学術的研究レジュメ もどき

title 風の谷のナウシカ
宮崎 駿   徳間書店



!!! ご注意 !!!



  • 宮崎 駿 『風の谷のナウシカ』(徳間書店 : 全7巻) を読む前に このレジュメを読むと、作品から得られるはずの感動が著しく損なわれる恐れがあります。

    ……じゃないですね。 損なわれること請け合いです。

    しつこいようですが、宮崎駿 『風の谷のナウシカ』(徳間書店 : 全7巻) をまだ読んでらっしゃらない方には以下の文章を読まずにいることを 強く お薦めします。映画版にしか触れてらっしゃらない方も同様です。映画と漫画とは、開いた口がふさがらなくなるくらい、まったく別の作品です。


  • ( )内の数字は 「巻」 と 「ページ数」 を表しています。
    例 : (1.p71) → 第1巻71ページ


  • IE 5.5 とネスケ 4.7 で確認しながら書きました。ネスケでも同じような外観で見れますが、両方持っておられる方はIEの方が良いと思います。


  • 本レジュメは、管理人が所属している「マンガ研究会」的な研究会において管理人が発表した(00/10/12,12/07)レジュメに加筆し、訂正したモノです。


もくじ (リンクしてます)

0 第一印象
1 初出
2 連載開始当初の現実社会
3 映画 風の谷のナウシカ
4 設定
5 物語を追ってみる
6 分析
7 分析ふたたび
8 宗教との関連



0 第一印象

幅取りナウシカはかわいい・こわい・正直・賢い・強い・けなげ・色気がない・母性的・etc.
ストーリーはひろい・深い(≠腐海)・複雑・むっちゃおもろい
宮崎 駿はスゴイ・人間中心主義という意味でのヒューマニズム
作品水準はかなり高い


1 初出

1-1 連載時期

  『風の谷のナウシカ』 は、13年間、5期に分け、月刊 『アニメージュ』(徳間書店) に連載された。

時期該当 巻 
幅取り1.1982年 2月〜1983年 6月       巻
2.1984年 8月〜1985年 2・4・5月        巻
3.1986年 12月〜1987年 6月       巻
4.1990年 4月〜1991年 5月         巻
5.1993年 3月〜1994年 3月         巻
          (各巻末の表示より)

1-2 単行本(7巻)

  各巻の状況
第1巻 1982/2〜9連載分(1982/9/25初版発行)
巨大産業文明滅亡後1000年、人類はわずかに残された居住可能な土地に点在していた。そんななかのひとつ、「風の谷」のナウシカは、ある日腐海で王蟲の抜殻に出会うのだが……。(※第7巻巻末紹介文より)

第2巻 1982/10〜1983/5連載分(1983/8/25 〃)
ペジテ市のアスベルと腐海から脱出したナウシカ。そのころトルメキア戦役がぼっ発し、ナウシカは古い盟約によって、トルメキアの第四皇女クシャナ軍に従軍することになる。(※ ただし誤植は訂正 [第三皇女ではない]

第3巻 1983/5・6、1984/8〜12連載分(1984/12/15 〃)
マニ族の僧正に失われた大地との絆を結ぶ、青き衣の伝説の実現だと予言されたナウシカは、再び戦役に参戦。一方、王蟲の大軍は南へと向かう。大海嘯を予感したナウシカはそれを追うのだが。(※)

第4巻 1985/1・2・4・5、1986/12、1987/1連載分(1987/5/1 〃)
大海嘯を確信したナウシカは、その原因を見届けるため、南へ一人旅にでる。旅路でチククや、土鬼の僧チヤルカに彼女は出会っていく。戦争は蟲の大軍に遭遇し、もはや両軍は撤退あるのみに。(※)

第5巻 1987/2〜6、1990/4〜7連載分(1991/6/30 〃)
土鬼の皇兄・ナムリスは弟から実権を奪い、ヒドラや巨神兵を復活させる。さらに彼はクシャナと政略結婚し、世界征服をたくらむ。世界は滅びの道を一気に歩まんとしていた。(※)

第6巻 1990/7〜1991/5連載分(1993/12/20 〃)
憎しみよりも友愛を! そして王蟲の心を……。
王蟲とともに森に同化しようと決意したナウシカは粘菌のなかへ飛び込んで意識を失う。世界には彼女が必要だとして救出に向かうチククとチヤルカ。一方、大海嘯がおこったために、トルメキア戦役は戦争どころではなくなっていた。わずかに生きのびた人々の間には憎悪のみが渦まく。そんなとき「人間の汚した、たそがれの世界で生きていく」決意をしたナウシカが復活。土鬼皇兄ナムリスと対峙する。(第6巻帯より)

第7巻 1993/3〜1994/3連載分(1995/1/15 〃)
いのちは闇の中のまたたく光だ!  ――風の谷のナウシカ ついに堂々の完結!
巨神兵オーマとともにシュワの墓所を目指すナウシカ。そこには人類を作り変えてしまおうと計画する、恐るべき墓所の主が彼女を待ちかまえていた。ナウシカの、そして人類の運命は……。 (第7巻帯より)
参考: 「腐海大鑑」http://www.ddt.or.jp/%7Ewatanabe/nausicaa/
(管理人の所持している単行本1〜5は重刷で初出状況が明示されていない。)



2 連載開始当初の現実社会

2-1 1981年

  神戸ポートピア '81、福井謙一にノーベル化学賞、北炭夕張炭鉱ガス惨事

幅取り2月23日ローマ法皇ヨハネ・パウロ2世来日。
7月29日チャールズ皇太子がダイアナ・スペンサーと挙式。
8月22日作家向田邦子、台湾の航空機墜落事故で死去。
9月1日東京で五つ子誕生。
TVDr.スランプ アラレちゃん ・ おれたちひょうきん族 ・ 北の国から
日本映画駅(STATION) ・ セーラー服と機関銃
外国映画炎のランナー ・ 黄昏 ・ レイダース/失われたアーク


2-2 1982年

  日航機羽田沖墜落、ホテル・ニュージャパン火災、東北・上越新幹線開通

幅取り3月10日1000年ぶりの 「惑星直列」 現象。
3月29日メキシコ・エルチチョン火山、大噴火。この影響で日本は冷夏に。
4月2日フォークランド紛争勃発。
11月9日堀江謙一、4年かけてヨットで縦回り地球1周に成功。
12月13日戸塚ヨットスクールにて訓練中の中学生死亡。
TV峠の群像 ・ 陽あたり良好! ・ 人形劇 三国志 ・ 笑っていいとも!
日本映画蒲田行進曲 ・ 転校生 ・ 遠野物語
外国映画ガンジー ・ E.T.


2-3 1983年

  田中元首相に実刑判決、大韓航空機撃墜事件、日本海中部地震

幅取り3月14日東北大のチームが日本最初の対外受精に成功。
4月15日千葉県浦安市に東京ディズニーランドが開園。
10月14日日本最初の対外受精児誕生(東北大医学部付属病院)。
TVおしん ・ 積木くずし ・ ふぞろいの林檎たち ・ キャッツ アイ ・ スチュワーデス物語
日本映画家族ゲーム ・ 細雪 ・ 戦場のメリークリスマス ・ 楢山節考 ・ 天城越え
外国映画愛と追憶の日々 ・ スターウォーズ/ジェダイの復讐 ・ ライトスタフ


2-4 1984年

  グリコ・森永事件、長野県西部地震、三井三池鉱業所有明鉱坑内火災

幅取り2月12日植村直巳、マッキンリー冬季単独登頂に世界で初めて成功、その後消息を絶つ。
2/8〜19第14回冬季オリンピック  [開催地] サラエボ(ユーゴスラビア)
7/28〜8/12第23回オリンピック  [開催地] ロサンゼルス(アメリカ合衆国)
TV山河燃ゆ ・ 不良少女と呼ばれて ・ うちの子にかぎって ・ オレゴンから愛 ・ スクールウォーズ
日本映画お葬式 ・ 瀬戸内少年野球団 ・ 麻雀放浪記 ・ 風の谷のナウシカ
外国映画アマデウス ・ インドへの道 ・ 1984

参考:「ザ・20世紀」 http://www01.u-page.so-net.ne.jp/ba2/fukushi/year/


3 映画 風の谷のナウシカ

    (紹介はするが、今回は扱わない)

幅取りです。監督宮崎 駿
 プロデューサ高畑 勲
 製作徳間書店・博報堂
 配給東映株式会社(90館)
 併映 『名探偵ホームズ』
 公開1984年3月11日
 動員(1次)91万4767人
 収益(1次)7億4200万円
 時間116分27秒05コマ
 キャッチ・コピ少女の愛が奇跡を呼んだ。
 受賞アニメ ・ SF部門は ほぼ総ナメ。ほかも多数。

 参考: 「腐海大鑑」http://www.ddt.or.jp/%7Ewatanabe/nausicaa/


 マンガと映画とではストーリーがかなり違う(映画はほとんど単行本2巻までしか反映していない)。管理人本人も映画 (TV放映) から入ったのだが、今回の焦点はマンガのみに絞らせていただく。

