訪問歯科診療宣言


 高齢社会を繁栄し、在宅医療の発展は目覚ましいものがあります。歯科の分野も『口腔ケア』が認識されるとともにそのネットワークの中で重要なポジションを担うようになってきました。さて、在宅医療の中で歯科は何を目指していけば良いのでしょうか。
 私は、「往診」と「訪問診療」に大きな差があると考えています。往診とは、診療室に来られなかった患者さんに対し、歯科医師側が出向いて診療することです。つまり、外来診療の延長線上に「往診」は位置付けられると考えています。それに対し「訪問診療」とは、在宅医療、在宅介護のネットワ−クの一員として生まれてきた形態ではないでしょうか。
 さて、口腔(こうくう)とは単純に言うと口の中です。つまり『お口のお手入れ』こそ口腔ケアなのです。最近、この口腔ケアが注目されています。これは、東北大医学部の佐々木教授らが、誤嚥性(嚥下性)肺炎の発症と口腔衛生状態との関連を示唆してからではないでしょうか。歯科診療所を訪れる患者に対する口腔衛生指導は、歯周病(いわゆる歯槽膿漏)の予防の観点から重要視されています。しかし、在宅高齢者や無歯顎者(歯が無くなってしまった人)に対してはさほど注目されていませんでした。しかし、佐々木教授らは『口の中は肺の入り口であるのだから、そこが不潔であれば肺炎の可能性が増す』と指摘したのです。
 また、咀嚼(そしゃく)という言葉と嚥下(えんげ)という言葉があります。咀嚼とはものを噛むということ、嚥下とは飲み込むということです。われわれが診療室で診療する時、当然通常の食事がとれる人、飲み込める人を相手にしており、私たちの仕事は「ものを噛めるように」すること、つまり咀嚼できるようにすることが唯一絶対の目標です。ところが、寝たきりの状態になってしまった方の中には嚥下がうまく出来ない方がいるのです。そうなると、たとえ咀嚼できたとしても全く意味がありません。
 在宅ケアにおいてもっとも重要なことは「生きることを支える」ということです。私たちは歯科という専門性を生かして多くの貢献ができるはずです。訪問歯科という分野には教科書や講義、さらにはマニュアルもありません。それぞれの人が、それぞれの現場で、人間と人間のかかわりの中で考えて作り上げていくものこそ在宅ケアにおける訪問歯科の役割です。
 
 ここに宣言いたします。真の訪問歯科診療はケアであるということを。

(2002年5月5日)