様に肩が軽くなり腕振りが楽になった。僕は帯同の トレーナーではないので、試合の直前にやってあげられないが、長距離の選手に、試合直前 にやってあげれば、結構いい結果が出ると思う。

 筋肉、関節とだいたい話をしたので、今度はリンパマッサージについて話をしよう 。リンパと静脈のマッサージなのだが、ここではリンパマッサージと呼ぶ事にする。今、世間 にはリンパマッサージが溢れかえっているので、違う名前にしようかと思ったが、リンパのマ ッサージなので無理に変えても仕方ないと思った。
 一般のリンパマッサージと大きく違うのは、しごく強さが違う事、そして気持ちよくなく、 痛いこと。でも、かなり効果がある。
 捻挫治療の時にも書いたが、リンパマッサージがすごく効果があると最初に感じたのは捻 挫治療だった。最初の頃は、捻挫治療以外はそれ程強くしごくことはしなかった。疲労取り のマッサージという感じで、軽くしごく程度で、溜まっている疲労物質を戻すという感覚で やっていた。それなりに効果はあるのだが、やはりそれなりで、治療したと言う感覚はなか った。
 8年ほど前、膝の治療でやってきた女の人がいた。むくみも変形もけっこうひどかったが 、治療しているうちに、少しずつ腫れも痛みもとれてきた。何回か治療した時、ふと、反対 側の足に目をやると、いつも足首からふくらはぎにかけて包帯を巻いている事に気が付いた 。聞いてはいけないような気がしたが、気付いたのに知らん振りするのも失礼に当たると思 い、聞いてみた。
 彼女は一瞬、躊躇したが包帯をとって見せてくれた。足の内側で、足首から上20センチ、 幅10センチぐらいが真っ黒だった。ただの黒さではなく、黒檀のように黒光りしていて、触 ってみると本当に木のように硬かった。生まれつきなら、悪い事をしてしまったと思ったが 、とりあえず原因を聞いてみた。
 生まれつきではないという。何年か前、足首の内側の5センチぐらい上に、黒っぽいできも のが出来たので医者に行った。そこで組織を採り検査したが特に異常なものではなかった。 その後、組織を採った傷跡は治ったのだが、黒い部分が段々大きくなってきた。ドンドン拡 がり、大きくなってきたので、心配で何度も病院にいったのだが、特に悪い物ではないとい われ、軟膏を処方されただけだったという。少しずつ拡がり、黒光りして硬くなってきたが 、特に痛いわけではなく、歩くのにも支障がない、軟膏を付けても良くならないので放置し ていたと言う。
 みつけて聞いてしまったので、そのまま何もしないと言うわけにはいかない。多分、組織 を採った時に、リンパ管や血管を傷つけてしまったのだろう。体液の流れが悪くなり、 黒く硬くなったと思われる。
 この黒さは、のちに見た凍傷の指の黒さとそっくりだった。ヒマラヤで指に凍傷を起こし 、これから切断するのだが、炎症がおさまらないと手術してくれないと言う。早く手術しな いと、次の遠征に間に合わないので、炎症をとるマッサージをお願いしたいと言うことだっ た。これから切断するという指先は、骨の周りに黒く干からびた肉がついていて、その黒 さの感じは彼女の足とそっくりだった。
 体液の流れをよくするには、リンパマッサージで流れを改善させるしか方法がない。ただ、 あまりにも硬いので、ちょっとリンパマッサージをしたぐらいでは治るとは思われなかった 。見てしまったこともあり、膝治療のついでに、そこもリンパマッサージをすることにした。
 2、3回リンパマッサージしたところ、相変わらず硬さは板のようだが、何か表面の色が くすんできた。これは、ひょっとすると治るかもしれない。患者さんと相談し、かなり痛い かもしれないが、リンパマッサージでかなり強くしごくことにした。
 今までの経験から、リンパの流れ方向にしごく限りは、かなり強くやっても悪くならない 事はわかっていた。捻挫治療の経験から、流れがよくなれば腫れもひき、 早く治る。強くしごくと問題なのは、すごく痛いことだ。
 なぜ痛いのかというと、流れが悪く詰まっていた所が無理矢理拡げられるせいと、組織が 固まっているので、しごかれると神経が引っ張られるためと思われる。
