その他

真・サルカニ合戦

 カニがいました。理由はわかりませんが、おにぎりその他を持っていました。
 サルがいました。やはり理由はわかりませんが、柿の種を持っていました。柿の種と言っても元祖浪花屋(参考サイト)や亀田製菓(公式サイト)の方ではない、植物の方の柿の種です。そしてサルとカニは出会います。これは彼らが生まれる前から決まっていたこと、必然の出会いでした。

サルそのおにぎりと柿の種、交換しよう。
カニイヤだ。
サルおにぎりは一度食べればおしまいだけど、柿の種は植えて(8年)待てばたくさんの柿の実がなる。
長い目で見れば、柿の種の方を得た方が有利だ。だから交換しよう。
カニ‥‥じゃあ、あなたが柿を育てれば良いんじゃないか?
わたしはおにぎりで満足だ。
サルうっ‥‥(汗)
カニじゃ、そういうことで、さよなら。
サルま、待て! それじゃ話が‥‥
カニうるさいサルだな。めんどくさい。えい。

 ‥‥ちょきん。
 カニはサルの首を切ってしまいました。柿の種には目もくれず帰ります。
 帰ったカニを、たくさんの子ガニたちが迎えます。

カニ今日は変なサルに会ったよ。柿の種とおにぎりを交換しようなんて無茶なことを言うから、首を切ってしまったよ。
子ガニけらけらけら
カニ今日はこのおにぎりと豆腐、マイタケ、くずきり、その他でごはんだよ。もう少し遊んでおいで。
子ガニはーい。今日は菜食かー。

 そのころ、親ザルの帰りの遅いことを心配した子ザルたちから編成された捜索隊が、変わり果てた親ザルを発見し、泣いていました。
 そこにネギと卵と鍋を持った別ザルが通りかかりました。
 泣く子ザルたちをかき分け、親ザルの姿を見た別ザルは、切り口の鮮やかさから、これはカニの犯行であることを見抜き、子ザルたちにそう告げます。そして復讐に燃える子ザルとともにカニの家を探します。

 ほどなく、サルたちはカニの家を発見しました。言うまでもないことですが、カニの家と言っても北海道などにあるバイク乗りのためのカニの家ではありません。サルの首をハサミでちょん切ったカニの住んでいる家です。

 カニの家では、カニたちが今まさにごはんを食べようとしていました。そこに乗り込んだ、ネギと卵と鍋を持った別ザル・子ザルたち。いままさに豆腐、マイタケ、くずきり、その他の菜食でごはんにしようとしていたカニたち。

 躊躇なく、豆腐、マイタケ、くずきり、その他いっぱいの、おいしいカニ鍋をいただくサルたちでした。もちろん鍋のあとはおにぎりを崩して入れ、おじやにしていただきます。最後にとき卵を入れて一煮立ちさせれば完璧です。 (^ー^)