 と言いつつ当時の記憶を書くと、当時の管理人には 「お小遣い」 がなく、親に言わなければ映画を観られなかった。 『ナウシカ』 とまったく同時期に 『クラッシャージョウ』 『レンズマン』 も上映されたため 「どれを観ようか?」 と思案し続け、「同時上映もあることだしナウシカにしよう」 と決定した頃には地元映画館での上映が3作ともすべて終了していた。無念であった。( ;_ ;) 
 しかしアニメ以外の選択肢は本当になかったのか? これじゃオタッキーだった[である?]ことがばればれじゃないか。


 しばらく経って 『ナウシカ』 がTVで放映されたのを見たが、正直言って何がどうなってるのかさっぱり解らなかった。ナウシカが王蟲にはねられて死に、でも復活し、そこにいきなり 「予言」 が重なったのにはびっくりしたが、死も復活も予言も突然すぎる気がした。当時のわたしには勧善懲悪系の簡単なドラマしか理解できなかったと言っても恐らく過言ではないので、ラストでクシャナがどこかに飛んで行ってしまったのにも驚いた。だって、あいつはナウシカの 「敵」 なのだから、逃げずに死ぬはずだった。?( ^_^;)?
 といったような浅薄な理解しかできなかったわたしも、大学生になってから原作に出会えたわけだ。

 同時期に上記2作、『ナウシカ』 の1984年を挟んだ1983年3月には 『宇宙戦艦ヤマト完結編』、 1985年3月には 『超時空要塞マクロス』 が上映されるなど、当時は 「アニメブーム」 の渦中であった (管理人は完結編もマクロスも劇場で観ている。前者は親にねだって、後者は前年の苦い記憶から 「お小遣い」 を得て友人と)。

 手塚治虫は当時ものすごい勢いで 『ナウシカ』 に嫉妬していたらしい。(つまり実質的には絶賛?)
 ラスト、巨神兵の迫力ある戦闘シーンには 『新世紀エヴァンゲリオン』 の庵野秀明が関わっているらしい。どうりで。


4-0 設定

4-1 時間の設定

4-1-1 時代設定

  ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は
  数百年のうちに全世界にひろまり 巨大産業社会を形成するに至った
  大地の富をうばいとり大気をけがし 生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は
  1000年後に絶頂期に達し やがて急激な衰退をむかえることになった
  「火の7日間」と呼ばれる戦争によって都市群は有害物質をまき散らして崩壊し
  複雑高度化した技術体系は失われ 地表のほとんどは不毛の地と化したのである
  その後産業文明は再建されることなく 永いたそがれの時代を人類は生きることになった
   (各巻表紙見開きページ記載・巻頭言? より)

4-1-2 火の7日間

 「火の7日間」 は、1900年代末期に一部で囁かれ続けた 「近未来、恐らく1999年に来る最終戦争」 と捉えることも可能である。しかし産業革命は18世紀半ばに起こったものであるし、火の 「7日間で世界を焼きつくしたと伝えられる」 (1.p77) 巨神兵を製造する技術は現存しない。ということは、上記巻頭言や現実からは2700年代に起こったと判断するのが妥当か。(並行世界という線も捨て難いな。)



4-2 場所の設定

4-2-1 作品世界 ならびに 風の谷

  かつて栄えた巨大産業文明の群は時の闇の彼方へと姿を消し、地上は有毒の瘴気を発する
  巨大菌類の森・腐海に覆われていた。人々は腐海周辺に、わずかに残された土地に点在し、
  それぞれ王国を築き暮らしていた。
   ――風の谷――
  そこは人口わずか500人、
  海からの風によってかろうじて腐海の汚染から守られている小王国であった。
   (各巻裏表紙記載・巻末言? より)

 「風の谷」はナウシカの故郷であり、かつて 「大海嘯[だいかいしょう]」 でエフタル王国が滅びた際に散り散りになった人々の末裔が暮らす辺境自治国である。トルメキア王国と古い盟約を結んでいるため、トルメキア王国が戦争を始めれば一緒に戦わねばならない。(風の谷など辺境自治国にガンシップがあるのはそのためである。)


4-2-2 トルメキア王国

 風の谷の南西に位置する軍事国家。首都はトラス。ヴ王のもと、三人の王子と一人の姫 (クシャナ) がいる。第1巻で土鬼諸候国連合帝国に対し侵略戦争をしかける (トルメキア戦役:1.p71)。 ヴ王は土鬼諸侯国連合帝国が聖都シュワで独占していた「墓所」の秘密を手中にしたかったらしい。(7.p190)


4-2-3 土鬼[ドルク]諸候国連合帝国

 トルメキア王国(以下「トルメキア」)の南東に位置する宗教国家。皇ミラルパが治めていたが、物語後半では皇ナムリスが治めるようになる。初代神聖皇帝 (ミラルパとナムリスの父) が51の小国を統合 (2.p28)。 首都は聖都シュワ。シュワの中心には 「墓所」 がある。初代神聖皇帝以来、 「墓所」 の内部に隠された 「秘密」 を解読し続けているため技術水準はトルメキアよりも高い。だが 「粘菌」 で 「大海嘯」 を引き起こす。


4-2-4ペジテ

 風の谷の東に位置する工房都市。街の中央にある巨大な坑道から掘り出したエンジンを他国に売ることを主要な産業にしていたが、そこから巨神兵が掘り出され (3.p15,16)、 その秘密を守るため、トルメキアに滅ぼされてしまう。 王族唯一の生き残りがアスベル。


4-2-5 聖都シュワ・墓所

 土鬼諸侯国連合帝国(以下「土鬼」)の首都が 「聖都シュワ」 であり、シュワの中心にある巨大な黒い建造物が 「墓所」 である。 「火の7日間」 以前、旧世界の人間によって作られた 「墓所」 には、旧世界の 「知恵」 的なものがほぼ全部詰まっている。腐海が役目を果たし終えた後に到来する清浄なる世界を生きるべく製造された新人類のタマゴのようなものが内蔵されており、それを守り、時が来ると開放するのが最大の使命。
 ……なのか??



5-0 物語

 『風の谷のナウシカ』 の原作というか本編というべきか、とにかくマンガは、 「ナウシカは善、クシャナは悪」 という二項対立でも何とか見ることの出来た映画とは違うし、 「生命に満ちた森と話せるナウシカが善」 という似非エコロジー的な見方も通用しない。また、物語の結末部ではこの世界の全てが 「火の7日間」 前の人間によって仕組まれていたことが解る。遺伝子操作によって作られたものが自然に反する悪いものであるのなら、このマンガに描かれているものはすべて悪いものになる。また殺人や嘘を吐くのが悪いのならナウシカは悪い。つまり原作には 「よい」 も 「わるい」 もないと思われる。生きることを止めない登場人物たちがいる、それだけしか言えない。
 ストーリーの中に 「謎」 や 「解答」 が散りばめられている。それらは非常に多岐に亘る 「謎」 や 「解答」 なので、本レジュメは適宜マンガ本編を参照する。


5-1 トルメキア戦役

 風の谷付近にペジテ市の避難船がやって来て不時着に失敗、全員死亡する。ナウシカは瀕死のラステル (ペジテの王族。アスベルの妹) から 「秘石」 (実は巨神兵の起動・制御の鍵。:3.p16) を託される (1.p43)。
 直後、風の谷に、ヴ王の命を承けペジテ市を滅ぼしたトルメキアのクシャナが 「秘石」 を求めてやって来る。ナウシカは 「秘石」 を渡さずに追い返す (1.p66)。
 その日、トルメキア戦役が勃発 (1.p71)、 トルメキア王国が土鬼諸侯国連合帝国を攻め始める。


5-2 極相林

 族長として戦役に赴く直前、ナウシカはユパを秘密の部屋に案内し、腐海の植物は清浄な土に育てば瘴気を出さないという事実を告げる (1.p81-)。 直後、読者には、腐海が極相状態になれば清浄であるという 「秘密」 がユパとジルとの会話によって明かされる (1.p93)。 それらが何故かという謎は継続。


5-3 実際の極相林

 クシャナ傘下に組み込まれ、空中集合に向かう各辺境自治国の大船隊にアスベル (ラステルの兄) のガンシップが乱入、トルメキアのバカガラスを撃墜 (1.p95)。 いろいろあって、ナウシカとアスベルは腐海の奥深く(極相林)でマスクを外すが二人とも生きている (1.p125)。 それが何故なのかはやはり不明のままだが、極相林であるということを考えると、読者には腐海の目的は世界の浄化ではないかと推測される。ナウシカはアスベルに 「秘石」 を返す。



5-4 ナウシカの記憶   蟲愛ずる姫君?