 リンパマッサージで強くしごくと切られるような痛みがでる。ただ、かなり強くしごくリ ンパマッサージをしなければ、流れ道の改善は出来ない。
 よく、リンパマッサージは流れに沿ってやさしくやり、決して強くやってはいけないと書 かれている。理由としては、毛細血管や毛細リンパ管が弱くなっているので、強くやると損 傷してしまうため、とか書かれている。
 しかし、よく考えてみると、流れが悪いから細胞にゴミが溜まり、栄養も行かない。そのため本来の弾力が失われ、毛細血管など が弱くなる。毛細血管や毛細リンパ管の損傷を気にしていたら、もっと太 い血管やリンパ管の流れの改善は出来ない。全体の流れがよくなれば、弱かった毛細血管や リンパ管は復活する。
 痛いのを我慢してもらい、数回治療を続けた。今度は、目を見張るほど、黒いのと硬いの が取れてきた。やっているほうも面白いので、夢中で治療を続けた。数ヶ月経ち、気が付く と半分ぐらいは治ってしまった。ただ、元がひどかったので、すぐに完全に治すとは行かな いが、治療方法が正しかったのは確認できた。その後も、定期的に治療を続け、今では人前 に足を晒しても平気な所まで治った。
 この治療で分かったことは、ちょっと流れが悪くなっただけで、あんなにひどくなってし まう。しかし、流れが改善されれば、あんなひどい物でも復活してくる。本当に人間のから だってすごいと思った。
 患者さんと今でもよく話すのだが、最初のときの写真を撮っておけばよかった。そうすれ ば、治療前と今との違いが分かり、リンパマッサージの効果が分かったのにと。でも、治療 前の患者さんに、写真を撮らしてくれなどとは言えない。それに、結果が良かったからそう 思うのであって、治療を始める時は、どうやって治そうか、それだけで必死だ。
 それから3,4年後、足首の治療にやってきた患者さんがいた。捻挫ではないが、足首が ちょっと位置ずれしているようだった。普通に歩くには、それほどでないが、テニスをする と少し腫れてきて痛むと言う。たいした事はなかったので、足首の整復をして、足首にリン パマッサージを施した。
 その時、ついでに疲労取りのリンパマッサージを足全体にやったのだが、びっくりしてし まった。ほんのちょっと、しごいただけなのに、滅茶苦茶痛がった。エステなどにも行くの だが、足はちょっと触られるだけでも痛いので、足のマッサージは断っていたと言う。足全 体を見てみると、全体に赤黒く、所々に青あざがあった。軽くぶつけるだけで、すぐ青あざ になると言う。通勤電車はすごい恐怖で、人の鞄が当たるだけで青あざになってしまうらし い。
 これはリンパの流れが悪いので、細胞にゴミが溜まり、本来の艶と弾力が無くなり、皮膚が弱くなってしまったと思われる。
 痛いけど、絶対よくなるからと説得し、リンパマッサージを続けた。日本人にしては珍し く皮膚の薄い人で、しごいてみると指先にツブツブした感触があった。そのツブツブしたと ころを流れ方向にしごいてみたら、なんとプチプチという感じで透明な液が流れていくでは ないか。今までリンパマッサージをしながら、この方向にしごけば、リンパ液は流れてゆく のだろうなと、想像はしていたが、動いていくのを見るのは初めてだった。流れだした所を ドンドンしごいていったら、一本の管でつながってきた。
 そんな感じの所がふくらはぎ全体にあった。リンパ管が全体に詰まっていて、所々に貯水 池があると言う感じだ。これでは、老廃物も溜まったままで、組織に栄養は行かない。皮膚 や毛細血管も弱くなるのは当たり前だ。
 真っ黒だった皮膚がリンパマッサージで復活した人の話をして、このまま、待っていても 駄目だ、流れをよくすれば絶対治ると説得し、痛いマッサージを続けた。
 皮膚や毛細血管が弱いので、マッサージしたところは赤黒くなってしまったが、治すため に我慢してもらった。1ヶ月ぐらいで、詰まっていた所はだいぶ取れた。それと共に足全体 の赤黒さが取れ、少々ぶつけても青あざが出来なくなった。
 この痛い治療に我慢してくれたのは、自分でもこの足はおかしいと思っていた事と、実際 にリンパ液が動いていくのが見えたのが大きかったと思う。