<了>

ああ、飲んで話してるときはもっと面白くなりそうだったのに。
すばらしい着想をくれたNくん申し訳ない。
俺が書くとむっちゃつまらん。

泳ぐ物乞い

 それは12月のある早朝、日本の観光客がベナレスから船に乗りガンジス川を遊覧している時に起こった。
 皆んなが無けなしの声をそろえて「久美子さ〜ん!」と叫ぶのに応え、聖なる川の西岸にへばりついている夥しい数の住居群に溶け込んでいて発見が少し難しい一軒の家に構えられた幾分か綺麗なベランダに二人の人間が現れ手を振ってよこす。船の上からは嬉しそうに手を振り返す者、わああっと意味のない叫びをあげる者、拍手する者、写真を撮る者、怠そうに無視する者、様々な反応が沸き起こる。パック旅行も半ばになると回復不能を確信するほどの疲労が蓄積される。だから観光客はほんの少しのエピソードさえ大切にするのである。
 船は倦怠を乗せてなおも進んで行く、客たちの気怠さと反比例して二人の人足が必死に漕ぐので軽やかに。
 「皆なさーん、御来光でーす」
 日本語の達者な現地ガイドは、客たちが西岸のウソ臭い沐浴や、汚い家並みや、パーンパーンと板に打ち付けて賑やかな洗濯や、キラキラ光る目でこっちを見ながら恥ずかしさのかけらもなく無邪気に排泄している子供ばかりをぼんやり眺め、当初の目的をあっさり忘却の彼方へと押しやっているのを30秒の長きにわたって確かめた後で言った。
 「あーほんとだー」
 「きれー」
 「うぅわあすげー」
 「にっぽんじゃーみれないねーこりゃー」
 くっつきがちな瞼をこすって振り返り、白濁した東の空に黄色っぽい小さな輝点を認め、ぱらぱらと口を開く日本人。御来光は川面に映え、幻想的な彼此の様相を呈している。
 川面を数隻の船がゆるゆる近づいて来て日本人を満載した船にぴったりと寄り添う。
 「ゴジュウルピーゴジュウルピー」
 外国客に目ざといインドの物売りたちである。観光船の両側に鈴なりにへばり付いた彼らの粗末な船の上から船同様に瓦解しそうなくらい華奢なポンプを見せ、キュッキュッとガンジスの水を汲み上げて示す物売りたち。数珠は地上の物売りに任せているのだろうか、彼らはそういったこまごました玩具しか船に積んでいない。極彩色の鳥が数羽で輪になり真ん中のテーブルをコツコツ叩くのや、極彩色の象が鼻と尻尾とをふらふら振る玩具、コブラを模したと思われるこれまた極彩色の物体が出たり入ったりする箱、先程のより幾分複雑な形状のポンプとか、そういった不必要で無意味なものばかり。決して高い価格ではないのだが日本人が手に取ろうとさえしないので仕方なく、
 「サンジュウルピーサンジュウルピー」
 値が瞬時に下落する。
 観光客たちは思慮深そうな高僧の面持ちでやっと商品を手に取り、ひとしきり関心を示した後で例外なく物売りに突き返す行為を数分間も続ける。その間も二人の人足は船を漕ぎ続けているのだが、周りにコバンザメのようにくっついてしまった物売りの船が全く自走しようとしないので、なかなか早くは進めない。
 「ジュウルピージュウルピー」
 船首から声が上がる。何がどんな経緯でそんなに値下がりしたのかを確かめようと全ての首が人足の肩越しにそちらを伺うが、違う。物売りではなく物乞いが水面に濡れた頭を出して、船首を、先のほとんど残っていない彼の指でつかんでいる。
 「いいいつのまに」
 「こいつここまでおよいできたんじゃねーのかー?」
 「すげーよゆびないのにー」
 「あしもねーぞー」
 驚く日本人にニッコリ微笑んで、彼が見事なストロークで泳ぎ始める。悲しい病のために指がなく、両足も膝から先がない人間が全く不自然さを感じさせないクロールで、しかも健常者と遜色なさそうな速さで泳いでいる。日本人のみならず、物売りや人足たちもこんな物乞いを見るのは初めてなのか、いったん仕事を中断して驚きの目で彼を見つめている。 彼はにわか仕立ての船団の周りを何度も周回し、立ち泳ぎさえ始めてしまう。膝から先のない人間が一体どうやってそんなに器用に泳げるのだろう、客たちは神秘的なものさえ感じ、拍手し始める。やがて彼は高らかに歌いながら指のない手をボコ、ボコ、と打ち合わせ始める。観客の拍手も手拍子になる。彼の不思議な歌と踊りとに、船上の全ての日本人はインドに来ていちばんの感動を味わっているようだった。
 ショータイムが終わり、彼が船に近づいて来る。ガイドの注意に忠実に財布ではなく胸ポケットに少しだけ入れるようにしていたルピーを取り出した日本人の顔は紅潮している。10ルピーどころではない金額を彼に渡そうとする者もいる。
 「サンキューサンキュー」
 彼は握手しながらルピーを回収する。握手というより、客が一方的に彼の手を握るだけなのだが。腹に巻いた布の間に沢山の紙幣が吸い込まれて行く。かなりの稼ぎになるはずだ。彼は嬉しそうにニコニコ笑っている。客たちも思いがけずに叶った現地人とのささやかな意志疎通に喜んでいる。
 「バイバーイ。ナマステー」
 「なますてー」
 彼が去って行く。手を振って見送る客たちに手を振り返し、彼は反動をつけて水に潜る。客たちは彼が最後にどんな演技をしてくれるのだろうとワクワクして見ている。
 しかし、その期待とは裏腹に、彼は二度と水面に顔を現さなかった。波紋がガンジスの水面をどこまでも拡がって行く。
 物売りたちが一言も喋らずに青い顔で彼を見つめ続けていたはずである。

<了>
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