 幼い頃、ナウシカは王蟲の幼生を育てていた。隠していたが、発覚し、取り上げられる。 (1.p129,130)

幅取りです。大人「こっちへわたしなさい」
ナウシカ「イヤッ! なにも悪いことしてないのに !!」
(梵字みたいなのを喋る)
大人「蟲と人は同じ世界にすめないのだよ」
ナウシカ「イヤ イヤ !!」

 ナウシカは腐海や蟲との共生を目指しているが、幼い頃から蟲を愛でていたということから考えるに、わたしには、それは別にエコロジーとか何んとかがしたいからではなさそうに思える。もちろん 「直感的に共生を先取りしていた」 と考えることもできるだろうが、彼女はただただ蟲や腐海が根っから好きなのではないだろうか。その 「好き」 が様々な仮説を生み、その仮説が彼女の研究や実際の経験で確かめられていくことによって、更に共生を目指していく、という相乗効果を生んでいるのではないだろうか。


 

5-5 土鬼との遭遇  青き衣の者

 腐海から脱出したナウシカとアスベルは土鬼のマニ族 (2.p109) の部隊にとらわれる。ナウシカは脱出する (アスベルは残るが元気です)(2.p36)。 クシャナの兄の裏切り (確定:2.p44) で得た情報をもとに、その部隊はクシャナ軍を攻撃する。戦闘は一旦クシャナ軍の勝利に傾くが、土鬼は飛行ガメで王蟲の幼生を吊して蟲の大群をおびき寄せ (2.p44)、 クシャナ軍を旗艦以外ほぼ壊滅させる (2.p61)。
 クシャナは中洲に取り残された王蟲の幼生をナウシカの指示で王蟲の大群に引き渡す (2.p75)。 その時ナウシカは王蟲の血に染まった青い服を着た姿で、心を開いた王蟲たちの夥しい数の触手に持ち上げられ(2.p78)、 各国に伝わる 「その者青き衣をまといて金色の野に降りたつべし」 という救世主伝説 [予言] をまさに体現する(2.p79)。 予言された 「その者」 はその世界の人間たちを 「青き清浄の地へみちびく」 (2.p127) はずである。予言の実現に気付いたのはマニ族の僧正。
 cf.) 手塚治虫は 『ブッダ』 でタッタに 「虫の気持ちはわからねえ」 と言わせていた。だが宮崎駿はナウシカと王蟲を至るところで交流させているし、ナウシカは人間からも蟲からも、巨神兵からさえも一目置かれている。


5-6 ナウシカの従軍は続く

 他の族長には帰国の許可が出たが、ナウシカはクシャナとともに戦闘部隊に残る。
 土鬼がどうして王蟲の子を捕えることが出来たんだと思う !?
 わたしの知る限り12回は脱皮している王蟲の子を捕らえるなんて不可能だわ
 腐海の中でそんなことをしたら わたしだってすぐ殺されてしまう
 何がおころうとしているのか判らない……
 でも何かとてつもないおそろこしいことが どこかで始まっている
 あれはその最初のきざしだわ
 王蟲はその何かを予知しているの 殺戮の予感におののいて
 尋ねても 心をとざしてしまった
 もっともっと ひどくなるって いうふうによ
 谷へもどって 父とユパさまに伝えてほしい
 腐海中の王蟲が動きはじめているって その理由をつきとめたいって……  (2.p86)

 風の谷のわたしが王蟲の染めてくれた土鬼の服を着てトルメキアの船ででかけるのよ  (2.p94)

5-7 大海嘯とは

 ナウシカは風の谷に戻るミトたちに 「大海嘯」 の危険性を伝えるように言う。しかしあまりに古い話なので詳しく知っている者が誰もいない。そこで、辺境一の長老、風の谷の、100歳をこえる 「大ババさま」 が呼ばれ、若い世代に 「大海嘯」 を説明する。

 「年代記」にもあるが 大海嘯とは
 腐海がとつじょ沸きかえり 津波のようにおしよせてくることなのじゃ
 火の7日間のあと3回あったとしるされておる

 最後の大海嘯は300年前じゃった
 そのころわれら辺境の諸族は エフタルとたたえられた強大なひとつの王国を形づくっておった…
 腐海はまだはるか大陸の内奥に遠く 砂漠には天の星のごとくオアシスがきらめていたという…

 エフタルの町々には火の7日間で失われた奇跡の技がいまだ大切に守られておった
 工房では天才が腕をふるい いまはない巨大な船が建造され交易にとびかっておった…

 やがてエフタルの平和に翳がさしはじめた
 王位継承をめぐる争いが全土にとび火し 泥沼の内乱と化したのじゃ
 戦士たちは王蟲の甲皮の武具を競ってもとめ 武器商人は抜け殻を探して腐海を狂奔するようになった

 欲にかられた者どもは腐海のなんたるかを知ろうとしなかった
 やがて武器商人は組織的に王蟲を狩る方法をあみ出したのじゃ

 その方法は伝わっておらぬ とにかくおびただしい数の王蟲が殺された
 いまも腐海をさまよう蟲使いは 帰るべき国を自ら滅ぼした 呪われた武器商人の末裔だという…

 腐海は怒りにふるえ ついにあふれ出た 無数の王蟲が発狂状態になって暴走をはじめたのじゃ
 しぶきのように胞子をまき散らす蟲の津波…

 阻止しようとするあらゆる努力は空しく 町々は王蟲の大波に次々とのみこまれ
 人々は死に王は滅び 奇跡の技も永久に失われていった…

 二十日の間 大海嘯はエフタル全土をおおい
 自らの生命が飢餓で果てるまで王蟲の怒りはおさまらなかった
 腐海から2000リーグも突出して王蟲は死んだ

 うずくまる王蟲のむくろを苗床にして
 胞子が菌糸を地中深くのばし地下の水脈をさぐり当て いっせいに発芽した
 むくろからむくろへと 黒い森は拡がり砂漠はやがて広大な腐海と化していったのじゃ

 わずかに生きのびた ひと握りの兵が腐海のほとりに住みつづけた…
 二度と自分たちの王を戴くことはなく トルメキアの属領となってな…   by 大ババさま (2.p87-90)
 直後、ナウシカの父・ジルが亡くなる。

5-8 土鬼の秘密

 腐海が世界浄化の鍵を握っていることをナウシカの秘密の部屋で確信したユパは、土鬼の船に飛び乗って (2.p103) 腐海へ向かう。そこで王蟲が培養されていることを知り (2.p112)、 マニ族に迎えられ機会を伺っていたアスベルとともに培養槽を破壊し逃げようとするが (2.p117)、 土鬼皇ミラルパに捕らえられそうになる。マニ族の僧正は皇弟と対決しながら、マニ族全員の心にナウシカが 「青き衣の者」 ・ 救世主であることを告げて死に (2.p128) 、 ユパとアスベルはその混乱の中を逃亡する。マニ族の僧正の死を感知したナウシカの心と皇ミラルパの心が対決しかけるが、今際の際のマニの僧正が最後の力を振り絞ってナウシカを逃がす (2.p134-135) 。


 

5-9 森の人

 ミラルパのもとを逃げ出したユパとアスベルは逃亡に失敗し墜落 (2.p63)。 「森の人」 に助けられる。
 ナウシカと同じまなざしの少年・セルム登場 (3.p83,86)。

 なぜか知らぬが蟲使いは森の人をとても怖れ敬っている
 森の人は蟲使いの祖にして最も高貴な血の一族 火をすて人界をきらい腐海の奥深く棲まう者
 蟲の腸をまとい卵を食し体液を泡として住まう……  by ユパ (3.p85-86)

 森の人も、森の生き物がいらついて南に向かっていることに気付いている。ナウシカもそう言っていた。そして、戦闘はいま南で激しさを増している。 (3.p89)
 回復したユパたちは森の人のもとを辞し (4.p31)、 森から出、巨神兵を運ぶ土鬼船と遭遇 (4.p33) して不時着したミトたちと再会 (4.p44)。( 5-17 へ)


5-10 瘴気

 クシャナは父ヴ王に裏切られたことを知り (3.p22)、 自分の直属軍である第三軍を取り戻しに行く。途中、瘴気に襲われ焼き払われた町に遭遇する (3.p24-54)。 直後、蟲さえ死ぬほどの瘴気を放つ森に遭遇、そのまま南下しトルメキアの最南端拠点へ。そこで第三軍本体と合流 (3.p100)。


5-11 戦闘

 土鬼皇ミラルパの軍と、トルメキア第四皇女クシャナの軍とが直接戦を開始する (3.p114)。 ナウシカは第三軍の人質となっていた土鬼の非戦闘員の解放と引き替えにクシャナと共に戦う。戦争はまだ続くが、この戦闘はクシャナ軍の勝利に終わる。

 ああ…… なぜだ なぜ青き衣の者がトルメキアの魔女とともにいるのだ
 土着の民の救世主ではないのか  by チヤルカ (3.p128)

 皇ミラルパは 「やむを得ん 蟲か森を使おう」 と言う。つまり蟲も人工的な腐海も土鬼の意のままのようだ。しかし森の毒がいつ消えるのかは不明。 (4.p21)

 そんなことも判らんではとても兵器とはいえん  by チヤルカ(4.p21)

 今までに出てきた人工の腐海を作り出す粘菌よりも更に強力と思われる新たな粘菌も土鬼博士たちの制御下で培養されている姿で登場。
 濃厚描写の戦闘後、ナウシカとクシャナの約束通り、土鬼の捕虜 (非戦闘員たち) が解放される (3.p156)。
 ナウシカは一人でメーヴェを駆りどこかへ消える。