 この強くしごくリンパマッサージがなぜ今まで一般におこなわれていなかったのか、理由 を考えてみた。まず、第一は痛いこと。その次はすぐには効果が現れない事。また、最初は 逆によけい痛くなったり、内出血のため赤黒くなったりする。多分、普通その時点で治療は 中止されると思う。
 本当に効果が出てくるのは、3週間以上たち、細胞が本来の状態に復活したときまで待たな ければならない。よほどの自信と患者さんに対する説得がないと、それまでは続けられない。
 この自信は、数多くの捻挫治療や黒光りした患者さんを治した経験から生まれた。もちろ ん、自分の足でも試してみた。捻挫や肉離れの治療だけでなく、疲労取りにもすごく有効だ 。また、汗でかぶれた痕を掻き壊してしまい、アトピー性湿疹のようになり、なかなか治ら なかったところも、リンパマッサージで治ってしまった。
 このリンパマッサージはすごく有効で、皆さんに勧めたいという気持ちはかなり昔からあ った。というのは、年齢と共にリンパ液や静脈液の流れは悪くなってくる。特に、足は重力 に逆らって、心臓までかなりの長い距離を戻らなければならず、障害が起こりやすい。
 足の血流やリンパの流れを良くするには、適当な運動が必要だが、現代の生活では難しい 。交通手段が発達し、あまり足を使わなくても済むようになった。また、仕事もパソコンの 発達により、机に座ったままで、いろいろな仕事がこなせるようになった。このため、足の 筋肉を動かす機会が減り、若くても足のリンパ液や血液の流れが悪い人が増えている。
 血液の流れが悪くなると、しびれ、痛み、冷えなど、割とわかりやすい症状が出るので、 すぐ気が付く。しかし、リンパ液の流れが悪い時は、むくみとか少し重いぐらいの感じしか しないため手当てが遅れてしまう。
 リンパ液は細胞からの老廃物を運んでいるので、その流れが悪くなると細胞にゴミが溜まり、 本来の働きが失われる。そのため細胞死が早く訪れ老化を早める。また、むくみがあると、 膝や足首に炎症を起こした時、治りにくくなり慢 性化しやすい。このようなことから、足首の捻挫、肉離れ、膝の治療だけではなく、老化防 止としてリンパマッサージをしたかった。
 しかし、膝治療の所に書いたように、自分の怠慢もあり、2年ほど前にジャージーの短パ ンを作るまで、本格的にリンパマッサージをする事がなかった。
 何事も、やってみなければわからないとは、この事だ。今まで、治療の補助だと思ってい たリンパマッサージが、実は主役だと言う事がわかった。
 膝治療などは、主原因がリンパの流れの悪さなので、まず最初にそこを治さない限り治っ てこない。
 ジャージー短パンを作ってから、膝治療、足のむくみ、重いなど、足に関連する治療は、 みんなリンパマッサージをしてみた。本当に、新しく色々なことがわかった。
 一番感動したのは、膝治療に来ていた患者さんの鮫肌が治ってしまった事だ。腰痛、膝 痛、足が重い、冷え性などいろいろな所が悪いといってきた患者さんがいた。まず足全体 のリンパの流れをよくしないと、治らない事を説明した。けっこう痛いが我慢するように お願いし、リンパマッサージをした。数回の治療で、足の重さや膝の痛みがとれたので、 本人も非常に喜び、これなら徹底して全部を治そうということになった。
 週1、2回リンパマッサージを続けた所、ドンドンよくなり、冷え性や生理痛まで軽く なってしまった。1ヶ月ほどたったとき、その患者さんは毛穴が少し黒ずんでボツボツし ていたのだが、何かきれいになったような気がした。本人に確かめた所、明らかにきれい になっていた。
 中学時代からこんな肌で、体質だからしょうがないと思って、あきらめていたと言う。 多分、生まれつきリンパの流れが悪く、細胞本来の艶と弾力が失われ、鮫肌になっていたようだ。しか し、7、8回ぐらいのリンパマッサージでよくなるのなら、ひょっとしたら治るかもしれ ないと思い、週1回ぐらいのペースでその後も続けた。3ヶ月ほど経った頃には、かなり きれいになってしまい、本人も大喜びだった。僕もそんな物が治るとは思ってもいなかっ たので、本当にびっくりした。