5-12 クシャナの兄の死と蟲の群

 クシャナたちはカボの基地を目指して飛ぶが (4.p50)、 空を行く蟲の群に遭遇する。蟲の群が向かっているのが基地の方向であるため、その混乱に乗じて船を奪おうとしたクシャナだが (4.p62)、 思いがけず兄の一人に遭遇し、蟲の大群が来る前に飛び立てなくなる。兄は一旦離陸するが蟲に襲われクシャナの目の前で墜落し死ぬ (4.p76)。 母の敵でもある兄たちを殺すことを目的にしていたクシャナは一瞬生きる目的を失い、その諦観のようなものが蟲の大群からクシャナを守る (4.p84)。


 

5-13 青き衣の者・風

 単独行動を取っているナウシカはオアシスでチククと上人に会う (4.p87)。 言葉は通じないが、三人とも念話が出来るので意志疎通は可能。チククはナウシカが 「青き衣の者」 ・ 救世主だと確信する (4.p90)。

 じき腐海はあふれましょう 皇帝たちがシュワの封印を解いたのです
 世界を火の7日間へ導いた技の数々を土鬼の祖はシュワの地下深く封印したのです
 神聖皇帝は自らを救世主とし その技を解き放ちました
 神はこれ以上人間が大地を汚すことを許しません  by 上人 (4.p91)

 神聖皇帝以前は 「青き衣の者」 が救世主であるとする土着の教えが土鬼全土にあった。だが神聖皇帝は自らが救世主であると主張するため、その教えを邪教として退けていた。皇ミラルパはそのような者が現れるたびに異端審問にかけ殺害していたようである。


5-14 大海嘯・粘菌

 異常に濃い瘴気を感じたナウシカはチククを連れて逃げる。上空に出ると、土鬼の船が、自分たちが培養していた粘菌の暴走で瘴気をまき散らしながら進んでいた (4.p101)。 ナウシカはその船ごと粘菌を燃やし尽くそうとするが、皇ミラルパもその船に乗っていたため対決し (4.p107)、 粘菌を燃やすのに少し手間取る。ナウシカとの対決に敗れた皇ミラルパは別の船に乗って聖都シュワへ逃げていく。ナウシカは船を燃やそうとしていたチヤルカを手伝うが、燃やし尽くすことの出来なかった粘菌が傘になって地面に落ちる。蟲の大群はその危険な粘菌を食べ尽くそうとするが、強力な瘴気で狂い死に、逆に食われていく (4.p126)。 その他にも各地で粘菌が暴走を始めていた (4.p132)。 ついに大海嘯が始まる。


 

5-15 伝道者(敵)か否か

 ミラルパの忠臣であるチヤルカには、ナウシカが滅ぼすべき邪教徒に見える。だが狂信者には見えぬ (3.p146)。 言うことも道理に適っているし、実際に救われもし (4.p139)、 扱いに困る。

 青い衣の者などと 何かの間違いだ あの少女が帝国の敵であるはずがない  by チヤルカ (5.p66)

 チヤルカはそう考え、ナウシカが救世主であるという自分の考えを妄念として追い払う。 チヤルカ自身どこかで救世主を待望しているからこそ強く否定しなければならないのではないか。 だが、ナウシカは一人でも多くの人を粘菌から救おうと、チククの念話能力を借りて人々に呼びかけ避難させていた。その姿は白い翼を持ち青い衣を纏った伝説の救世主にそっくりであった。

幅取りです。チヤルカ「……邪教の伝道者と疑われて火あぶりになった者が何人もいるのだ」
チクク「ナウシカは伝道者ではない 使徒だ (中略) 白い翼の使徒だ」
チヤルカ「バカな あの少女はただの異教徒だ あの翼もエフタルの民が使う凧だぞ」
チクク「あたり前だ 使徒は人だ 翼が生えていたら化物だ チククはナウシカが好きだ」

 チヤルカはまた悩み出す。 (5.p75)


5-16 皇兄ナムリス    皇弟ミラルパは → 虚無になる

 瀕死の状態で聖都に戻って来た皇ミラルパが治療のため培養槽に入り、皇ナムリスが行動を開始する。まず皇ミラルパの培養槽に毒を入れ殺害 (5.p19)。 そしてヒドラを連れ自ら出陣する。皇ミラルパは虚無と化し、以後、ナウシカの心のカゲにつきまとう。


 

5-17 ユパ・ミト・アスベルたちとクシャナ

 合流した3人 ↑ ( 5-9 ) はカボへ向かい、腐海が広がりつつあることを知る (5.p38)。
 その付近で、死んだ兄を捜索しに来るはずのトルメキア軍を待っていたクシャナと出会う。


5-18 粘菌・ナウシカの浅薄さ (だが気付くだけすごいと思う)

 ナウシカは蟲たちを腐海へ帰らそうとする。が、突如、幼い頃に行った実験を思い出す。
 腐海で小さな粘菌をガラスビンに移した時だわ 粘菌は不安でうろたえて悲鳴をあげた
 他の菌の鉢に放してやったら自分より強い菌におそいかかって 喰いあいをはじめた
 よほどガラスビンの中がこわかったんだろう でも相手が強すぎて食べられてしまった
 数日後にびっくりすることが起こった
 あの粘菌が他の菌の中で元気にエサをあさっていたのだ
 食べられながら自分も食べてまじりあって いくつかの細胞は生き残っていたに違いない……
 そうだわ
 あの後はすっかり落着いて 食べたり食べられたりしていた
 だとしたら………………
 巨大な突然変異体も 普通の粘菌と同じ……?   by ナウシカ (5.p84)

 王蟲のいう たすけを求めている森が 粘菌のことだったなんて
 蟲や腐海にとっては突然変異体の粘菌すら仲間なんだ
 蟲たちは攻撃しようとしてたんじゃないんだ 食べようとしてたんだわ
 腐海の食草を食べるように 苦しみを食べようとしたんだ それが蟲と木々との愛情なんだ
 蟲たちは食べることができないので 自分たちを苗床にして森に粘菌をむかえ入れようとしている
 だからこの合流地に集まってきているんだ  by ナウシカ (5.p86)
 だから、王蟲の眼は攻撃色ではなかったのだ。


5-19 ナムリスとクシャナ

 クシャナたちは土鬼の皇ナムリスに遭遇。クシャナは捕らえられる。皇ナムリスはクシャナに、クシャナの部下たちの命と引き替えに「土鬼トルメキア二重帝国」を作ることを迫る (5.p114)。 ユパもヒドラの穴に捕らえられる (6.p41)。


5-20 王蟲とナウシカと虚無

 何も出来なかったことに絶望し、ナウシカは、粘菌を喰い粘菌に喰われようとする王蟲とともに、粘菌に飲まれ、死のうとする。そこに 「虚無」 が来る。

 とんでもないカマトトだよ お前は
 いつまでも無垢な子供でいようったって底がわれているんだ 王蟲はもう許しちゃくれまい
 お前は愚かでうす汚い人間のひとりにすぎないのさ
 お前は人間の大人だ 呪われた種族の血まみれの女だ   by 虚無 (5.p142)

 虚無にいわれるまでもなく 私達が呪われた種族なのは判っている
 大地を傷つけ奪いとり汚し焼き尽くすだけの もっとも醜いいきもの   by ナウシカ (5.p143)
 だが、王蟲はナウシカを体内に入れ、漿液で守る。死なせない。ナウシカは仮死状態になる。


5-21 森 腐海の尽きる所

 腐海の森に住む蟲使いたちは、森が広がったことを悦び、全部族が粘菌の合流地点に集まる。そこへ森の人(セルム)やチヤルカ、チククらによって粘菌の森の中から救出されたナウシカが、王蟲の漿液で守られた状態で現れる。

 森の人よ このお方は人の姿をした森です 両界の中央に立たれておられます
 どうか私共にこの方をお与え下さい 部族の守神にいたします」  by 蟲使い (6.p35)

 だがセルムはナウシカを実力で連れ去る(これによってナウシカは蟲使いたちの女神になる)。
 虚無がナウシカに迫る (6.p51) が、ナウシカはセルムらによって助けられ、安全な山腹で眠る (6.p56)。
 眠りの中、セルムのサポートを受けつつ、皇ミラルパの霊とともに、ナウシカは旅に出る (6.p64-)。
 ナウシカたちはナウシカの夢の森を抜け 「腐海の尽きる所」 (6.p87) に達する。そこでは清浄な土が生まれ始め、清浄な森が生まれ始めている。皇ミラルパはそこに消えていく。 (6.p93) (成仏・心の開放:6.p127)
 ナウシカは夢の世界を抜け、現実世界に復帰する。
 ナウシカにミトたちが合流する (6.p100)。


5-22 巨神兵

 大海嘯はおさまった。
 ナウシカは自分も蟲使いと同じ人間であることを蟲使いに納得させ (6.p119)、 だが彼らを放って、処刑されつつあるチヤルカをメーヴェで助けに行く (6.p124)。 そこからは皇ナムリスの船が出るはずだったが、そこに巨神兵が届く。ナウシカは艦上で皇ナムリスと対峙し巨神兵を焼こうとするが人工胎盤しか焼けず、却って巨神兵を世に解き放つことになってしまう。巨神兵はナウシカを母親だと思い込み、ナウシカを傷つけようとしている皇ナムリスを焼く。ナウシカは巨神兵に 「秘石」 を見せるが壊されてしまう。クシャナは皇ナムリス艦の実権を掌握する (6.p164)。


5-23 シュワへ

 トルメキアからはヴ王が出陣した (6.p105,117)。 「墓所」 の秘密を手中にするためである。ナウシカも 「墓所の扉を閉めて二度とこんなことができないように」 するため巨神兵とシュワへ旅立った。 (7.p11,23)。
 ナウシカは巨神兵に 「オーマ」 という名を与える。すると巨神兵は、それまでナウシカを 「ママ」 と呼んでいたのに 「母さん」 と呼び始めるなど、突然賢くなる。 (7.p34)。

 僕はオーマ 調停者にして戦士 そして裁定者………   by 巨神兵・オーマ (7.p51)

 多分どうでも良いことだが、巨神兵の商標には漢字らしきモノが使われている (7.p22)。 → 画像を見る
 たぶん重要なことだが、巨神兵の飛行姿勢はメーヴェを繰るナウシカに似ている (7.p37) 。 → 画像を見る

 …………
 ナウシカが………
 みんなをつなぐ糸なんだ
 ぼくらも 土鬼の人々も クシャナや 蟲使いまで
 ナウシカがいなければ バラバラにいがみあうだけだった
 なんていう重荷が あの少女の肩に のしかかっているのだろう  by アスベル (7.p56)

 アスベルやミトたちもシュワへ向かう。
 ナウシカはクシャナの兄たちの艦に一旦保護される (7.p42)。 テトが死ぬ (7.p.73)。


5-24 土鬼諸侯国帝国連合の滅亡 と ユパの死

 相次いで皇ミラルパ ・ 皇ナムリスが死んだことにより、土鬼を統べる神聖皇帝の血筋は絶たれた (土鬼諸侯国連合帝国の滅亡)。 だが大海嘯が終わり帝国が滅亡しただけであり、土鬼各国とトルメキアとの休戦はなっていない。混乱した状況下、土鬼の一部はクシャナを殺そうとする。しかし、ユパが盾となりクシャナを守る。ユパの死はナウシカにも感知される (7.p81)。


5-25 庭

 テトの亡骸を埋めるためナウシカはクシャナの兄たちの艦を兄たちとともに出て 「庭」 に行く (7.p120-)。 「庭」 はヒトの形をしたヒドラが世話をしている、世界が清浄になった 「後に世界を再建するための種」 (7.p134) の保存地であった (ただし人間はいない)。 異様に居心地がよいためクシャナの兄たちはここに残る。ここで謎の大部分が明らかになる (7.-p135)。 だが最終的な謎はシュワの墓所にある。ナウシカは 「庭」 を出て墓所へ向かう (7.p136)。


5-26 墓所

 ヴ王と巨神兵がナウシカより先に墓所に達している。巨神兵はナウシカの言いつけ通り墓所を封印しようとして火を吐く直前に逆に攻撃されるが、攻撃された後で火を吐き、墓所にダメージを与える (7.p160)。 ヴ王と道化は墓所から出てきたヒドラに案内され、その中に入る。アスベルも別ルートで中に入る。少し遅れてナウシカと蟲使いも中に入る。
 そして墓の主が姿を現す (7.p192)。
 ナウシカと墓所の主は論争する (7.p194-202)。


5-26-1 墓所の主との対話

幅取りです。墓所の主 子等よ……
手荒な出迎えを許しておくれ
武装を解き 平安に伝えねばならないわけがあるのだ
自らの愚かさゆえ 空しく亡びたあまたの人間を代表して そなた達に伝えたい
永い浄化の時に そなたたちはいる
だが やがて腐海の尽きる日が来るであろう
清き清浄の地が よみがえるのだ
浄化のための大いなる苦しみを 罪への償いとして
やがて再建へのかがやかしい朝が来よう

子等よ
私達はこの墓を 絶頂と混乱の時代に 英知を集めて建設した
その朝が来た時 世界の再建に 力になるようにと…………
わが身体に現れる文字を読み その技を伝えるがよい
すべての文字が現れた時 その日がくる
苦しみがおわる日が…

子等よ……
力を貸しておくれ この光を消さないために……
(7.p195,196)
ナウシカ  否 !!

あなた達はただの影だ!!

なぜ真実を語らない
汚染した大地と生物を すべてとりかえる計画だと !!
さっきの影達が腐海をつくり 旧世界を緩慢に亡ぼそうと仕組んだ者達か !?
お前は亡ぼす予定の者達をあくまであざむくつもりか !!
お前が知と技をいくらかかえていても
世界をとりかえる朝には 結局ドレイの手がいるからか

私達の身体が人工で作り変えられていても
私達の生命は私達のものだ 生命は生命の力で生きている
その朝が来るなら 私達はその朝にむかって生きよう
私達は血を吐きつつ くり返し くり返し その朝をこえてとぶ鳥だ !!
生きることは変わることだ 王蟲も粘菌も草木も人間も 変わっていくだろう
腐海も共に生きるだろう
だがお前は変われない
組み込まれた予定があるだけだ 死を否定しているから……
真実を語れっ
私達はお前を必要としない
(7.p196-198)
墓所の主  ……真実を語れか……
………どの真実をだね?

あの時代 どれほどの憎悪と絶望が世界をみたしていたかを
想像したことがあるかな?
数百億の人間が 生き残るために どんなことでもする世界だ

有毒の大気
凶暴な太陽光
枯渇した大地
次々と生まれる新しい病気
おびただしい



ありとあらゆる宗教
ありとあらゆる正義
ありとあらゆる利害

調停のために神まで造ってしまった
とるべき道は いくつもなかったのだよ
時間がなかった 私達はすべてを未来にたくすことにした……
これは旧世界のための墓標であり 同時に 新しい世界への希望なのだ幅取りです
清浄な世界が回復した時 汚染に適応した人間を元にもどす技術も
ここに記されてある

交代はゆるやかに行われるはずだ
永い浄化の時はすぎ去り
人類はおだやかな種族として新たな世界の一部となるだろう
私達の知性も技術も役目をおえて
人間にもっとも大切なものは 音楽と詩になろう
(7.p199,200)
ナウシカ 神というわけだ
お前は千年の昔 沢山つくられた神の中のひとつなんだ
そして 千年の間に 肉塊と汚物だらけになってしまった

絶望の時代に
理想と使命感からお前がつくられたことは疑わない
その人達はなぜ気づかなかったのだろう
清浄と汚濁こそ生命だということに

苦しみや悲劇やおろかさは
清浄な世界でもなくなりはしない
それは人間の一部だから……
だからこそ苦界にあっても 喜びやかがやきも またあるのに

あわれなヒドラ
お前だっていきものなのに
浄化の神としてつくられたために
生きるとは何か知ることもなく
最もみにくい者になってしまった
(7.p200)
墓所の主 お前にはみだらな闇のにおいがする
多少の問題の発生は予測の内にある
わたしは暗黒の中の 唯一残された光だ
娘よ、お前は再生への努力を放棄して
人類を亡びるにまかせるというか?
(7.p201)
ナウシカ その問はこっけいだ
私達は腐海と共に生きて来たのだ
亡びは 私達のくらしのすでに 一部になっている
(7.p201)
墓所の主 種としての人間についていっているのだ
うまれる子はますます少なく
石化の業病からも逃れられぬ
お前達に未来はない

人類は わたしなしには亡びる
お前達は その朝をこえることはできない
(7.p201)
ナウシカ それはこの星が きめること……(7.p201)
墓所の主 虚無だ !!
それは 虚無だ !!
(7.p201)
ナウシカ 王蟲のいたわりと友愛は
虚無の深淵からうまれた(!!)
(7.p201)
墓所の主 お前は危険な闇だ !!
生命は光だ !!
(7.p201)
ナウシカ ちがう
いのちは 闇の中の またたく光だ !!
すべては 闇から生まれ 闇に帰る
お前達も 闇に帰るが良い !!
(7.p201,202)
   中略
墓所の主 お前達は
希望の敵だ
(7.p202)

 論争は物別れに終わり、双方とも実力行使に出て、巨神兵を擁するナウシカが勝利する。
 墓所は封印ではなく破壊され尽くした。

以上で物語はおしまい



6-0 分析

6-1 青き衣の者

 いきなり断るが、この論はかなり無茶に思えるはずである。わたし自身この論を信じ切って言っているわけではないし。だがこの論を否定し尽くすことはできないはずである。

  「青き衣の者」 という言葉やそれにまつわる予言・伝説について、マンガ本編では7回登場する。
  ( 2.p78,79  2.p127  3.p97  3.p128  4.p29  4.p90,91  5.p75 )
  ( 本レジュメ  5-5  5-13  5-15
 土鬼皇帝はその予言を 「邪教」 として退け、そのような噂が出るたびに 「青き衣の者」 を異端審問にかけて火あぶりにしてきたが (5.p75)、 それは神聖皇帝が神であることを主張するためには神や使徒が神聖皇帝の他に存在しては困るからであった。


6-1-1 ナウシカ

 だが土鬼各国や森の人の間では 「青き衣の者」 の言い伝えが残っていた。昔現れた人間である (4,p29) という説もあるが、作品世界の大部分の人間は、ナウシカがそれ=救世主であると信じている。だがナウシカは人々をどこへ導こうというのか。慥かにある方向へ導きはしたが。
 チヤルカは皇ミラルパの忠実な僕であるため、救世主かもしれないナウシカをなかなか受け容れないが、次第に心を開いていく、というべきか何と言うべきか。