 このリンパマッサージの良いところは、一旦流れがよくなると、今度は体が勝手にドン ドン治してくれることにある。リンパの流れがよくなると、皮膚 も皮下組織もみんな柔らかくきれいになる。柔らかくなれば、自然と流れもよくなり、今度はよい 方向に勝手に動いてくれる。
 この鮫肌が治ってからは、いろいろな事に気が付いた。たとえば、膝小僧は皮が硬く、 毛穴がボツボツしている。削り取ってもクリームを付けても治らないが、リンパマッサージをすれば治ってくる。 いつも当たる所は、リンパ管や血管が押しつぶされ、流れが悪くなる。最初、炎症を起こすが、繰り返していると、 細胞死した皮膚が脱落しづらくなり、黒く硬い皮が残るようになる。これは生体を守るために必要な機能なので仕方がない。 どうしても治したければ、リンパマッサージで流れを改善するしかない。
 その後も、何人か鮫肌の人の治療をしたが、皆よくなっている。ただ、それらの人は鮫 肌の治療にやってきたのではない。他の治療で来たのだが、ついでに鮫肌まで治ってしまった。
 鮫肌までいかないが、太腿の裏側の、セルライトや毛穴のボツボツもリンパの流れが悪 い事による。
 男と女では皮下の構造が違い、リンパの流れが悪いと女の人はむくんだり、セルライト 化しやすい。男の人は、あまりむくまない替わりに干からびる。そして、行き場のなくなったリンパ液は皮膚 を押し上げ痒くなる。掻き壊した痕は、元々流れが悪くてなったのだから、そのままでは 、なかなか治らない。こんな湿疹もリンパマッサージで治ってしまう。
 リンパの流れが悪くなると老化が早まる。流れが悪くなったところをすばやく見つけ出 し、すぐ元の状態に戻せば無駄な老化が防げる。

 部分的な治療から始まり、20年かかって、その部分部分がやっと繋がってきた。これま で、例を挙げながらダラダラと書き綴ってきたのは、なぜそういう治療法になったのかを 理解してもらいたいためだ。
 僕はあまり記憶系がよくないため、文献を読んでもすぐ忘れてしまう。また、もともと 人の意見をすぐ鵜呑みにするほうではないので、自分で理解し実証した物しか信用できな い。そのため、自分独自の治療法がまとまってくるのに20年もかかってしまった。
 今まで書いたことを要約すると、3つのことしかない。1つは、筋肉に障害があり痛み が発生している時。筋肉が縮み、神経と筋肉が癒着している事が多い。2つ目は、関節周辺の痛み。 関節が錆び付いているか位置ずれしてる事が多い。3つ目は、リンパの流れは年齢と共に 悪くなり、所々で詰まり始める。詰まったリンパ管は無理矢理治さなければ、待っていて も治らない。この3つの事は、来院した患者さんには、けっこう話していたのだが、世間 にはあまり発表しなかった。
 というのは、自分で考案したと思っていても、自分が知らないだけで、そんなことは常 識だといわれるかもしれない。それよりも、もっと厭なのは、日本はあまりオリジナルを 尊重しない国なので、原理を考え付いた人より、それを発展させ、使い勝手をよくした人 のほうが成功してしまう。こんなことを考えているうちに、発表がドンドン遅れてしまっ た。でも、自分の中にしまっておくだけでは自己満足に終わってしまうし、診療所の宣伝 にもならない。
これを読んで、僕の診療方法に興味を持ち、来院してくれる人が一人でも増えればと思い 、この治療の歩みを書いた。
2005.12.15遠藤隆


治療の歩み(2005.12.16から2008.10.13まで)


 この3年で大きく進歩したのは、膝の治療と股関節の治療、それに首のリンパマッサージ。いつもそうだが 、僕は追い詰められないと必死に考えようとしない。本当に悪い癖だ。
 定期的に来院している患者さんから「先生、膝が痛くて歩けない。このままでは仕事をやめるしかない。 会社に無理を言って有給休暇を明日から3日とったので、何とか治してください。」と電話があった。膝の治療は、 そこそこ自信があったが、3日で治すのは難しいなーと思いながらも、断るわけにはゆかない。