 ナウシカが 「青き衣の者」 であるかどうかは、結局わからない。チククが参照している絵 (4.p90 5.p75) には異様に似ているし、青い服を着て金色の野の上に立ったこともある (2.p78,79)。 また、ナウシカはそこからずっと青い服を着続けているし、また、各巻の表紙でも常に青い服を着ている。だが、それだけである。 (これを 「それだけ」 と言って良いかどうかは不明。いけないかも。だが作者がこめたメッセージを時に逸脱して進むことも作品解釈には必要である。)
 ただ全編を味わった今、言えるのは、ナウシカには人々を和ませ、ある方向に向かわせる力があった、ということである。ナウシカの周囲でたまたま偶然が重なっただけなのかもしれないが、しかしこれだけ重なれば、それは最早見過ごすことが出来ない。だから作品世界の人々はナウシカを 「青き衣の者」 ・ 救世主にしたのである。

 もちろんこの作品は単なるマンガである。だからこちらが望まぬ限り作品の内的世界が現実世界まで浸食してくることはあり得ない。だが、その内部ではいろいろなことが実際に起こっている。作品の中と外との見分けがつかなくなるからではなく、読者が積極的に作品中の物語を生きねばらならないと思いこみ、それが自分の使命だと誤解することで、作品世界という解釈の問題が現実世界に垂れ流され始める。例えば、『風の谷のナウシカ』ではないが、ある漫画作品に触発されて 「ソウルメイト」 という言葉が一人歩きを始めたりする。
 『風の谷のナウシカ』の中にある物語が一人歩きを始めなかったのは、部分を切り取ってそこだけを生きることが不可能に近いからではないだろうか。作品の何処を切り取っても物語が全部ついて来てしまうからではないだろうか。


6-1-2 巨神兵

 「火の7日間」 で世界を焼き尽くしたのが巨神兵。映画ではほとんど何もしないうちに崩れたが、マンガでは大活躍。未完成体なのに火を吐き、飛び、喋る。漢字文化圏で作られたモノである疑いが濃い (7.p22) (しかし各巻の表紙見返しや 7巻 P36 で彼らが持っている剣のようなものは一体なんなのだろう? 完成体は常にアレを持っているのだろうか?)

6-1-2-1 翼
 ナウシカはメーヴェを駆ることで翼を得たが、巨神兵にはそもそも翼が生えている。チククは 「翼がはえていたら化物だ」 と言った (5.p75) が、 巨神兵は歴とした化物である。

6-1-2-2 飛ぶ姿
 飛ぶ巨神兵を遠くから見た描画が一枚だけあるが (7.p37)[ → 画像を見る]、 それはメーヴェを駆るナウシカの姿に似ていないこともない。白い翼を持つ巨神兵。ナウシカの翼は付け焼き刃だが巨神兵のは本物だ。作品の中でナウシカだと信じられている絵(4.p90 ならびに 5.p75) は、あるいは巨神兵の飛行する姿であると考えることは可能なのではないか?

6-1-2-3 体の色
 作品中では巨神兵の体の色についてまったく触れられていない。だが巨神兵はまだ未完成体である。骨格しかないところに心臓が出来たのである (3. p15, 16)。 よって (?) 完成体が青き衣をまとっていたとしても全く不思議はない (? しかし各巻の表紙見返しや 7巻 P36 にみられる巨神兵がそのようなモノをまとっているようには見えない。‥‥映画では茶色だったよね。)

6-1-2-4 血の色
 「PLASTIC ARK」 http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Cell/2178/index.html でも指摘している通り、作品中では全く触れられていない。だが墓所の血の色が王蟲の血と同じ青色だった(7.p222)ことから考えて、わたしも恐らく青色だろうと思う (そうは言っても本当に根拠ないですよね)。 つまり、全身血まみれになれば、巨神兵は何も着なくても青をまとうのかもしれない。


6-1-3 管理人は

 6-1-2 のような分析をしているのだが、わたしは、個人的には、ナウシカが 「青き衣の者」 なのではないかと考えている。理由は、わたしが積極的に「そう信じたい」と考えているからであろう。
 わたしは別に 「巨神兵こそが 「青き衣の者」、 救世主だった」 と頑強に主張したいわけではない。が、そのように見ることも可能であることを指摘したいのだ。
 人間というのは (いきなり作品からはみ出させている)、 自分の信じたいものを勝手に信じ込んでしまうという性質を持った生き物である。作品世界に登場する一般大衆はナウシカと 「青き衣の者」 とを簡単に結びつけたが、実は選択肢は、以上のように二つある。
 繰り返すが、人間は、 自分の信じたいものを勝手に信じ込んでしまうという性質を持った生き物なのである。



6-2 腐海 ・ 墓所 ・ 庭 ・ 人間

6-2-1 それぞれの役割

 腐海は汚れた世界を浄化する役目を担っている。庭は浄化された後の世界に解き放つべき種の保存を担っている。そして墓所は、庭にはないもの・人間そのものとその知恵とを担っている。
 ナウシカはじめ作品に登場する人間は、墓所でオーマに握りつぶされたもの以外、 「火の7日間」 の前を生きていた人間によって何らかの遺伝子操作が施されており、腐海の瘴気がほどよく含まれた空気を吸わないと生きていけないし、作品の外の我々同様、綺麗事を言うだけで生きていることが出来ない。つまり、我々同様、争いを起こす性格を内包している。
 墓所で死に絶えた、 「新人類」 とでも呼称すべき人間たち・清浄になった世界を託された人間たちは、遺伝子操作を施された結果、そのような性格を持っておらず穏やかである。そんなものを人間と言ってはいけないような気もするが、ナウシカたちが生きられないほどに清浄な世界を生きるのにはちょうど良いのかも知れない。
 ナウシカたちは、汚れた世界で、心も体も汚れたままで生きている。
 墓所で死滅した「新人類」的な人類は、清浄な世界で、心も清浄に生きるはずであった。


6-2-2 それでいいのか

 ナウシカたちの世界では、仕組まれていないものなど何一つなかった。誰に仕組まれていたのかと言えば、「火の7日間」が起こる前にいた人間たち、つまり 「火の7日間」 を起こした人間たち、あるいはその同類の人間たちによってである。
 彼らは汚濁されきった世界を嘆き、腐海という浄化システムを作り上げた。自分たちの種を良い方に改善した子孫を製造し、それを保存・時が来れば解放するシステムも作り上げた。
 ナウシカたちも遺伝子操作によって腐海向けの体に作られているわけだから、腐海と共に生きることを担わされていたことになる。それは確実である。しかしそれはなんのためだったのか。わたしにはそれが全くわからない。完全に清浄な世界が到来すれば、進化しない限りナウシカたちは清浄すぎる空気が吸えず肺が破れて死滅してしまう。ならば彼らは何を担わされていたのか? 墓所のメンテナンスという役割を任されていたのか? 枯れ木も山のにぎわいという役割を担わされていたのか?
 わたしにはそれが解らない。なぜなら、どれもヒドラで事足りるからだ。
 何ににせよ、ナウシカたちには後見人がいない。1000年経てば邪魔になる、それがナウシカたちだ。仕組まれた世界観で見れば、今生きていることにさえ役割がない、それがナウシカたちだ。「火の七日間」以前を生きた旧人類から見て全てが役割を担っている世界から完全にあぶれたもの、それがナウシカたちだ。

 

6-2-3 ナウシカはなぜ墓所を破壊したのか

 ナウシカは、墓所が謎とその解答を小出しにし続ける限り自分たちの世界に争いが絶え間なく続くという事実を知った。神聖皇帝は墓所の技を以て土民を啓蒙し、よりよい世界を作ろうとしたが、挫折し、却って土民を恨んだ。それはなぜか。それは、墓所のルールを現実にあてはめようとしたからである。墓所には優れた技がある。だがそれを現実にそのままルールとして持ち込んでも、現実は現実だ。全くあてはまらないに決まっている。理想と現実とは違う。
 それとはかなり異なっているものの、墓所は、ある一つのルールである。すべてがある役割を担って存在しているという、ある一つの明快なルールを世界中に 押しつける 存在である。そして、墓所の主の言い方では、すべての存在は、新人類を解き放つために仕組まれて存在していることになっている。


結論 + α

6-3-1 旧世界の傲慢

 旧世界の人間から見れば、ナウシカの行動は単なる暴走である。プログラムでもないし、予測される誤差の範囲内の出来事でもないだろう。それだけ 「生命」 を甘く見ていたと言えるかもしれない。何より 「人類はわたしなしには亡びる お前達はその朝をこえることはできない」 (7巻 p201) という墓所の主の発言が旧世界の人間の傲慢さを表しているとわたしは考える。
 例えばクローン人間が誕生してしまったとしたらどうだろう? もちろん、クローン人間を造るという行為は許し難い行為であるとわたしは思う。だが、もし現実にクローン人間が誕生してしまったとしたら? それは確実に生命であるし、人間である。その人は自分で考え、自分で行動するだろう。わたしたち普通に生まれてきた人間たちは、その人の人格や人権を認めなければならないと思う。


6-3-2 現実を生きるナウシカ

 ナウシカは、今ある現実を自分たちなりに必死に生きている・生きようとしている自分たちを無視して進行している 「墓所」 というルールを許すことが出来なかったのではないだろうか。
 ナウシカも、 「清浄な世界を生きる清浄な人類」 という考え方に共鳴しないわけではないのかもしれない、だがナウシカは汚染物質にまみれた現実を現実に生きているのだ。ナウシカたちは腐海とは共存が可能である。しかし墓所とは共存が不可能である、なぜなら、墓所には危険な技が凝縮されているからだ。そこがどんなに高尚な役割を担っているとしても、墓所は外部にサポートを必要とし、そのために外部に危険な知識を垂れ流す。だから、現実に起こる争いを根絶するためには、ナウシカは墓所を破壊するしかない。


6-3-3 結論?

 旧世界の人間がそう考えているような、新人類をナウシカたちより上位に置いた道徳や倫理から見れば、ナウシカの取った行動は到底許されることではない。だが、新人類という可能性のために自分たちを犠牲にする選択肢よりも、現実を生きる自分たちのために墓所は必要ない、むしろ完全な害悪に過ぎないと考え、自分たちが生きるために何をすべきかという選択肢を冷静・冷酷に選び取った、それがナウシカなのではないだろうか。

<ひとまず 了>

7-0 分析ふたたび

7-1 場所

 作品世界に登場する場所は、大まかに言えば
   1.日常の場所(腐海のそば)
   2.腐海
   3.腐海の尽きる所
   4.庭
   5.墓所
である。なお、この全てを経験するのはナウシカだけである。


7-1-1 「日常の場所」と「腐海」

 作品に登場する人間の棲息範囲は上記の二つであり、多くは恐らくこの二つしか知らない。「庭」はほとんど誰にも知られていないし、「墓所」は何か秘密のある場所ではあるが「日常の場所」の中にある秘密の場所として理解されているのではないだろうか(無根拠)。


7-1-1-1 日常の場所(腐海のそば)

 腐海と海に挟まれた狭い場所がここである。読者の暮らす世界に近い。

 この場所には、おおむね自己の欲望を満たすことに専念している「人間」という生きものがいる。
 蟲が飛んできたり王蟲が走ってきたりして腐海の胞子をばらまかなければ、ある程度は快適に生きていける。読者から見ればかなり不便そうに感じられるが、しかし作品中の日常生活の多くはこの中で営まれている。大多数の人間はここで日常を暮らしている。


7-1-1-2 腐海

 腐海には蟲と巨大な菌類がいる。菌類は全ての有機物を無機物にする。蟲だけではなく、旧世界の人間が作り出した全てのモノを無機物に変え、世界の浄化を行っているのが腐海である(恐らく放射能のようなものを除去する役割も担っていると考えられる)。

 この場所には、人間の中でもより自己の欲望に忠実な「蟲使い」と、人間の中でもより禁欲的と思われる「森の人」がいる。両者を合わせても実数的には大多数の人間より少ない(「森の人」は「蟲使い」の一部であるし、「蟲使い」はその他の大多数の人間と交易を行うことで生活を維持しており、他の大多数の人間との関わりがなければ生きていけないようだから。流浪の民は定住民より必ず少ない)。
 腐海では人間はマスクをつけずに生きられないため、「日常の場所」よりは禁欲的な生活を強いられる。「蟲使い」は禁欲の反動のためであろうか、欲望を野放しにすることの出来る場所に出ると野放しにする。しかし、「森の人」はそうはならない、と言うか、ナウシカと関わることによって「森の人」の一部(セルム等)は腐海から出たが、これはかなり特殊な例なのではないか。そもそも「森の人」は腐海から出ない人間なのではないか。
 「蟲使い」は自分たちの国を持たないため、仕方なく腐海にいる。だが「蟲使い」の一部がそうなったと言われる「森の人」は、むしろ腐海とともに在ること、腐海の中に在ることを目的として腐海の中にいるように見える。
 「蟲使い」は帰るべき国を持たないため腐海をさまよう。「森の人」は自ら進んで腐海を歩く。


7-1-1-3 小分析

 生活に便利な土地と不便な土地があり、禁欲的な人間と、欲望に忠実な人間と、それらの境界例的な人間がいる(強引)。
 住んでいる場所に着目すれば、境界例的な人間は「蟲使い」である(「腐海」と「日常の場所」の中間で生活をしている)。だが精神的な面に注目すれば、境界例的な人間は「日常の場所」に暮らす人間たちである。


7-1-2 「腐海の尽きる所」と「庭」

 両者とも、多くの人間にはその存在が知られていない場所である。わずかに「森の人」は「腐海の尽きる所」の存在を知っていたが、「庭」についてはナウシカ以外に初代神聖皇帝しかその存在を知らなかった。旧世界の人間によって仕組まれていた場所であることに変わりはないが、「庭」を作ったのは旧世界の人間、「腐海の尽きる所」を作ったのは腐海である。


7-1-2-1 腐海の尽きる所

 腐海がその場所の浄化を完了すると、そこが「腐海の尽きる所」になる。おそらく地球上に一箇所である。今ある「腐海の尽きる所」は、今後どんどん広がっていくことが予測される。

 この場所にまだ人間はいない(神聖皇弟は「成仏」したらしい)が、人間以外の全ての生き物がいるようである。


7-1-2-2 庭

 旧世界の人間が世界再建のために遺した、腐海が出現する前に存在した世界から人間だけを除外した全ての生物がカプセル状に保存された場所である。

 この場所にも人間はいない。管理しているヒドラと、ヒト語を喋る他の動物がいる(なぜ彼らがヒト語を喋るのかは不明。再生された旧世界にそんなものが必要なのだろうか。いや、そもそも種の保存が目的であるのなら、ヒドラがここまでヒトっぽい能力を持っている必要はないのではないか)。


7-1-2-3 小分析

 腐海は全ての有機物を無機物に変える存在であるのだから、その中で「日常の場所」の植物や動物が生存を保つことは出来ないと考えられる。また、腐海には瘴気があるのだから、「日常の場所」に棲息している植物の種子には上空を通ることも許されるであろうが、動物が腐海の上を通って「腐海の尽きる所」に辿り着くことは不可能であると考えられる。
 だが、「腐海の尽きる所」には、植物だけではなく、蟲ではなく虫もいたし、鳥もいた。
 ということは、庭は数カ所在るのだろうか。

 「腐海」は「腐海の尽きる所」を作る。「腐海の尽きる所」では「庭」の解放によって土が生まれ始めているし、「日常の場所」で見られるような動植物も生活を開始している。

 腐海は今後どうなるのだろう。
 「腐海の尽きる所」と「腐海」の間の土地には無機物しかなく、「腐海」の食べ物がない。
 「腐海」は菌類である。菌類は有機物を求める。つまり「腐海」は自分たちの作った清浄な世界とともには生きられないため、「腐海の尽きる所」が広がれば広がるほど、自分の作った清浄な世界から追いやられるようにして、ナウシカたちのいる「日常の場所」に今後ますます押し寄せてくるだろう。
 このままでいけば、「日常の場所」は「腐海」の餌食になり、「腐海」は清浄な世界の餌食となり、清浄な世界は「腐海の尽きる所」の餌食になり、ゆくゆくは地球上の全ての場所が「腐海の尽きる所」になることであろう。


7-2 墓所 vs ナウシカ

7-2-1 墓所

 旧人類が、世界再建の要として作り出したのが墓所である(まるでジオフロントだ)。墓所は、庭が担っていないもの、つまり、人間そのものとその知恵とを担っている。

 墓所には、遺伝子を改良(?)されて大人しくなっている新人類のタマゴ状のモノがいる。
 墓所の中で道化の口を借りてナウシカに語りかけた墓所の主(ヒドラ)はナウシカにこう言う。

これは旧世界のための墓標であり 同時に 新しい世界への希望なのだ
清浄な世界が回復した時 汚染に適応した人間を元にもどす技術もここに記されてある(7.p199)

 滅びる寸前の旧世界が考えに考えに考えて作り出した机上の空論を実現しようとしたものが「墓所」である。しかし、現実は旧世界の人間の狭くて小さな頭脳で考えたほど甘いものではなかった。

 墓所は、旧世界の人間の作ったルールにのっとって存在している。また、「作品世界に登場するすべての存在は旧世界の人間の作ったルールにのっとり、新人類が降臨する時まで大人しくその役割を果たすべきである」という単純明快なルールを他の全ての存在に押しつける存在である。また、ナウシカと実力行使をし合ったことからも明確であるが、他のルールは可能性すら認めず、徹底排除を試みるような奴、それが「墓所」である。
 「墓所」の主の言い方では、作品世界のすべての存在は、新人類を解き放つために仕組まれて存在していることになっている。何より「人類はわたしなしには亡びる お前達はその朝をこえることはできない」(7巻 p201)という「墓所」の主の発言が旧世界の人間の傲慢さを表しているのではないだろうか。

 

7-2-2 ナウシカ

 旧世界の人間から見れば、ナウシカの行動は単なる暴走である。そんなプログラムはなかったし、ナウシカの行動は到底予測される誤差の範囲内の暴走でもなかっただろう。彼らはそれだけ 「生命」 を甘く見ていたのだ。