 1日目、リンパマッサージと膝蓋骨の調整。これでだいぶ歩けるようになった。2日目も同様の治療をおこなった。 このまま良くなれば何とかなるかなと思った矢先に、3日目は「歩くのは痛くなくなったので、良かったと思っていたら、 バスに乗ろうとした時、ズキッと痛み、また、元に戻ってしまった」と言う。膝の内側に痛みが走り、 曲げ伸ばしが困難になっていた。どうしよう、今日1日しかない。昨日までと同じ治療をするわけにはゆかない。 幸運な事に、最終の患者さんだったので、ゆっくり考える事にした。
 痛む場所は内側側副靱帯あたり。ここは膝関節痛の患者さんが、よく腫らしている所だ。解剖学アトラスを眺めながら考えていた。 その時、「何だこれは、なぜ今まで気が付かなかったんだ。内側側副靱帯と内側半月って、くっ付いているぞ」と思った。今まで、 その図は何百回と見ていたのに、全く気付かなかった。ひょっとしたら原因はこれかもしれない。膝を曲げ伸ばしすると、 内側側副靱帯が前後に動く。内側半月もそれに同調して動かないと、千切れるような痛みが発生するはずだ。多分、 内側半月が位置ずれして動きが悪くなっているのだろう。内側半月は膝の中にあるのだが、外から何とか動かしてみた。 すごく痛がったが、指先にグズッと何か動いた感覚があった。そのとたん、「あれ、膝が曲がる、痛みがない」 と患者さんが言い出した。膝関節痛の本当の原因は、これなのかもしれない。
 以前の"治療の歩み"に書いたように、今まで、膝はリンパマッサージと膝蓋骨の調整で治してきた。これでかなりの所まで治るのだが、 完全とはいかなかった。日常生活では痛みもなく、不自由のないところまで治せたが、深く曲げられないとか、 膝裏が突っ張るという患者さんがけっこういた。みんなにこの方法を試してみたところ、骨が変形してしまった患者さん以外は、 ほとんど治ってしまった。
 その後は、効率のよい内側半月の動かし方を研究して現在にいたっている。もちろん、リンパマッサージと膝蓋骨の調整は必要だ。

 股関節の治療は大変だ。何しろ質量があるので、治療する側にそうとう筋力がないとやれない。
 10年ぐらい前、若いバレリーナの股関節を調整した事がある。母親と一緒にやってきて、「股関節の開きをよくして欲しい」 という要望だった。母親にも手伝ってもらい、悪戦苦闘したのだが、うまく力が入らず、断念した。
 その後、股関節を治療する事はほとんどなかったのだが、3年ほど前、テニスプレーヤー(アマチュア)で、 股関節を痛めた患者さんがいた。以前に、腰と肩を治してあげたので、今度は股関節を何とかしてくれといってきた。 昔、バレリーナでうまくいかなかったのを思い出しながら、いろいろ考えてみた所、ふと思いついた。 五十肩が関節の錆付ならば、股関節だって同じことが起こっているはずだ。さっそく試してみた。ただ、 大腿骨はすごく重いので、股関節を治療で痛めないようにしながら、骨をずらすのは至難の業だった。 何とか工夫しながら動かしてみた所、ジャリッとした感触があり、予想どおり錆び付いていた。滑りをよくしてみたら、 関節周りの痛みは消えてしまった。
 今まで、股関節周辺の治療は、あまり上手ではなかった。臀部が痛いときは、臀部のストレッチで治せるのだが、 付け根の痛みはあまり得意ではなかった。これ以降、付け根の痛みは、一発で治るようになった。
 そんな時、「私の知り合いで、人口股関節の手術をするしか方法がないらしいけど、先生治せますか」 と患者さんから言われた。とりあえず、診ることにした。
 「病院の付き添いで、狭いベッドで寝ていたところ、股関節の付け根が痛くなった。その後、治療に通ったのだが、 股関節を無理に開かれ、余計痛くなってしまった」とのこと。怖いので、そのままにしていたら、 股関節が固まってしまったようだ。
 とりあえず、いつもやっている方法で股関節を緩めたが、ほんのちょっとしか動かない。股関節に無理がかからないように、 骨をずらすのは、すごく大変だ。手と違って、足はメチャクチャ重いし、体勢が不安定なので、なかなか力がはいらない。 10分もやっていると、僕のからだは疲労困憊、背筋はバリバリになってしまう。ただ、関節がちょっとでも弛むと、 痛みがだいぶ違うようなので、治療を継続する事にした。その後、ちょっとずつ可動域を拡げて、だんだん歩けるようになった。
 股関節の治療は、患者さんにとっては、たいした治療には思えないようだ。痛くないように、細心の注意を払い ながらやっているので、そんなに力を使っているように思えないらしい。股関節の治療をやりだして1年ぐらい経ち、 「最近は股関節の治療をしても、あまり疲れなくなったな」と思ったら、胸囲が98センチから105センチになっていた。
 股関節治療用の筋力がついたので、いろいろな患者さんの股関節も調整してみた。けっこう新しい発見があった。 大きな発見は、股関節が錆び付いているのではなく、先天的に股関節が硬い人が結構いることがわかった。 この人たちは、まっすぐ立ったとき腰が前に出にくく、でっ尻になってしまう。そのため、いつも背筋に負荷がかかり、 慢性腰痛になりやすい。今まで、このタイプの腰痛がなかなか治りにくかったのだが、股関節を緩めるだけで、すぐ治ってしまう。
 それと、股関節が硬いとO脚に見えるのだが、緩めると治ってしまう。また、坐骨神経痛の一部は、股関節の錆び付きと 関係しているのが分かった。

 首のリンパマッサージは本当にすごいと思う。原因不明で不愉快な症状のほとんどが、ここのリンパマッサージで治ってしまう。
 最初、足のリンパマッサージは重要だが、首はそれほど重要だと思っていなかった。というのは、 足のリンパは重力に逆らって戻らなければならないので、流れが悪くなりやすい。しかし、首のほうは 自然に落ちてくるので、流れが悪くならないと考えていた。
 なぜ、首のリンパマッサージをやりはじめたかというと、ホームページの"よもやまばなし"に書いたように、 最初は顔のリンパマッサージだった。2004年の夏に口腔内リンパマッサージを思いつき、いろいろ研究してきた。 顔のむくみを取るのに、口腔内リンパマッサージは非常に有効だったのだが、今度はその分、顎の下が膨らんでしまった。 これではいけないと思い、首の前側のリンパマッサージを研究してみた。
 首のリンパマッサージは割と簡単で、鎖骨の付け根に向かって、しごき落とせばよい。よく、美容の本に、 顎のたるみを下から上にしごいたり、耳の付け根のほうにマッサージする図が載っているが、 リンパの流れからすると、どうしてこんな事をいっているのか理解に苦しむ。
 この仕事をしていて思うのだが、権威の人が本に書くと、違っていてもそれが正しいという事になってしまうようだ。 知識を得るというのはすごく大事だが、本当にあっているのかどうか検証せず、誰か有名な人が書いたと言うだけで、 そのまま信用して覚えてしまうと、間違った情報でも脳にインプットされてしまう。そして、そのことを読んで知って いるだけなのに、さも自分が考えた事のように思い込んでしまう。
 例えば、このあいだまで胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因はストレスだと言われていた。どの本を読んでもそう書いてあるし、 それを読んだ人は疑わず信じていた。だから、テレビの医学番組でも、有名なお医者さんが出てきて、もっともらしく ストレスですと説明していた。でも今では、誰でもピロリ菌が原因だと知っている。でも、定説を覆すのは結構難しい。 ノーベル賞をもらったロビン・ウォレンは自分でピロリ菌を飲んで、発症するのを証明してはじめて認められた。
 よく、いろいろな病気の原因として、ストレスが挙げられているが、僕はあまり信用していない。病状を悪化させる ことはあるかもしれないが、原因とはならないと思う。人間の体なんて、まだ分からないことだらけなのだから、 何でもストレスのせいにするのではなく、現代の医学レベルではまだ原因を見つけることが出来ませんと、 素直に言えばいいと思う。
 話が脱線してしまった。どうも、自分の脳は話が飛ぶようだ。首のリンパマッサージに話をもどすと、 これが結構有効で、顎がシャープになり、当時はやっていた小顔になるようなのだ。患者さんに、治療のおまけとして、 顔と首のリンパマッサージをしてあげたら、非常に喜ばれた。