私達の生命は私達のものだ 生命は生命の力で生きている
その朝が来るなら 私達はその朝にむかって生きよう
私達は血を吐きつつ くり返し くり返し その朝をこえてとぶ鳥だ !!
生きることは変わることだ 王蟲も粘菌も草木も人間も 変わっていくだろう
腐海も共に生きるだろう(7.p198)

 生命は生きることを目的とした存在である(トートロジー)。少なくとも、ナウシカにとっては滅びようとして滅びていくものではない。「墓所」の維持管理に必要だから今は生かされているとか、世界の浄化が完成した暁には遺伝子を操作して作り替えるから待っていなさいとか、他人にそのようなことを言われて「はいそうですか」と返答するしかないほどに他律的な存在ではない。生き残る可能性は自覚的と無自覚的との違いこそあれ、自分たちで何とか模索していく、それが生命である。
 と、ナウシカは考えているのではないか。


7-3 破壊

 ナウシカが墓所を破壊しつくした理由は、以上のようなルールを押しつけてくるのが気に入らなかったためであり、ナウシカたちが生きるにあたり墓所が必要ないだけではなく害悪としてのみはたらく(6-2-3)ことであるのではないだろうか。

 巨神兵の再臨を予測し得なかったということは、彼らが本当に何も考えずに技術開発をしたということを物語っている。自分たちを破壊してしまうものを作っており、その制御方法すら開発していないわけであるから。土鬼が開発した粘菌と全く一緒である。土鬼は自らの作り出した粘菌によって滅び、旧世界は旧世界自らが作り出した巨神兵によって滅ぼされた。

 また、ナウシカやヴ王が墓所の主の言葉を受容して引き下がり、諾々とした日常を送るようになったとして、そのあとで隕石が直撃するなどしてそもそも「墓所」が蒸発してしまった場合はどうなるのだろう? そのような事態が起こることを旧世界の人間たちは一切想像していないのではないか。 そのような状況下でもナウシカたちは生きていかなければならないのである。やはり、「墓所」は要らない。


 

7-4 結論

 やはり、ナウシカたちは「私達は血を吐きつつ くり返し くり返し その朝をこえてとぶ鳥」なのだろう。
 旧世界のルールは、旧世界と、そのルールを積極的に選び取った者にしか通用しないのである。「清浄な世界に適応せずに血を吐いて死ぬぞ」というのは単なる脅しの言葉である。生命は、生命が想像し得る生命の範疇を超えて存在しているのだ。生命は、生命が想像し得る範疇を絶えず破壊しながら存在しているのだ。



8-0 宗教との関連(作品の外側との関連)

8-1 管理人の宗教観

 管理人は、一人一人の人間の上に現れる「宗教」を、その人の身の上に現れる、ある一定の約束事であると考えている。換言すれば、自覚的と無自覚的との違いこそあれ、その人が選び取り(選び取ってしまっていて)、今まさにその世界観や価値観に基づいて生きている、そのような世界観や価値観という約束事が宗教であるのではないだろうかと考えている。もう少し換言すれば、「積極的に選んでいる」約束事ではなく、知らず識らずのうちにそうしてしまっているような約束事が宗教なのではないかと考えている。例えば、「人間は死んだら浄土に行く」とか、「最後の審判を経て神の国に行く」とか、「高天原で神になる」とか、「黄泉の国に行く」とか、「無になる」とか、「宇宙的生命体の一部になる」とか、そういうふうに信じて疑っていない約束事が宗教なのではないかと考えている。
 もう一度換言すれば、「そういうふうになるのだとわたしは積極的に信じています」というものではなく、「えっ? そうなるんじゃないの? 他には考えられないなあ。否定されても困るなあ。君もそのように考えるべきだと僕は思うなあ(or まあ、あなたにこれを押しつけるつもりはないけれど)」という水準にまで達している約束事が宗教なのではないかと考えている。

 あるいは、「人間は善を求めて生きるべきである」とか、「人間は自殺してはならない」とか、「人間は他人を利するように生きなければならない」とか、その人が本心から「人間はこのようにあるべきだ」と信じていて疑っていない規範も宗教であると考える。だから、「わたしは仏教を信じることにしたからモノに執着してはいけないのだと考えてそのようにするのだ!」という営みも宗教ではないかと考えている。

 だんだん不可逆的にくどくなって来てると思うが、もう少し言うと、創唱宗教や民族宗教、民間信仰など、恐らく多くの人間が「宗教」という言葉からある程度一致した概念を想像するだろうと思うのだが、しかしそのようなものだけではなく、その人の言動や情動を左右する価値観を作り出す世界観、それらが全て「宗教」と言えるのではないか、管理人はそのように考えている。そのようにしてその人の全人格を統御している、その人に認識されることがないかもしれない約束事をすべて「宗教」と呼べるのではないか、と、そのように考えている。

 積極的に、いや、消極的にでも絶対視してしまっている世界観や価値観、信念をのみ「宗教」と呼びうるのではないか、わたしはそのように考えている。

 (もちろん論証も何もあったもんではないです。以上のような思考は管理人の「宗教」の一部なのでしょう。)
 (なお、発表したとき、管理人の思考への批判はかなりたくさんありました。)


8-2 約束事・ルール

 そのような考えで行くと、「墓所」の主がナウシカたちに押しつけようとしたある一定のルールも「宗教」なのではないか、と考えられるのである。

 「墓所」の主はナウシカたちに旧世界の人間の考えたプログラムを示し、自分がそう信じ切っているため、「あなたがたもこの考え方を受容し、世界の再生を待ち、世界の再生のために生きていくべきだ」という世界観あるいは信念のようなものをナウシカたちに押しつけようとした。
 しかしナウシカはそれを拒絶した。
 なぜなら、彼女には「墓所」の主が示したのとは異なる世界観あるいは信念のようなものがあったからである。だから、彼女は「墓所」の主の示したそれを受容することが出来なかった。のみならずそれと激しく対決せざるを得なかったのではないだろうか。


8-3 伝道 → ポア

 「墓所」の主は、ナウシカたちに対し、伝道を行ったのである。
「こんなに素晴らしい「教え(世界観あるいは信念)」がある。あなたがたにもこの素晴らしさは理解できるでしょう? 理解できたら納得できるでしょう? 納得できたら、受容することが出来るでしょう? ねえ。だったらわたしと一緒にこの「教え」に従いましょうよ。」
 対し、ナウシカはそれを受容することはなかった。もちろん理解は出来たが、納得も受容もできなかった。
 それを知り、「墓所」の主は態度を硬化させ、ナウシカをののしった。

 これは、伝道に失敗したため相手を悪し様に言ったのだ、と理解することが出来る。折伏したのである。言っても言ってもわからない奴はもうどうしようもない。「縁なき衆生は度しがたき」である。そこで「墓所」の主は、自分の受容している世界観を受容しようとしないナウシカを「希望の敵」と決めつけ、そのような者を生かしておいても仕方ない、むしろ自分の世界観に基づく理想郷を実現するためには害悪でしかないと判断したから、実力で排除しようとしたのである。これは間違いなくポアである。

 対し、ナウシカもポアで対抗したと言えるのではないだろうか。自分の身に危険が迫ってのことであったから、ナウシカにある程度の正当防衛は認められるだろう。だが、ナウシカは「墓所」の主と「墓所」全体、それから旧世界の人間たちの考えを受け容れられないためにそれらを実力で抹殺したと言っても過言ではないほどの行為をしたのである。

 物語のラストに訪れる双方の実力行使をそのように捉えることは出来ないだろうか。
 つまり、どっちもどっちだ、と。


8-4 要は、どちらも、価値観の押し付け合い

 わたしは先ほど

「7-2-2」
「生命は生きることを目的とした存在である。少なくとも、ナウシカにとっては滅びようとして滅びていくものではない。「墓所」の維持管理に必要だから今は生かされているとか、世界の浄化が完成した暁には遺伝子を操作して作り替えるから待っていなさいとか、他人にそのようなことを言われて「はいそうですか」と返答するしかないほどに他律的な存在ではない。生き残る可能性は自覚的と無自覚的との違いこそあれ、自分たちで何とか模索していく、それが生命である。
 と、ナウシカは考えているのではないか。」
「7-4」
「生命は、生命が想像し得る生命の範疇を超えて存在しているのだ。生命は、生命が想像し得る範疇を絶えず破壊しながら存在しているのだ。」と書いたが、
 と書いたが、ナウシカの主張・墓所の主の主張のどちらにも、その中には「これは真実だ」という根拠がない。あるのは、その内容を真実だと確信している自分の価値観、世界観、信念だけである。

 そのようなものが「宗教」なのではないだろうか。 以上。

<了>

参考:
   宮崎駿 『風の谷のナウシカ』 徳間書店
   腐海大鑑 http://www.ddt.or.jp/%7Ewatanabe/nausicaa/
   PLASTIC ARK http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Cell/2178/
   ザ・20世紀 http://www01.u-page.so-net.ne.jp/ba2/fukushi/year/



→ 「とけい」さん関連の文書もどうぞ! ←



ご意見・ご感想・ご不満などは、掲示板に書くかメールをください。
「Just a Little Bit of…」 のトップ日記