 しばらくすると、患者さんからいろいろな報告があった。しみが薄くなり、しわが減った。洗顔後の肌のツッパリがなくなった。 これは、皮膚の状態がよくなるのは当たり前なので、それほど驚かなかった。しかし、顎関節症が治ったとか、 のどが腫れなくなったと聞いたとき、あれっ、と思った。そういえば、自分も鼻づまりがなくなったし、 仰向けに寝ていると、いびきをかき、無呼吸症候群気味だったのが、治っていた。それに、綿棒で耳をほじり、 よく外耳炎をおこしていたのが、ならなくなっていた。
 この時、はじめて気が付いた。首のリンパも、流れが悪くなるのだと。そしてそれが、いろいろな症状の原因になるみたいだ。 そうだとすると、いろいろな事の説明がつく。リンパの流れが悪いと、細胞本来の性能が発揮できなくなる。また、むくむし、 炎症をおこしやすい。体質だと思っていた、鼻づまりとか喉の腫れは、生まれつき、その部分のリンパ管未発達と考えられる。 そこを、無理やり治してしまったので、症状が消えてしまった。首のリンパの流れはすごく重要で、 いろいろなものに応用がききそうな予感がした。
 そんな時、「親父、まためまいを起こしちゃった。今、会社に着いた所なんだが、これから治療に行っていいか」 と三男坊から電話があった。三男坊は、中学時代から時々めまいを起こしていた。最初のめまいの時、僕が治そうとしたら、 カミサンにひどく怒られた。「ちゃんと調べないうちに、あなたが触らないで」と言われてしまった。
 カミサンは西洋医学の信奉者で、当時、僕の仕事をあまり信用していなかった。とりあえず病院に行き、全部検査したのだが、 特に異常はなく、ただのめまいだそうだ。薬を飲んだが、ちっとも良くならないので、やっと僕の出番がやって来た。 ストレッチと揉むマッサージで、数時間後には何とか治った。その後も、何年かおきに、ひどいめまいを起こすのだが、 母親には言わず、すぐ僕の所にやってきた。ただ、すぐに治るのではなく、治るまで半日ぐらいはかかっていた。
 三男坊から電話があったとき、「そういえば、あいつ昔から耳のしたが膨らんでいたな。来たら、絶対あそこをしごいてやろう」 と思った。治療に来たので、さっそくしごいてみたら、軽くしごいただけなのに、メチャクチャ痛がった。三男坊は 「こんなに痛い治療をしたら、患者がこなくなるぞ」とわめいていたが、知らん振りして、しごいた。すると、5分もしないうちに、 めまいが治ってしまった。
 やはり、予想通り、首のリンパの流れが悪いため、内耳にリンパ異常を起こし、回転性のめまいをおこしていたようだ。 子供に聞いたところ、小学校ぐらいから耳の下が膨らみ、変な違和感があったそうだ。これにより、めまい、耳鳴り、 難聴の治療が大きく前進した。
 最初、美容のために始めた首のリンパマッサージが、実はすごい治療方法だという事がだんだんわかってきた。 今まで、首はたくさんの神経、血管が通っているので、あまりいじれない場所だった。しかし、リンパの流れに沿っ てしごくのであれば、かなり強くても大丈夫な事がわかった。そして、良くなることはあっても、悪くならないのがわかった。
 不愉快な症状がおこり、いろいろな検査をしてみても異常が見つからないと、ストレスだ、自律神経失調症だ、 うつ病だと言われてしまう。しかし、これの原因も、ただリンパの流れが悪いだけだったという事が多い。 今も新しい発見は続いている。繊維筋痛症もリンパの流れを改善すれば治ってしまう。たくさんの症例をやればやるほど、 いろいろな事がわかってくる。加齢により、リンパの流れが悪くなったものもあれば、生まれつきのリンパ管未発達の場合もある。 全体が悪い時も、部分的な場合もある。その流れが悪い場所により、いろいろな症状が出てくる。患者さんの話を聞き、 どこの流れが悪いか推測して治療していくのは、本当に面白い。2008.10.13

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